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押入れ、ダンジョン、愛、無限(仮)  作者: 凸レンズ
ダンジョンと出会い
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4. いざ、ダンジョンへ その1

4. いざ、ダンジョンへ その1


「へっくし!」


 いや〜寒い。いくら防寒しても寒いものは寒いが、買い物のために渋々家を出た。近所のスーパーへ最短経路で、なおかつ早歩きで向かう。


「重っ!」


肉、キャベツ、もやし、冷凍食品、お菓子、飲み物、洗剤、などなど。食材と生活用品をひとしきり買い貯めた。大荷物を持って、愛するペットの待つ我が家へとのしのし歩く。


「ふー、ピッキーただいま。」

「ピキー!」


俺が帰るとちゃんと出迎えてくれる。まるで忠犬のようだ。まあ、俺犬嫌いなんだけどね。小さい頃に追いかけ回されたのがトラウマだ。


体が冷えたので、ココアを飲むことにした。お湯を沸かしている間に、買った物をしまい、コップ等の用意をする。


沸いたお湯をコップに注ぎ、市販のココアパウダーを入れると、ココア特有の甘い匂いが立ち込める。いやあ、たまりませんな。ココアを持ってリビングのテーブルの前に座り、一口啜る。


ズズッ


「ふぅ」


優雅だ。10時過ぎ、こんなにのんびりしていていいのだろうか。朝早く出勤するサラリーマン、試験に追われる学生、冬の寒さに生身で挑む野生動物。俺はそのどれでもない。それは生命として許されるのだろうか。そんなことを思っていると、足に重みを感じた。


「キュ〜」


胡座をかいて座っている俺の股座に侵入者が現れた。我が物で(※顔はない)、まるで猫のように丸くなっている(※常に丸い)。


「うーん、許す!」


うん、これは許される。かわいいから。ちなみに俺は猫アレルギーなので猫には触れない。昔公園の猫と遊んだ時にぶっ倒れたらしい。あの猫、なんて呼んでたっけなあ。


ピッキーを膝に乗せていると、ふと、押入れが気になった。そういえば、ピッキーが来てから押入れを開いていない。なぜピッキーがうちに来たのか、その真相を確かめていない。それは知る必要があるだろう。もし、ドラゴンなんかが押入れに入っているようなことがあったら堪らないからな。


トントン


自宅の押入れにノックをする。字面にすると相当おかしなことをしているのが分かるが、俺は至って真面目だ。……反応なし。さて、鬼が出るか、蛇が出るか……。深呼吸をして、取手に手をかける。中学の頃のテニス部では、打つ時に大きな声を出せと教わった。


「だりゃあああ!!!」


押入れをかつてないほど思い切り開けた。そこには何もない、はずだった。押入れに入れてあったものは特になかったからだ。確かにそこには何もなかった。その代わり、洞窟がぽっかりと口を開けていた。


「な、なんじゃこりゃ!」


***


 モニタールームにて、真紅の防具を身につけた女性とローブを羽織った初老の男性が会話している。そんな時だった。


「やはりあのスライム、やっぱり帰って来ませんね。」

「それどころか、あの扉はあれ以来開くことはなかった。」


トントン


「「!?」」

「35!そ、外側からノックの音です!」

「あの扉からか!?」

「そのようです!」


「開くかは分からないが、また魔物が迷い込んだらまずい。私が直々に向かおう。」


「お伴します!」

「よし、ここは残りの者に任せる。何かあったら増援を寄越してくれ。ではアルト、参るぞ。」

「はい!ドルトン様!」


初老の男性ドルトンと、彼と話していた女性アルトはExit35に向かって走り出した。その直後、残ったドルトンの部下達から連絡が来た。


*「隊長、やばいです!」

「モニタールーム、どうした?」


*「35から我々と同じ二足歩行の生命体がスライムを抱えて出てきました!」

「「なにぃ!?」」


***


 俺はピッキーを抱え、意を決して洞窟に入った。不思議と、洞窟の中はぼんやりと明るく、ライトなしでも進むことができた。壁自体が少し発光しているように思えた。ダンジョンの壁は紫色で、サツマイモに囲まれているような気分になった。ちなみにこんな呑気な例えをしている場合ではない。


「さて、どうしようか。」


別に分かれ道が現れたわけでもなく、ただ真っ直ぐに歩き続けているだけなのだが、誰にというわけでもなく尋ねていた。しかし、これに返事あり。


「そうね。」

「え、誰?」


激しく狼狽えながら辺りを見渡しても誰も、何もない。つまり……


「やっと、話せたね。」


「ピッキーしかいねえじゃん!お前喋れたならもっと早く言えよ!」


「私はここじゃないと喋れないのよ。漂っている魔素が意思疎通をしてくれてるの。って、あなたは何も知らないか。」


「魔素?」


「あなたの世界でいう酸素みたいなものよ。酸素よりも汎用性あるけどね。私たち魔物は魔素があれば飲まず食わずでも大丈夫なの。」


「そうなのか。まあ、もう俺がファンタジーの世界に取り込まれているのは察しているから自分の目で見たことに関してはもう驚かねえ。」

「へぇ、驚かないんだ。約束だよ?」

「おう、大丈夫だ。」


俺は大きな決意を胸に、大きく一歩踏み込んだ。


「……ところであなたのその足元の花、火吹くわよ。」


ピッキーがそういうと、俺の足元にある異形の花が火を吹き出した。


ボボボボボ!


「のわあああ!ガスバーナーかよこいつ!」

「この子はヒフキソウ、びっくりすると火を吹いて攻撃してくるの。何もしなければただの花よ。」

「そ、そうなのか?」


俺はその花をまじまじと見つめた。百合のような花弁だが、その中心には火炎放射器が備わっていた。15cmほどの大きさしかないのでちょっと強力なライター程度と見なすこともできるが、火を吹く花があるなんて驚きである。


「驚いてんじゃーん笑」

「俺が悪かったよ……」


魔物はスライム以外にも存在する。当たり前の事実だった。これからどんな奇天烈な奴が出てくるかわからない。気を引き締めて進もう。俺はそう固く誓った。そして


「驚かせちゃってごめんな、君。」


足元のヒフキソウに謝った。


「よし、先へ進もう。」

「ピキー!」

「急に戻すな。まあ、どっちでもいいけど。じゃあな、ヒフキソウ。」


先ほどのヒフキソウに目をやると、それはまっすぐこちらに花弁を向けていた。


「後で戻ってくるから。またそのときな。」

「バイバーイ」


ヒフキソウは2つある大きな葉っぱの1つで手を振っていた。実際、このヒフキソウとはまた相見えることになる。まあ、帰り道だからな。


***


 ドルトンとアルトの2人はExit35に向かって走っていた。


*「そこを右、そのあと2つ目の角を左に曲がってください!」

「あいよ。はあ、はあ。意外と遠いな。」

「そうですね……、こんな運動久々です。」


ドルトン「こんな僻地に飛ばされて早50年、すっかり体も鈍っちまった。平和過ぎってのもよくねえな。新しい果て探しはほとんど散歩みたいなもんだし、そもそも最近果て全然見つからねえし。」


「……ドルトン様、ちょっとワクワクされてません?」

「バレた?いやー、やっぱり退屈ほどつまらないものはないのだよ。」

「仰る通りで。」

「そして俺たちは今、その退屈から解放されようとしている!」

「解放されようとしている!」

「「行くしかなーい!」」




「む、分かれ道か。」


 キャッキャ、ガハハ、と笑いながら猛進する2人組の前に、5本ほどの分かれた分岐点が現れた。


「モニタールーム、この分かれ道はどうしたらいい?」

*「左から2番目の通路を道なりに進めばExit35に着きます。」

「そうか、ではここからは歩くとしよう。もしあの二足歩行の生物に敵意があれば戦う必要がある。ここからは慎重にゆくぞ。」

「かしこまりました。」

「モニタールーム、奴らの動きは?」

*「いえ、特に。依然ゆっくりと直進しています。一応伝えるべきこととすれば、彼らは途中の魔物と交戦はしておりません。」

「そうか、話のわかる奴だと仕事が楽でよい。」

「とか言ってますけど本当は大暴れしたいんじゃないんですか?」

「またバレた?」

「自分から気をつけろって言ったくせに緊張感消さないでくださいよ!」

「だって、魔物傷つけてないらしいし大丈夫そうじゃん?」

*「……敵意はなさそうですが、気をつけてください。」

「もちろん。」


そういうと、ドルトンは羽織っているローブの切れ目から煌めく白刃を覗かせた。


「いざという時にはこれで戦う。これでも現役だ。」

「私だって現役ですよ。ピチピチの」


両手のひらに炎を纏わせる。その炎はやがて棒状になり、ブワッと散る。炎はきえたが、

彼女の手には炎の形通りの真っ赤な棍が握られていた。


ドルトン「……なんかお前の方が演出いいような気がするわ。」


アルト「ピチピチですから!」


棍は炎を帯び、アルトの手の中に帰っていった。


「俺もなんか派手な魔法勉強しようかなあ。」

「それこそ暇なうちにやるべきだったのではないですか?」

「俺は勉強が嫌いだ。」


話をしているうちに、彼らは博之とピッキーのすぐそこまで迫っていた。


ーーー



ヒフキソウ【プラント族】


生命力 5【5】

身体能力 1【1】

知力 2 【2】

魔力 3【3】

愛 1 【0】


称号

【ビビリ】



白百合によく似た花弁に、火炎放射器が備わった、見るからに火を吹きそうな植物。びっくりすると火を吹くが、普段はもちろんおとなしい。葉や茎、花弁も器用に動かせるが、根をはっているのでその場から動けない。それを含めて身体能力は低め。




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