9. リザードマンのお店 その1
「リザードマンっていうのはどういう種族なんですか?」
「リザードマンは知能が高く、剣技・体術に長けた種族です。その辺は人間に近いに近いですね。ただ、多分リザードマンの方が博之氏よりかなり丈夫です。」
「そりゃそうでしょうね。で、そのリザードマンが武具を?」
「そうですそうです。私の知り合いにお店を持ってるリザードマンがいるので、そいつのところまで案内致します。」
「ちなみにどれくらいかかります?」
「徒歩で30分くらいですね。」
「じゃあ駄弁りながら行きましょう。」
俺たちは談笑に花を咲かせながらドルトンと一緒に歩いた。道中、またスライムに出くわしたが、難なくピッキーが倒してくれた。20分程歩いたところで、前方10mほど先に初めて見る魔物が登場した。それは猪のようなやつで、皮膚が岩のようにゴツゴツしており、太い牙を2つ拵えていた。
「ブ〜」
「うわ、あいつめっちゃ突進してきそう。」
ピッキーとドルトンによるとあの魔物はブーイングという名前で、俺の思った通り突進をしてくるそうだ。むしろそれしかしてこないらしい。
「中々強烈ですぞ。奴の突進は。」
「どうする?マスター。」
「どうもこうも、倒さないと先進めないんじゃないですか?」
「もちろんですとも。」
「行くぞ、ピッキー!」
俺たちがゴチャゴチャ話しているのに気づいたのか、ブーイングがこちらを向いた。
「ブーブーブーブー!」
まるでエンジンのようにブーブー鳴き始めた。常にブーブー言ってるので怒ってるのか怒ってないのかわからない。
「マスター、そろそろくるよ。」
「おう。じゃあさっきのすげえ体当たりを頼む。」
「任せて。」
ピッキーは先程敵のスライムを倒した時のように力を込め始めた。しかし、それは猪の方も同じだった。
「突進対決ですか。果たしてどちらが勝つのか……」
ドドドドドド!
ズギューン!
猪とピッキー、両者凄まじい速度で飛び出した。その直後、ズドンと重い音がして辺りに砂煙が舞った。両者の姿が確認できない。
ピチャ……
顔に水滴が当たった。雨だろうか。いや、よく見るとそこら中に青い液体が。
「ってまたかーい!」
「ごめんマスター。厳しい。」
「ブ〜!」
一方、ブーイングは勝利の美酒に酔っていた。しかしそれも束の間だった。
ザクッ
「ブヒー!」
ブーイングは皮膚ごと何かに貫かれ、そのまま地面に転がった。どこから現れたか分からないほど分からない素早い攻撃は、ブーイングの断末魔をもってようやく認識できた。
「……我は強き者。おお、青年。また会ったな。ってなーんでドルトンもいるんだよ!」
「よっ、また会ったな。」
「こいつがピッキーをぐちゃぐちゃに!」
強い魔物を見るのは初めてだが、これは勝てそうにない。
「いや、俺じゃなくてもぐちゃぐちゃにされてるじゃん。」
「ぐうの根も出ない。マスター、私もっと強くなりたい。」
ピッキーが復活した。
「強くなるにはまず装備!さあさあ、こんな不良猫は放っておいて、早く行きましょう。」
「放っておいて大丈夫なんですか?」
「大丈夫でしょう。博之氏に危害を加えることはないはずです。もし何かあったら、その時は私が彼の相手しましょう。」
「ぐぬぬ。」
「ドルトンさんってもしかしてすごく強い?」
「強い♡」
「くそッ!ドルトン、頼むから邪魔しないでくれよ!」
「いや邪魔はしてない。」
「「「確かに」」」
愉快な会話をしばらく続けた所で、強そうな猫がそろそろ行くと言い出した。
「俺、いや、我は強きを追い求めておる。また戦いの匂いを感じた。その勝者と戦わねばならん。では、さらばだ。」
ヒュン、と風のようにどこかへ行ってしまった。
「なるほど、魔物とのバトルで勝った方に攻撃を仕掛けているわけですか。流石にこんな話し込んでしまった我々をもう襲うとは思えませんから、本当に大丈夫でしょう。」
「よかった。」
「でも、いつか対等に戦ってみたいよね。」
「そうだな。」
「目標はデカイ方が良いですよ。あんなクソ猫は倒しましょう。ではお店、行きましょうか。」
「あ、そういえば俺猫アレルギーなんだけど、アイツは大丈夫そうだな。」
「まあ魔物ですし、その辺りは大丈夫でしょう。」
歩き続けると、途中から川の流れている道に出た。
「この川を辿ると着きます。」
辺りには植物が増え始めており、図鑑でも見たことないような奇抜な色をした花や、特徴的な形をした葉っぱをつけたものもあった。
「ここがリザードマンのお店です!」
もうしばらく歩いて辿り着いたのは、熱帯雨林を彷彿とさせる木々と滝に囲まれた場所であり、そこには山小屋のようなものがあった。
「メーター、いるか〜?」
どうやら、そのリザードマンはメーターというらしい。一体どんな奴なのだろう。コンコン、と小屋をノックすると、待ってましたとばかりに家の主が姿を現した。
「はぁい!メーターでぇす!」
現れたのは、俺が思い描くリザードマンそのものだった。トカゲのような顔に2m強の人のような体、手先や足先は龍のようだった。しかし、声は男性なのに、つけている防具はどうも女性用で、口調が完全にオカマだった。
「うわ。」
「また濃いのが出てきたね。」
「やーね、アタシに濃いところはないわよ。全部ツ・ル・ツ・ル。」
「どこの話!?」
「……ドルトンさん、申し訳ない。急用思い出したから今すぐ帰りたいんだが。」
「私も急用あるかもしれない。」
「そんなこと言わずにゆっくりしてって!オニーサンたち!」
ガシッ!
そう言って、俺とピッキーはメーターに片手で抱え上げられてしまった。
「おい!離せ!」
「マスター、こいつめっちゃ力強い!」
俺たちは全力で暴れたが、万力のようなメーターの腕を振りほどく事は出来ず、悪あがきにすらならなかった。
「活きのいい子達ね。好きよ、そういうの。」
「「うわーーー!!!」」
「ようこそ、メーターのお店へ♡」
ガチャン。
「……相変わらずだな、アイツも。」
置いていかれたドルトンは、やれやれといった顔をして小屋に入っていった。
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メーター【リザードマン】
生命力 450
身体能力 48
知力 32
魔力 20
愛 30
称号
【達人・鍛冶屋】
その者の鍛えた技術が並外れたものであることを証明する称号
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【ブーイング】
生命力 【25】
身体能力【18】
知力【2】
魔力【1】
愛【0】
称号
【猪突猛進】
突っ込むことしか知らぬ者に送られる称号
猪のような魔物。というか、猪。もちろん突進が得意。皮膚は岩のような見た目をしており、実際硬い。
【ドルトンによる実食レポ】
肉は臭くて硬いので、食べるのは厳しいですな。どうしても食べなければならないなら、香りの強い植物と一緒にしこたま煮るしかないでしょう。
6/12. 初めて掲載した際にメーターの参考ステータスの生命力が50になっていましたが、450でした。4が抜けてました。