11. 冒険着手
1〜10話までのあらすじ
卒研終了祝いの飲み会から帰宅後、押入れからスライムが現れた!そのスライムにピッキーと名前をつけ、育てること数日、自らも押入れの中に入ることを決意。押入れの中はダンジョンになっていて、そこで魔術師のドルトンと龍戦士のアルトに出会った。彼らからダンジョンの詳細と、世界の真理の一部分を聞くことにより、当たり前が何なのかに疑問を持った俺は、冒険をする為に再びダンジョンへ赴いた。強い魔物と出会い、そいつを倒す為、オネエのリザードマンの店に行き、ついでに移動魔法を教えてもらった。そして一時帰宅し、爆睡を決めた俺とピッキーが眼を覚ましたのは夕方だった。
「うーん、これまたよく寝たな。」
「寝たね。」
「とりあえず飯食おう。」
「うん!」
たまには麺が食べたくなったので、今日はチャーハンではなくペペロンチーノを作った。およそ2人前だが、ピッキーと一緒に簡単に平らげた。
「刺激的な匂いと味ね。でも美味しい。」
「ありがとう、また作るよ。」
先ほどまでのダンジョンでの出来事が嘘のように、俺たちはのんびりしていた。ダンジョン内に入るとこちらでは時間的にはそんな経っていないが、ダンジョンでの時間分しっかり疲れるようだ。故に俺たちは今のんびりしている。忙しい後で何もせずぼーっとするのは実に気分がいい。しかし、先程しっかり寝てしまったので多分夜寝るのは遅くなるだろう。そこで俺は思いついた。
「ピッキー、もう一度ダンジョンに行って帰って来ればちょうど良く疲れて夜気持ちよく寝れそうじゃない?」
「マスター、一理ある。いいよ、行こう。」
というわけで、再びダンジョンに向かうことになった。俺はメーターの為にお金を下ろす必要があるので、一旦家を出た。それと、俺の防具代もなんとかしないと。
***
「さて、彼らも無事帰ったし、たまにはゆっくり話でもしようじゃないか。」
「いいわよ。ちょっと待ってね。」
メーターは店の奥の棚からグラスと液体の入った瓶を取り出し、そのグラスに液体を注いだ。カチャンと久々の再開を祝い、2人は一口それを飲んだ。
「ありがとう。最近何か変わりはないか?」
「特にないわ。強いて言うならあなた達が来たことね。」
「そうか、なら良かった。」
「ドルトンこそ、最近はどうなの?」
「退屈過ぎて参ってるよ。楽な仕事ばかりってのも困りもんだ。直近では色々変化があって楽しいがな。今日も職場抜け出してきた。」
「サボってもサボらなくても同じじゃないの、あんな場所。」
「まあな。」
また一口、口に含む。
「異世界から来た連中はどうにも話が合わないことが多いが、博之氏とエルフはその辺かなり我々に近い。」
「そりゃ進化の1つの収束先に、脳を支えるための二足歩行があるわけなんだから、種族は違えどその進化を辿る種族は多いでしょうね。」
「……エルフのあの木、まだ残してたんだな。」
「旧友の形見よ、残すに決まってるじゃない。もちろん売り物ではないし。」
「確か家の周りの環境もそいつが整備してくれたんだっけ。流石だな、エルフは。」
「ええ、でもみんないなくなったわ。」
そしてまた一口。
「それを繰り返さない為にあの二人を見張っていたわけだ。」
「あら、そういうことだったの。でも彼らは大丈夫そうよ。」
「ああ。だからもう彼らをマークするのはやめだ。もちろん、一緒にいると非常に楽しいからこれからも長く付き合っていきたいと思ってるよ。」
「アタシもそう思うわ。」
「ところでメーター。」
「なに?」
「お前、チャーハンって知ってるか?」
***
「ただいま〜」
俺は準備を終えて帰宅した。
「おかえり。私は準備OKよ。」
「おっけー。その前に炊飯の予約だけさせておくれ。」
米を急いで洗い、帰ってきた時にすぐご飯が食べれるように炊飯器の予約を押した。3時間後くらいでいいかな。
「じゃあ行こうか。」
さっと荷造りを済ませ、リュックを背負い、ヘルメットを被り、押入れを開く。中は相変わらずダンジョンに続いている。しかし、これからはわざわざ歩く必要はない。
「じゃあピッキー、メーターの店まで飛ぼう。」
「わかった。」
「ちょっと待って!」
現れたのはアルトだった。
「博之、ドルトン様知らない?」
「彼はメーターのお店にいますよ。俺たちも今から行きます。」
「じゃあ私も行く!帰って来るのが遅いから、ちょっと心配。」
「そうなんですか?ピッキー、3人乗りってできるのか?」
「大丈夫。じゃあ、飛ぶよ!」
「博之です。お邪魔します。」
先程訪れたメーターのお店に入った。
「早かったわね。」
「きましたか。おや、アルトはどうしてここに?」
「ドルトン様が遅いから迎えに来たんですよ〜」
「すまんすまん、もう帰る。じゃあなメーター。博之氏とピッキーちゃんもまた会いましょう。」
「2人ともありがと!またね!」
そう言ってアルトとドルトンは去っていった。
「まずはピッキーの羽衣のお代にこれを。」
メーターにお金を差し出す。一種類ずつなので合計金額は一応16666円だ。
「確かにいただいたわ。」
「それと、自分の分にはこれを出そうかなと思います。」
俺が取り出したのは、貝殻でできた花びら型のブローチだ。メーターの家の前には植物がたくさんあったので、花がモチーフのものを選んだ。
「まあ素敵!」
メーターはおもちゃを与えられた子供のようにブローチに夢中だった。
「いやぁ、かわいいわぁ。じゃあ、博之にもいいものをあげちゃう。」
店の奥にすっ飛んで行った彼が持ち出したのは薄いロングコートのような服と軽い胸当て、そして背負える盾だった。しかし、剣などの武器はなかった。
「あなた、魔物使いに向いているみたいだから、武器は用意しなかったわよ。ていうか、この世界ではレベルの上がらないあなたが攻撃するよりピッキーちゃんを育てて戦わせた方が強いわ。」
「確かに、この世界でレベリングできたら僕は元の世界で超人になれますもんね。やっぱりピッキーに頼るしかないな。頼むよ?」
「任せて。」
「で、メーターさん。単刀直入に聞きますけど強くなるにはどうしたらいいですか?」
「そうねえ、やっぱりたくさん戦うのがいいんじゃない?身の丈にあった魔物とね。」
「なるほど、実戦あるのみと。」
「後は何か特別なことをするとか?魔物を助けたり、異世界に行ったりね。」
「へえ〜。まあとりあえず色々頑張ってみます。ありがとうございました。じゃあ行こうか、ピッキー。」
「行こう行こう!」
「待って博之。」
早速ピッキーを鍛えようと思ったところをメーターに止められる。
「その防具はピッキーのと違って単純な防具よ。でも防御力以外にも優れてるの。それはそのうちわかるわ。」
俺としたことが、防具の詳細を聞き忘れてしまった。RPGではあり得ない行為だ。
「それと、魔物のことをよく考えてね。」
俺は襲ってきた魔物や、正々堂々勝負のできる魔物としか戦うつもりはなかったが、これは一体どういう意味なのだろうか。種族?相性?よくわからなかった。
「……分かりました。」
この時、俺は早く行きたかったので適当に返事をしたが、実際俺はこの発言の意味が分かっていたらしい。
「あ、メーターさん。」
「なあに?」
「やっぱり木刀はください。」
俺とピッキーはメーターのお店で買った防具を身につけ、外に飛び出した。家とは逆方向に歩き進むと、T字路が見えた。
「どっちから進む?」
「うーん、右にしよう。」
ピッキーが右、というので右に進むことにした。そしてT字の中心に差し掛かったとき、背中に衝撃が伝わった。
「あべし!」
「マスター!またスライム!」
「後ろから体当たりは反則だろ!」
「「「ピキー!」」」
不意打ちの成功に、スライムたちは跳ね回って歓喜していた。
「くそ!ピッキー、やれ!」
「任せて!」
こうして俺たちの冒険は始まった。
これにて第1章は終了です。次の章はピッキーのレベリングになります。
6/20 博之のアルトに対する発言がタメ口になってたので直しました。




