第九十七話 魔剣を手にして
ヴィオレットの姿を目にしたコーデリアは、愕然としている。
信じられないのだろう。
ヴィオレットが、魔剣を制御し、新たな姿となった事が。
しかも、傷まで癒えているのだから。
何が、どうなっているのか、状況が把握できていないのだ。
「魔剣が、力をくれたのだろう」
「そ、そんな……あり得ない!!魔剣を制御できるなんて!!」
ヴィオレットは、コーデリアの疑問に答える。
コーデリアが何を知りたいのか、わかっているかのようだ。
ヴィオレットの答えを聞いたコーデリアは、首を横に振った。
それも、必死で。
信じられるはずがなかった。
ヴァルキュリアと言えど、魔剣を制御するなどできない。
魔剣を制御できるのは、コーデリアか、カイリのみだ。
しかも、ヴィオレットは、一度、魔剣に乗っ取られ、暴走している。
だというのに、なぜ、ヴィオレットは、今回、制御できたのか、コーデリアには、理解できなかった。
「想いが通じた。ただ、それだけだ」
「破滅を呼ぶお前が……」
ヴィオレットは、正直に、答えた。
ヴィオレットの想いを魔剣が受け取ったのだと。
それを聞いたコーデリアは、ますます、信じられないようで、体を震わせた。
「想いの力で、魔剣を制御するな!!」
コーデリアは、怒りをヴィオレットにぶつけながら、固有技・デスぺラード・ブルームとデスぺラード・ライトニングを発動する。
ヴィオレットは、すぐさま、回避し、コーデリアに向かっていく。
魔剣で宝石を破壊しようとするが、コーデリアは、再び、固有技・デスぺラード・ブルームとデスぺラード・ライトニングを発動する。
ヴィオレットは、後退しながら、回避した。
「あはは!!やっぱり、私を傷つけることはできないようね!!」
「くっ!!」
二つの力を組み合わせたヴィオレットでさえも、コーデリアは、傷つけられない。
なぜなら、コーデリアは、アマリアと融合しているからだ。
コーデリアを斬れば、アマリアを斬ることにもなる。
ゆえに、ヴィオレットは、躊躇してしまったのだろう。
見抜かれたヴィオレットは、歯を食いしばった。
これでは、コーデリアを殺せないと、悟って。
「殺してやるわ!!」
「させるか!!」
コーデリアは、再び、固有技を発動しようとする。
だが、カイリが、コーデリアの前に立ち、コーデリアの両手をつかんだ。
コーデリアの固有技の発動を防ごうとしているようだ。
「ふざけるな!!」
「かはっ!!」
「カイリ!!」
コーデリアは、怒りをぶつけるかのように、カイリの手を振り払い、吹き飛ばす。
そして、そのまま、固有技・デスぺラード・レイディアントとデスぺラード・ダークネスを発動する。
ヴィオレットは、一瞬のうちに、カイリの前に立ち、カイリを守ろうとする。
だが、なんと、カイリは、ヴィオレットの前に立ち、固有技をその身に受けてしまった。
ヴィオレットを守るために。
カイリは、血を吐き倒れかけるが、何とか、足に力を入れ、立つ。
重傷であってもだ。
「しぶといわね!!死ね!!」
何度も、何度も、固有技を受けたというのに、カイリは、何度も、何度も、立ち上がる。
コーデリアは、イラついているようだ。
なぜ、カイリが、そこまで、立ち上がれるのか、理解できずに。
コーデリアは、再び、固有技を発動しようとした。
だが、その時であった。
――やめて!!カイリを殺さないで!!
「っ!!」
アマリアの叫び声が聞こえる。
その直後、コーデリアの動きが止まってしまった。
まるで、アマリアが、抵抗しているかのようだ。
「アマリア!!」
「カイリ!!」
カイリが、アマリアの名を呼ぶと、アマリアが、カイリの名を呼ぶ。
だが、コーデリアが、発したわけではない。
宝石から、聞こえてきたのだ。
それにより、カイリが、アマリアが、どこにいるのか、推測できた。
アマリアは、コーデリアと融合したのではない。
宝石の中に閉じ込められていたのだ。
コーデリアは、融合したと偽れば、ヴィオレット達は、自分を攻撃できないと悟ったのだろう。
宝石を守ったのも、アマリアを解放させないためであった。
「そうか、そこにいたんだな」
カイリは、コーデリアの前へと立つ。
コーデリアは、反撃に出たいところではあるが、アマリアが、それをさせまいと、抵抗する。
カイリを守るために。
カイリは、そっと、宝石に触れた。
宝石の中に閉じ込められていたアマリアも、手を伸ばし、カイリの手に触れる。
その瞬間、宝石からまばゆい光が放たれ、コーデリアは、苦しみだす。
まばゆい光が、収まると、アマリアは、宝石から、解放され、カイリは、アマリアを抱きしめた。
それも、優しく。
「ありがとう」
「ああ」
解放されたアマリアは、涙を流した。
ヴィオレット達が、死ななくてよかったと、安堵しているのだろう。
だが、その時であった。
「お、おのれぇええええっ!!」
コーデリアは、狂ったように、叫ぶ。
怒りを露わにしているようだ。
侮辱された気分なのだろう。
「ヴィオレット!!」
「今です!!」
「ああ!!」
カイリが、ヴィオレットの名を呼び、アマリアも、続いて、叫ぶ。
もちろん、ヴィオレットも、わかっている。
コーデリアを殺すなら、今しかないと。
ヴィオレットは、床を蹴り、一瞬にして、コーデリアに向かっていった。
「おおおおおおっ!!!」
ヴィオレットは、雄たけびを上げながら、固有技・アメジスト・ライトニングを発動する。
魔剣が、宝石の刃と化したのだ。
コーデリアは、目を見開いたまま、動くことができず、そのまま、ヴィオレットの固有技に切り裂かれた。
「ぎゃああああああっ!!!」
宝石の刃に切り裂かれたコーデリアは、血を流し、仰向けになって倒れる。
倒れたまま、動かなくなってしまった。
ヴィオレット達は、息を切らしている。
何も言えないまま。
それほど、激しい戦いだったのだろう。
「っ……」
「「カイリ!!」」
ついに、耐え切れなくなったのか、カイリが、仰向けになって倒れた。
ヴィオレットとアマリアが、カイリの元へ駆けよる。
だが、カイリの息が弱弱しい。
相当、無理をしていたのだろう。
アマリアは、すぐ、固有技・ホーリー・キュアを発動して、カイリの傷を癒し始めた。
「ごめんなさい。私のせいで……」
「違う、アマリアのせいじゃない……無事でよかった……」
アマリアが、涙を流す。
自分を責めているのだろう。
自分が、コーデリアにとらわれてしまった事で、カイリが、重傷を負ってしまったのだから。
だが、カイリは、微笑みながら、アマリアの手に触れる。
アマリアの事を恨んでいるはずがなかった。
わかっていたのだ。
アマリアは、悪くないと。
だが、その時であった。
ヴィオレットは、ふいに、コーデリアの方へと振り向いたのは。
「っ!!」
「どうした?ヴィオレット……」
「コーデリアが、いなくなってる」
「え!?」
ヴィオレットは、思わず、驚いてしまう。
カイリが、ヴィオレットに尋ねた。
嫌な予感がしたのだろう。
ヴィオレットは、目をひそめながら、答えた。
なんと、コーデリアが、いなくなっているというのだ。
アマリアは、驚愕し、動揺を隠せなかった。
「逃げられたか」
「ああ。だが、魔神の所に向かっているはずだ」
「そうだな」
カイリは、動揺しなかった。
重傷を負ったまま、逃げたのだ。
おそらく、魔神の所に向かい、傷を癒してもらう為に。
魔神ならそれは、可能であろう。
ヴィオレットも、そう推測しているようだ。
「アマリア。カイリを頼む」
「で、ですが……」
「安心しろ。あいつは、もう、瀕死の状態だ」
ヴィオレットは、アマリアにカイリの事を託す。
だが、アマリアは、躊躇しているようだ。
もちろん、カイリの事は、放っておけない。
だが、ヴィオレットを一人で行かせるのも、危険だ。
相手は、コーデリアなのだから。
と言っても、コーデリアは、重傷を負っている。
瀕死の状態と言っても、過言ではない。
傷が癒える前に殺せるはずだと、思っているのだろう。
「止めは、刺す。魔神の居所を知った後にな」
「任せるぞ」
「ああ」
ヴィオレットは、あえて、泳がせていたのだ。
魔神の居場所を知っているのは、コーデリアだけなのだから。
だからこそ、殺さずに、瀕死の状態にさせた。
もちろん、宝石を破壊したうえで。
カイリは、ヴィオレットに託し、ヴィオレットは、すぐさま、コーデリアを負った。
床に残った血を追いながら。
コーデリアは、床を這いつくばりながらも、女帝の間へ進む。
うめき声を上げながら。
「うぅ……」
コーデリアは、激痛に耐えながらも、ようやく、女帝の間に入り、椅子へとしがみついた。
「こんなところで、終わる、わけには……」
コーデリアは、まだ、抗おうとしていたのだ。
重傷であっても。
自分の野望を叶えるまでは。
「魔神よ……どうか、私を……」
コーデリアは、魔神に願った。
縋ったのだろう。
魔神なら、自分の傷を癒してくれると。
コーデリアは、椅子をどかす。
歯を食いしばって。
そこには、階段が、隠されていた。
その地下に、魔神が、封印されているのだろう。
だが、その時であった。
「やはり、そこにいたか」
「っ!!」
ヴィオレットの声が聞こえる。
彼女の声を聞いたコーデリアは、驚いて、振り向いた。
ヴィオレットは、察したのだ。
魔神が、封印されている場所が、地下にあると。
「く、来るな!!来るなあああああっ!!」
コーデリアは、固有技を発動する。
だが、ヴィオレットは、魔剣で切り裂いてしまったのだ。
いとも簡単に。
コーデリアは、愕然とした。
もう、ヴィオレットを殺す力さえも、ないのだと。
「お前だけは、許さない」
「……助けて。お母様」
ヴィオレットは、コーデリアに迫る。
もう、ためらう必要などない。
魔神の居場所は、知れたのだから。
コーデリアは、涙を流して、助けを求めた。
母親に。
だが、ヴィオレットは、容赦なく、魔剣で、コーデリアを突き刺した。
コーデリアは、目を開けたまま、口から血を流して、息を引き取った。
コーデリアの死を確認したヴィオレットは、通常のヴァルキュリアの姿へと戻る。
これ以上、力を保つのができなくなりそうだったからだ。
ヴィオレットは、妖魔になりかけていた。
「これで……もう……」
ヴィオレットは、覚悟を決めた。
魔剣を自分に向けたのだ。
コーデリアは、殺した。
魔神の行方も、わかった。
だが、もう、時間がない。
ゆえに、自害する事を決意したのだ。
後の事は、カイリとアマリアに託して。
だが、その時であった。
「ヴィオレット!!」
「え?」
ルチアの声が聞こえる。
ヴィオレットは、驚き、思わず、振り向いた。
女帝の間の入り口の前では、ヴァルキュリアの姿となったルチアが、立っていた。




