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25.魔法の水筒

 この若い商人風の男は、椿に何かを語りかけながら水筒を手渡してきた。


「※※※※※※※※※※※※※※※、※※※※※※※!」


 手渡された水筒は軽い。先程、確かに桶一杯分の水が入ったはずなのに、だ。感心して、思わずおーっと声が出た。商人の男がキラキラ増しでドヤ顔している。試しに中身を桶に戻してみると、水筒自体が何個も入る大きさの桶が水で満たされる。水筒の見た目の3倍は体積があるようだ。


 触ってみて気付いたが、どうもこの水筒は椿の身体強化の魔力に反応している。手を流れる魔力が、水筒の飾り石に吸い寄せられて少し乱れる感じがするのだ。たくさん水が入る不思議アイテムだし、不思議パワーであるところの魔力が関わっていても何らおかしくない。この石に魔法が掛かっているのかな?


 商人君は他にも水筒を並べ始めた。路上販売か? いいのか此処で、椿しか居ないぞ。魔法のアイテムなんだし、さぞや高価だろうに。そも、椿のどこをどう見れば金を持っているように見えるのだろう。確かに、金貨を数枚持っているが。異世界の商人は、スキルでお金の匂いが判るのだろうか。


 まあ、折角だから見せてもらおう。この水筒は、水を入れても軽いし、持ち運びに良いかもしれない。何より不思議アイテムだし。


 並べられた水筒は、形は様々だが共通して注ぎ口の周りに似た装飾がある。どれもレリーフ付きの金具に石の飾りが付いている。 ……? ゴブさんの心臓の石に似ているな。ポーチから部長の石を取り出して、商人君に見せてみた。コクコクと頷きながら揉み手をしている、そうそうそれですよ、良いものをお持ちですね! って顔が言ってる。


 手持ちの石をすべて商人君に渡すと、ほ~だの、お~だの楽しそうに見分しだした。その間に、こちらも水筒を見せてもらう。石の飾りはゴブ石と違って、黒いガラスのように透明感がある。そして、どの石も薄く青色に点滅している、まるで鼓動しているように。うむ、ゴブさんの心臓…… 納得したような、出来ないような……


 商人君が陳列しなかった水筒が目に入った、彼のカバンの上に置いてある。他より小振りだが、蔓草の装飾がされていて実に椿好みだ、ひと目見て気に入ってしまった。


「それ、見せてくれませんか?『幾つ』『銀貨』?『金貨』?」


 水筒を指さして、話しかけると商人君が異世界語にポカンとする。お約束です。


 しばらくして正気に戻った商人君が、少し困った顔をした。注ぎ口の石を指さして、口元を指で撚る。髭? カイゼル髭? うぉっほんと咳払いして、カミラがやっていたようなポーションづくりの魔力込めの仕草をしている。そして、顔の前で手を振る否定の素振りをした。


 うん? この石は魔力を込められるのかな? そしてその水筒は、まだ石に魔力が籠もっていないから、売れないと言うことか?


 髭は何だろう、偉い人って事かな。


 とにかく、それが良い、見た目が良いのだ、欲しい。


「『はい』『ポーション』『錬金術』」


 自分を指さして、ポーションが作れる事をアピールする。次いで、ポーチからポーションを取り出して見せつける。多分だけど、石に魔力を込めるのは錬金術の範疇なんでしょ? 予感だけど、その水筒はカラクリ的なところは完成していて、魔力を込めるのを待つだけの状態なんだと思う。さっきの髭は、きっと錬金術師の一般イメージなんだろう。


「※※※、『錬金術師』※※※※※? ※※※※※※!」


 商人君は心底驚いたような顔をした。ここは畳み掛けるところだ!


「『幾つ』『金貨』?」


 腕を組んでうーんと唸る商人君は、とうとう『3金貨』と応えた。勝った! いや、買った! カミラも生活必需品である水筒を買うなら無駄遣いと言うまい! すぐに金貨を3枚、商人君の手に押し付けてから水筒を奪う。高いが仕方ない、絶対にこれは良いものだ。良いに違いない! さあ、錬金だ!!


 水筒のサイズは瓢箪みたいなものだ。見たまんまの容量だとすると、1リットルも入らないだろう。捧げるように両手で水筒を持つと、お椀のように合わせた両掌の中心に石が位置する。そうしてから、ポーションづくりと同じ要領で魔力を込める。精々、清らかな魔力を意識してみよう。


 ポーションと違い、渦を巻く魔力は石に吸い取られていく。ポーションは煮汁を撹拌したあと、殆どが身体に戻ってきたが、石は際限なく魔力を吸い取っていく。まるで、湯船に張った水が渦を巻いて抜けていくように、魔力は石に消えていく。


 程なくして、水筒の飾り石は白色の光を脈打つようになった。


 商人君が陳列した水筒の石は、すべて青色に点滅していた。そう言えば、カミラがポーションに込める魔力の色は緑色だったな。人によって魔力の色が違うんだろうか、属性ってやつかな? 椿の魔力は白色と言う事になる。思い出したけど、椿の作るポーションに浮かぶキラキラも白く光っていた。不純物だと思っていたが、魔力を込めすぎていたのかもしれない。


 完成した水筒を見て、商人君が目をひん剥いて驚いている。今度はこちらがドヤ顔をくれてやる番だ。ドヤーっ!!


 満足気に水筒を眺めていると、我に返った商人君が水筒に水を入れてみろと急かしてきた。まあ、動作確認は必要だな。バグで入れた水が別の水筒から飛び出してくるかもしれない、うん。


 商人君が桶に水を汲んでくれたので、それを水筒に注いでいく。ちゃんと桶一杯の水を入れることができた! ホクホク顔をしていると、商人君が鼻息も荒く新たに水を汲んでくる。装飾の豪華なこれは、他の水筒より高性能なのかもしれない、まだ入る。

 調子にのったふたりは、次々に水筒に水を注いでいった。桶に20杯を注いでもまだ溢れる気配がない。


 なんとなく、ヤバイものが出来たんじゃないかなと思い至る。水筒の性能だけで、他の水筒の20倍の容量は説明できない。明らかに椿が篭めた魔力の影響が考えられる。どうやら商人君も同じ思いのようだ、興奮も覚めてしまったようだ。桶20杯分の水が入っているとは思えない軽さの水筒を片手で掲げ、二人してどうしたもんかと顔を見合わす。


 ……まあ、出来たものは仕方ない。椿は、うんうんと頷いて、何事も無かったかのように腰に水筒をぶら下げた。商人君も、うんうんと頷いている。


 微妙な空気の中、商人君が水筒を片付ける。それから、腕を組んで何やら考えだした。しばらくすると、おもむろに靴を脱ぐと、底から見たことのない金貨を取り出した。隠し財布かよ……

 商人君は取り出した金貨と、別の無色の石が付いた水筒を椿に差し出してきた。うん、作りたくなるよな。欲に負けよってからにと、ジトーっとした目で見つめてやったが、真顔を崩さなかった。急に顔芸を止めるんじゃないよ。


 椿もお金と言う欲に負けて引き受けてしまった。お相子さまだ。それに、お金は多くても困らないからな!

 そしてこれ、多分、大金貨だ。金貨12枚分だ。こんなもの持ち歩くなよ……! 商人君は、それ以上で売れると見込んだのだろうか。まあ、腰にぶら下げられる重さで、大きな水瓶に丸1杯分はある水を運べるのだ。水の運搬が必要な地域では垂涎の代物だろう。


 同じように、水筒に魔力を込める。少し気怠さを感じてきた、魔力をたくさん消費すると反動があるのかもしれない。




 その後は、椿の水筒から商人君の水筒に水を注ぎ、また戻すと言う行為を繰り返して遊んだ。水筒から延々と水が湧き出て、もう片方の水筒が延々と水を吸い込むのだ。割と楽しい。キャッキャウフフと、まるでお花畑を駆けているような趣だ。現実逃避かな?


 ……水筒にどれだけ入るのかは、怖くて確認できなかった。


魔法の水筒を手に入れた! お値段は5万円だぞ、お買い得だ!

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