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押入れ、ダンジョン、愛、無限(仮)  作者: 凸レンズ
ダンジョンと出会い
10/20

10.リザードマンのお店 その2

「ちょっと待っててねぇ!」


 俺たちを無理矢理家に連れ込んだこのオカマリザードマンのメーターは、『staff only』と書かれた札のぶら下がった部屋に飛んでいった。俺はヘルメットを脱ぎ、用意されてある椅子に座った。


「おいおい、他のスタッフもあんなんだったらいくらなんでも身が持たないぞ!」

「それは大丈夫ですぞ。確か彼は一人でお店を経営してるはずです。」

「ならよかったです……」

「彼が部屋にいる間に、商品でも見ましょうか。」

「あ、ドルトンさん。そういえば僕お金そんなに持ってないですよ。たまたま鞄に入ってた千円と数百円とくらいしか……」

「お店と行っても、ここはメーターが気に入ったものとメーターの作ったものを交換するというのが取引でして、異世界のお金ならメーターもきっと気に入ってくれると思いますから。」


ドルトンと話していると、産まれたままの姿に白いフリルのエプロンだけという、所謂裸エプロンでメーターが出てきた。引き締まった肉体にこの喋り方と服装(と言っていいのか)は、まるでステーキに生クリームをかけているようなアンバランスさであった。


「お待たせぇ!」

「なぜ脱いだ!?」

「見ているだけでダメージ負いそう。」


リザードマンの裸エプロンなんて、一体誰得なのだろうか。メーター曰くこの店の制服らしい。なんて危険な店なんだ。そんな彼も既に店員モードらしく、俺たちを商品のある部屋に案内してきた。そこには、現代では遺跡から発見されそうなものから、一見すると日用品にしか見えないもの、木の枝や石ころ、果ては全く使い所の分からないものまで、たくさんのものあった。観光地によくある謎の木刀など、陳列された商品は、見渡す限り200品はあった。そして、一体どの商品にどのような価値があるのか、まるで検討もつかなかった。


「メーターさん、この木の枝も商品なんですか?」

「あら、お目が高いわねぇ。あなた、お名前は?」

「博之です。」

「博之、覚えたわ。博之さん、これは昔に冒険者が異世界から持ち帰った、エルフと呼ばれる種族が育てていた木の枝なのよ。毎日お祈りして水をあげてたそう。おかげさまですんごいのよ、これ。かけらを煎じて飲めばどんな病気でも忽ち治るし元気モリモリで3日間寝ずにやり放題よ。」

「……何がですか?」

「教えて欲しいの?」

「いいえ、全く。」

「あらそう、残念。とまあこんな感じに色々なものがあるわ。是非見ていって頂戴!」


 しばらく見て回っていると、メーターが切り出した。


「さて、そろそろ防具のお話もしましょう。まずはそこのスライムちゃん。スライムだし、頭防具で充分ね。ちなみにお名前は?」

「ピッキーです。」

「可愛い名前ね!そんなピッキーちゃんにオススメなのがこのライトアイアンメットね。普通のやつより軽くて小型の子にも使いやすいわ。」


彼が取り出したライトアイアンメットは俺のヘルメットとよく似た形をしていた。スライムの頭をすっぽり覆うようになっていた。しかし、実際につけて動こうとするとすっぽ抜けてしまった。


「うーん、ピッキーは体が伸びたり縮んだりするから固形はあまり合わないかも。」

「軽くて扱いけど、取れやすい。」

「そうねぇ、じゃあ魔術系のやつにしましょう。これなんかどう?」


続いて彼が取り出したのは肌触りが良さそうな縦に長い布だった。一見すると、防具には見えない。


「これはなんとマニアックな!」

「ドルトンさん、僕の目からはどうにも変哲のない質の良い布にしか見えないのですが、あれは特別なものなんですか?」

「身につけて見れば分かりますわ!ピッキーちゃん、そぉれ!」


メーターはピッキーにその布を放り投げた。普通ならいくら軽い布でもすぐに床に落ちるものだが、それはふわふわとピッキーの元に漂っていった。そして天の羽衣のように、ピッキーの体の周りに浮かんだまま静止した。ピッキーはまるでかぐや姫のような格好になっていた。


「これすごい!」


ピッキーははしゃいで飛び跳ねたが、その羽衣がピッキーから離れることはなかった。


「でも、これは防具としてどうなんですか?」

「と、思うじゃない?」


メーターはそう言うと、部屋の隅に置いてあった木刀を手に取りピッキーにそれを振りかざした。


「うわ!」


いきなりの攻撃にピッキーは避けられなかった。しかし、その木刀は羽衣にしっかりと受け止められていた。どうやらこの布は自動でピッキーを守ってくれるらしい。


「原動力は魔素だからずっと動くし、その辺の防具よりずっと丈夫なのよ。布なのに。」

「す、すげえ!」

「でしょう?中々ないわよ、こんな面白いもの。」


そう言いながらメーターはべしべしと木刀を振りまくっているが、ピッキーに当たる様子はなく全て羽衣が受けきっていた。


「これは素晴らしいですな。ちなみにお値段は?」

「そうねえ、あなた達何かレアなもの持ってないの?」

「我々の世界のお金ならありますが。」


俺は偶々鞄に入っていた財布から千円札と小銭一式を取り出した。


「これは中々、綿密な彫刻ね。何の花かしら。これは建物?この紙に書いてあるのはあなたと同じ種族ね……。」


メーターは興味深々だった。結局、日本に流通している紙幣と貨幣の全種類と交換ということになった。一応、二千円札は手に入らないかもしれないので伏せておいた。


「ドルトンもついてることだし、またいらした時にでも残りは置いてって頂戴。さて、博之、あなたの分はどうする?」

「とりあえず持ち合わせはもうないので、それこそまた来た時にしますよ。」

「あらそう。じゃあ待ってるわね。また会いましょう。」

「メーター、待て待て。博之氏にあの魔法を教えてやってくれ。彼ら2人をここから帰さないといけないからな。」

「そうね、すっごく便利よね。」

「博之氏、移動の魔法を覚えてみてはどうです?」

「移動の魔法?」

「そうです。一度行った場所に瞬間移動できます。」

「それは便利ですね。是非教えていただきたいです!」


やはりファンタジーといえば剣と魔法。剣は活躍していないが、俺は遂に魔法を体感できるらしい。ワクワクしていると、メーターが奥から古くさい分厚い本を持ってきた。如何にも魔道書と行った感じだった。


「えーと、初級移動系魔法だから24ページ……あったわ!じゃあ博之さん、ここを読んで頂戴。一番最初だけ詠唱すれば後は念じるだけで使えるようになるわ。」

「わかりました、やってみます。」


いよいよ魔法が使える、となると今度はドキドキしてきた。緊張する。気持ちを落ち着かせる為に深呼吸をして、俺は人生初めての詠唱を始めた。


「世界を巡る魔素よ、我はこの地に飽き果てた。どこか見知らぬ土地に我を連れゆき給へ!」


詠唱を終えると、俺の体に光が集まり始めた。ピッキーが復活するときと同じような雰囲気だった。徐々に光が強くなり、俺はジェットコースターが最高度に達して落ちる直前のまさにその瞬間のような気持ちだった。しかし、気がかりなのがあの詠唱。なんかニュアンスが違う気がする。そんなことを思った刹那、血相を変えたドルトンとメーターが俺に飛びかかってきた。


「まずい!」

「まずいわ!」

「うわっ!」


二人に飛びかかられた俺はなす術なく床に倒れ込んだ。その瞬間、俺から光が霧散した。


「「あれ?」」

「いってえ〜。二人ともどうしたんですか?俺そんなまずいことしました?」

「……ちょっと失礼しますね。」


ドルトンはそういうと、俺の手を握りしめてきた。


「え、急にどうしたんですか?」

「ほう、そういうことでしたか。博之氏、あなたにいいニュースと悪いニュースがあります。どちらから聞きたいですか?」

「……いい方からで。」

「今博之氏が唱えた魔法はランダム転移の魔法です。発動に失敗していなければ、あなたは無限に広がるダンジョンのどこかに飛ばされていました。唱えるべき詠唱はその1つ下の方ですな。」

「……危なかった。」

「で、悪い方ですが、今博之氏に触ってあなたのステータスを確認させていただきました。あなたの世界には魔素がないのでもしやと思いましたが、あなたには魔力がありません。よって魔法が使えません。先程のランダム転移が発動しなかったのもそのせいです。」

「そうか、なら仕方ないな。」

「じゃあ私が唱えるよ。」

「そうね、ピッキーちゃんなら大丈夫。」

「じゃあピッキーちゃん、博之氏を頼んだ。」

「うん、分かった。」


二人で正しい詠唱をよく確認し、ピッキーを抱えて心の準備を整える。


「世界を巡る魔素よ、我をかつて訪れた彼の地に送り届け給へ!」


うん、詠唱の意味に違和感はない。俺とピッキーを光が包み始めた。


「行き先を思い浮かべるのよ!」

「マスター、行き先はマスターの家でいいよね?」

「もちろん。頼むぞ、ピッキー。」

「うん。」


一段と大きな光が俺たちを包み、その光の強さが頂点に達した時、俺は目の前が真っ白になった。光の中で俺はピッキーの声を聞いていた。


「さっきの魔法、発動しなくて本当によかった。……勝手にいなくなったら許さないんだから。」




 ハッと我に帰ると、そこは我が家だった。足元に転がっているピッキーも無事だ。


「マスター、ちゃんとできたよ。」

「ありがとう、ピッキー。もう外よ暗……くない。あれ?まだ全然時間経ってないのか。」


11時くらいに出たにも関わらず、まだ13時過ぎだった。ダンジョンの中での時間の流れは比較的ゆっくりなのかもしれない。しかし、疲れは十二分に溜まっていた。


「うーん、昼寝でもするか。」

「そうだね、私も疲れた。」

「じゃあおやすみ。起きたらご飯食べよう。」

「うん。おやすみ。」

「あ、そうだ。ピッキーさっき瞬間移動の時に何か言ってなかった?」

「……別に?」

「そっか、まあいいや。おやすみ〜。」


ベッドに横になると尚更疲れを実感し、ピッキーと一緒に吸い込まれるように眠りについてしまった。いつものように一緒に寝たが、今日はいつもよりピッキーが近くにいるような気がした。


第10話まで更新できました。ありがとうございます。これまでの話も少し改稿したところがあるのでよろしければご覧ください。

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