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12.薬師との出会い

 再び雑魚寝スペースのお世話になった翌日、今度は街中を散策する。フードを被っていても不自然のない、朝の涼しい時間帯を選んだ。どうやら朝が早いのは商人達だけのようで、街をゆく人々の姿は少ない。


 商店は特定の通りに集まっている、荷降ろしに商談にと活気に満ちていた。例の服飾屋も、その通りに含まれている。広場を挟んだ反対側の通りには飲食店が集まっているようだ。これらの通りの外側に水路がある形だ。


 日本の村落のように、初めに施設を作り、それらの最短距離に道ができるようなものが合理的だと個人的には思う。形ばっかり綺麗にしても、上空から見ないと分からんだろうし。この街では最初に通りを引いたのだろう。都市計画にのっとって作られたとなると、更に上の統治機構があるのではと考えられる。または、今の王族が引越し先として作った新しい都市であるか。


 通りは放射状に広がっている。必然的に城壁の間際では、通りと通りが離れる訳だが、その間を埋める道は結局のところ碁盤のようになる。他には、教会や議事堂のような大きな公共施設から、新たに放射状に広がる形もある。


 それにしてもお腹が空いた。水路で飲んだ水を、その下流で垂れ流す作業を続けていては身が持たない。異世界の勇者達には王様から手厚い保護があるんだろうが、椿が貰ったのは致命傷と辱めだけだ。あれから糞女神が声をかけてくることもない。奴が管轄する地域を外れたのかもしれない。あのパルテノン神殿な雰囲気の場所では、風呂よりも食べ物が欲しかった。奴らはきっと食べる必要がないのだろう。必要がないから、食事を与える発想もないのだろう。風呂が要らないわけではないが。

 むしろあの風呂はよかった、また入りたい。


 商店通りのひとつ内側は、馬車が通れないほどの通りだった。路肩には手引きの荷車を散見する。どうやら職人通りのようだ。壁に大量の工具をぶらさげた店先で、金槌を振るうおっさんなどが伺える。食器が山積みにされていたり、作りかけの家具が並んでいたり、目を引くものが多い。


 これが観光ならどんなに楽しめたか。水筒とかないかな? お出かけに必須なんだけど。こんな状況なのに、少しわくわくするぐらいだ。


 でもその前に、お金を稼がなくては。お腹が空いたし。

 何かと先立つものが必要だ。

 言葉が通じなくてもお金を稼げる手段はないものか……





 通りを進み、街の外周あたりまで来たところで、大きな窓のある建物を見かけた。窓辺で試験管のようなものを振る女性が見える。そのガラス容器には青い半透明な液体が満たされていた。ポーションかな? 新たな異世界アイテムかな? 椿は思わず見入ってしまった。


 部屋の壁沿いには、束にして干した草が見える。薬草だろうか。薬研に鍋、試験管にその他、研究室っぽい諸々が内部に伺える。


 窓の外に立つ椿に気付いた女性が怪訝な表情を浮かべる。そこに段々と不快さが滲み出る。窓は少し高い位置にある。普通の人なら中を覗けないのだろう。けれども椿の背丈であれば、部屋の奥まで見えてしまう。


 目が合うと、シッシッと追い払うような手振りをされた。


 覗いたのはちょっと不躾ぶしつけだったかと、とぼとぼと歩きだす。

 薬草を買ってくれないかな、と期待もあったが残念だ。

 このまま外周まで出て別の通りを散策してみよう。


「※※※! ※※※※※、※※※※※※※※※※※」


 すると、後ろから声をかけられた。追いかけてくるのは先程の女性だ。

 よく見ると割と若いお姉さんだ。椿の腰にぶら下がったヨモギの束を指さしている。


「※※※※※※?

 ※※※※※※※※※※、※※※※※※※※※※※※※※」


 何事か言ってから、ついて来いとばかりに引き返していく。



 ・・・・・



 はじめての異世界のお宅訪問です。


 部屋に招き入れられた椿はキョロキョロと内部を見渡す。窓辺は床が2段くらい高くなっている、足元は収納なのだろうか。天井まである壁面棚には、本やら瓶やら草やらがみっちりと詰まっていた。錬金術師の部屋って雰囲気で、年甲斐もなくわくわくする。窓から離れたスペースは片付いているが、ショールームのような陳列物感がする。どことなく生活感がないのだ。普段この人は、この窓辺にしか居ないのだろう。


「んっ」


 お姉さんは手を突き出して、催促するような仕草をする。首を傾げていると更に、んっと手を突きつけてくる。


「※※※※※※※※※※※? ※※※※※※※※※※」


 腰のヨモギ束を指さしてきた。

 買い取ってくれるのかなと思いつつ手渡す。


「※※※※、※※※※※※※※※※※※※※」


 ブツブツ言いながら、窓にかざして見分けんぶんしだす。壁際にたくさん吊るしてある薬草であろう草の束を順に詰めていくと、一番窓側に手渡したヨモギ束を加えた。


「※※※※※※」


 そうすると、もう椿には用はないとばかりに、窓辺の机に戻っていった。


「あのー、買い取って頂けるのでしょうか? ギブミーマニー」


 声を掛けると、お姉さんはぎょっとしてこちらを振り向いた。


「※※※…… ※※※※※※」


 あ、怖がられてる。異世界人かはともかく、異邦人であることは直ぐに分かるものね。見た目も、言葉も違う。それに外套のフードも被ったままだ。


 その時、ドンドンと扉を叩く音と共に、外から男の声が聞こえてきた。


 お姉さんはどことなく早足で、こちらから視線を外さないように扉まで移動する。外の男と二言三言交わすと、ヨモギ束を2つほど抱えて戻ってきた。


 合点がいった。元々、業者か何かから薬草束の納品が予定されていたのだろう。私を業者と勘違いしたのかもしれない。先払いでもしていたのだろう、受け取るものを受け取ったら、使いの椿は用済みなはずだ。


「※※※、※※?」


 お姉さんの言いたいことは分かる、じゃあお前は誰なんだと。


 誰でも良いじゃないか、受け取ったんだから買い取って欲しい。ギブミーマニー。

 別に厚かましくはないと思う、対価を要求しているだけだ。お金か食べ物を要求したいが、どう伝えたら良いものか。


 先程のヨモギ束と、お姉さん、自分と順番に指を指す。両手を合わせてお願いのポーズ、と身振り手振りで、何か寄越せと伝えてみる。なんだか呆れたような表情を頂いた。


 軽いため息と共に椅子を引き、お姉さんは机に向ってしまった。


「※※※」


 あれ、仕事を再開してしまった。

お姉さんは不用心が過ぎる

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