24.開拓村
進行速度が上がったのだ、夕方までに駅に着くと高を括っていた。
ここはどこだろう。とっくに谷間を抜けており、左手には森が迫ってきている。新しい身体強化開発の興奮も覚め、無駄に冷静になった頭で考える。道を間違えたのだろうか。
立ち止まった椿は振り返って、来た道を確認する。一段高い地平線に、ぽこりと凹みが見えるのが出てきた谷だろう。例の4人組はとっくに見えなくなっている。突然、つんのめったり、転んだりしながら、終いには凄まじい速度で走り出した椿を、彼らはどう捉えただろうか。……考えても仕方ない。
戻るにしても、彼らと鉢合わせるのは嫌だ。進むしか無いか。
更に爆走すると程なくして、駅よりも規模の大きい、柵で囲われた集落を見つけた。半ば森に埋もれたような形だ。潤沢にある木材で、かなり頑丈そうな柵を築き上げている。燻したのか、蒸し焼きしたのか、単純に色を塗ったのか、柵の木材は黒色だ。放火対策か、はたまた既に焼き討ちされたのか。
ゴブリンの部隊長を見るにつけ、人を襲う獣の中には道具を使うものがいる。火を使われる可能性があるのだ、下手したら魔法を使う獣が人を襲う可能性もある。火をかけられる可能性があると、防衛の難易度が跳ね上がるだろうな。
大門と言っていい大きさの木戸をくぐると、思いのほか人が多い。集落の反対側まで、まっすぐと通りが続いており、別の木戸が見える。すでに日も暮れており、僅かに残った茜色の陽の光が続々と戻ってくる人を照らしている。木戸の向こうを見たところ、森だ。ようは、ここは開拓の最前線なのだ。
昨日か一昨日に、道の先には街があると言った。確かに言った。街と街を繋ぐのが道と言う認識だったからだ。
まさか、繋いでいる最中とは。
今から引き返す訳にはいかない、宿を探そう。女が肉体労働に参加しに来たとは思われないだろう、下手したら体を売る方の肉体労働者と思われかねない。ひと仕事終えて、いい気分で酒を煽ったオヤジどもに絡まれるのも嫌だし。
入ってきた木戸のすぐ側に宿はあった。早々に寝て、昼まで宿で過ごそう。昼の間なら、みんな働きに出て動きやすいかもしれない。そして、全力で引き返すのだ。
宿で夕飯を済まし、タライにお湯を貰って身体を清める。寝床に転がると、魔力マッチョ化を解く。誰も変な目で見てこなかったあたり、見えないんだと思う。解除しても筋肉を構成していた魔力は散らず、殆どが身体に戻ってきた。魔法とは、不思議なチカラだ。これだけ便利なら、もっと使っている人が居そうなものだが。
翌朝、食事を取りながら、どうやって昼まで過ごすか考える。宿には椿しか残って居ないようだ。宿の女将さんのところまで、食器を戻しに行くと何事か声を掛けられた。手招きされるままに付いて行くと、大きな厨房のある建物に連れて行かれた。
どうやら男たちのお昼ご飯を拵えるらしい。他にも3名ほど年配のご婦人が居た。
じゃーん、助っ人でーす。みたいなノリで紹介される。ご婦人達も歓迎の相貌だ。まあ、構わないか。昼まで時間を潰せそうだ、ついでにお昼の賄いを頂ければ嬉しいな。
作るのは芋と根菜の煮物のようだ。ちゃっちゃと皮を剥き乱切りにする。身が白色の野菜は、お酢の入った水に放り込んで行く。お酒があるので、当然のところお酢もあるようだ。既に、黒い芋が下茹でされているし、どうみても豆な野菜が鞘のまま茹で上がっている。調理器具は地球で見知ったものに近い形をしていた。すべて鉄製で、薪を使うので真っ黒になっているな。流石にステンレスはないのかな、コストの問題だけで有るところには有るのかもしれないが。
料理は祖母に教わったし、祖父の道場で振る舞う料理の手伝いを散々してきた。一人暮らしが○年にも及んでいるが、ぶっちゃけ自宅では作らない。むしろ、このような大人数向けの料理は慣れたものだ。お手伝いと言っても、特に何かを指示されるわけでもなく、周りにあわせて下拵えを黙々とこなしていった。
マダム達に囲まれ小1時間、寸胴鍋3つにも渡る煮物が完成を待つだけの状態となった。
鍋を竈にかけている間に、肉の料理が始まる。
肉は解体された後のもので、正体は掴めなかったが鶏肉ではなさそうだ。醤油ベースであれば、是非とも椎茸を入れたかったが牛乳煮である。もっとも牛乳とは風味が異なるので、牛ではない何かの乳だろう。羊でも居るのだろうか。羊やら山羊の乳は味わったことがないから判別できない。
そして、完成した料理を頂くことができた。
いやー助かったわ、若い子が居ると良いね、あんたいつまで居るんだい。言葉は分からないが、例によって表情やらでなんとなく言っていることは分かる。愛想よく頷きながら煮物をつつく、芋ベースの牛乳煮はなかなか美味しかった。ほんのりと塩味がするが、何から出た出汁だろうか。椿の顔色を読んで、マダムの一人が解説してくれている気がする。言葉が分からないのが惜しい。ただ、芋を指さしている。指さしながら『芋』『芋』『芋』言ってるので、この単語は『芋』に違いない。また、ひとつ、賢くなったぞ!
・・・・・
お昼を過ぎて帰ってきた男たちが料理に群がる。マダム達が忙しく立ち回っている隙に井戸を使わせてもらう。水筒の水を入れ替え、手ぬぐいを洗っておく。椿に初めての異世界語『はしたない』を伝えたあの女性から頂いた手ぬぐいだ。この手ぬぐいも丈夫なものではない、近い内に破けてしまいそうだ。次の町でこそ、着替えを手に入れたい。切実に。
いつの間にか、商人風の男が近寄ってきていた。気を抜きすぎた、すぐに身体強化を施して警戒する。
そんな椿の様子なぞどこ吹く風で、男は装飾付きの水筒を取り出した。チラチラと椿の水筒に視線をくれてから、井戸水を水筒に注ぐ。はぁん? 立派な水筒ですね、凄いですね、とか心の中で毒づいていると、何やら様子が可怪しい。明らかに水筒の体積を超える量が入っていく。勇に桶一杯の水が入ったではないか!
あんぐりとしている椿に、男はドヤ顔をくれている。自慢か!!
しかし、新たな異世界アイテムの登場だよ。
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