2. ドラ◯もんじゃないぞ その2
こ、これって、スライムだよな???
べちっ
……
飛び出してきたスライムは俺にぶつかったが、俺は全くダメージを受けなかった。
「ピキー!」
べちっ
スライムはまた俺に飛びかかってきた。先ほどよりも勢いがあったが、大輔にど突かれた方がよっぽど痛い。予想はしてたがコイツ、もしかして弱い?
「ピ、ピキー……」
敵わない相手だと悟ったのか、スライムは攻撃するのをやめた。心なしかしょんぼりしている。多分殴ればワンパンできると思うが、俺は無益な殺生はしない主義なので、そういうことはしない。
とりあえずスライムを眺めていたが、こいつは中々かわいらしい。体は20cmほどの大きさで、綺麗な青色をしている。そして罪深い程にぷるぷるした質感が俺を誘う。触っても大丈夫だよな?
項垂れているスライムに手を伸ばす。触れた瞬間、スライムはピクッと反応したが、気にせずに触り続ける。……うーん、これは癖になりそう。ぷよぷよした触感に、ひんやりとした触っているだけで癒される。
しこたま撫で回したところで、眠気が主張を始めてきた。もう2時を回っていた。明日から人生の夏休みとはいえ、やはり規則正しい生活を送る必要がある。寝るか〜
「ピキュ〜」
寝れるわけねえだろ!あれを放っておくわけにはいかない。どうしたものか。
「押入れに戻したら消えたりとか?」
元いた場所に戻せば良いのでは、と考えスライムを押入れに入れ襖を閉める。
ドコッ、ドコッ!
こりゃあかんわ。渋々襖を開ける。
「ピッキー!」
初登場シーンよろしく、スライムはまた俺に突っ込んできた。と思いきや、放物線を描いて優しく俺の胸に飛び込んできた。
「キューン、キューン」
なんとこのスライム、俺に顔を埋めてスリスリしてくるではないか。ちなみに顔はない。しかし、これは完全に懐いている。
「……寝るか!」
なんか害もなさそうだしかわいいからもうコイツと一緒に寝ることにした。スライムを枕元に置き、布団を被る。すると、もぞもぞとスライムが布団の中に入り込んできた。猫みたいだなコイツ。当時飼ってたわけではないが、昔捨て猫を拾った時を思い出した。
「ほら、おいで〜」
俺がスライムを呼ぶと、俺の胸元に顔を出す。かわいい。わかったよ、俺の負けだ。ちゃんと飼ってやろう。
「よし、じゃあお前の名前を決めるぞ。」
「キュ?」
「お前の名前は"ピッキー"だ。鳴き声そのまんまが、中々いい、だ、ろ。」
スライムに名前をつけた瞬間、俺の意識は眠りにつくよりも速やかに、かつ穏やかに遠のいて行った。
***
ビー、ビー、ビー
数台のディスプレイとコンピュータに囲まれた部屋に、警告音が響いた。
「どうした?」
初老の男が、警告を告げるディスプレイの前の女性に尋ねる。
「『Exit35 of the Earth』に魔物が迷い込みました。どういたしますか?」
「『Exit35 of The Earth』か、そこの詳細は?」
「検索します。The Earth……別名『死の世界』に繋がる扉で、最近発見されたものです。」
「……死の世界か、残念だ。そこでは我々は生きられない。まず助からないだろうが、一応聞いておこう。入った魔物の種族は?」
「スライムです。」
「……なら尚更か、あいつら弱いもんなあ。過去に1度だけ戻ってきたのもいたが、スライムだもんなあ。……黙祷」
その場にいた者はみな、儚きスライムの命に黙祷を捧げた。
「さて、問題はなぜあの開かずの扉をスライムが開けられたかだ。力では開かないはずなのにどうして。」
「映像を見る限り、ひとりでに扉が開いてたように見えますが。」
女性は該当箇所の映像を再生し始めた。それはスライムが扉に体当たりをし始めると、一人でに開いた扉の中に入ってしまう、という映像だった。
「ふーむ、これがかなりの頻度で開くようなら対策が必要だな。」
「ええ、そうですね。」
「よし、これより新しい果ての探索は中止。総員、35の監視に重点をおけ。」
「「「了解しました。」」」
ーーー
スライム(ピッキー)【スライム族】
生命力 5【5】
身体能力 1【1】
知力 8【1】
魔力 1【1】
愛 5 【0】
称号
【命名】
【秀才】
押入れから現れた丸くて青いヤツ、それはドラ○もんではなく、世界で一番弱いのに有名な魔物。ぷるぷるボディの弾力を活かした体当たりを得意とするが、その弾力からか相手にもそんなにダメージが入っていないということを理解していない。ごく稀に頭の良い個体がおり、それは犬程度の知能を持っていると言われる。