第八十二話 いよいよ、破滅へ
ヴィオレット達は、橋の中を駆けていく。
途中何度も爆発が起こり、橋が、壊れ始めた。
帝国兵は、何もしなかったわけではない。
敵を一掃する為に、仕掛けていたのだ。
橋は崩れ、ルビーエリアの住人が落ちていく。
だが、それも、クライドは、想定済みであった。
どうにかして、橋を潜り抜けたヴィオレット達。
だが、人数は少なくなっている。
三割は、落下してしまったようだ。
それでも、退くわけにはいかない。
サファイアエリアの住人も、エメラルドエリアの住人も、トパーズエリアの住人も、すでに、橋を潜り抜けており、待機している。
王宮前には、帝国兵達が、ヴィオレット達を待ち受けていた。
まさに、一触即発状態であった。
「準備は、いいか?」
「いつでも」
クライドは、突入できるかどうか、確認する。
もちろん、いつでも、準備万端だ。
カイリは、静かにうなずいた。
「突撃!!」
クライドは、叫ぶ。
すると、ヴィオレット達は、走り始めた。
レジスタンスも、住民たちも、走り始める。
何人かが、魔法を放ち、門を破壊した。
ヴィオレット達は、そのまま、王宮へと突っ込んでいった。
「奴らが来たぞ!!迎え撃て!!」
王宮で待機していた帝国兵達も、走り始める。
ヴィオレット達に向かって。
ヴィオレットは、鎌を振り回し、カイリは、短剣で、次々と、帝国兵達を刺していく。
クライド達も、続けて、帝国兵と対峙していく。
まさに、乱戦状態だ。
平和を保っていた王宮エリアは、戦場と化した。
「この裏切り者が!!」
「せいっ!!」
帝国兵は、ウォーレットに襲い掛かる。
怒りに任せて。
ウォーレットは、裏切り者だ。
自分達を裏切り、帝国を滅ぼそうとしている。
ゆえに、許せなかったのだろう。
だが、ウォーレットが、帝国兵ごときに後れを取るはずがない。
彼は、兵長クラスの実力を持っているのだから。
ウォーレットは、帝国兵をいとも簡単に切り裂いた。
「ウォーレット!!」
「こっちは、任せろ!!」
「わかった!!」
オルゾが、ウォーレットの身を案じているようだ。
だが、ウォーレットにとって、これくらい、どうってことない。
切り抜けることくらいできるであろう。
ウォーレットは、オルゾに向かって叫ぶ。
オルゾの不安を取り除くかのように。
オルゾは、うなずき、戦いに集中した。
アトワナとキャリーは、帝国兵に囲まれてしまっている。
それでも、余裕と言わんばかりに、笑みを浮かべていた。
「いける?キャリー?」
「もちろんです!!」
「いっくよ~」
アトワナとキャリーは、いつものようなやり取りをする。
彼女達にとっても、どうってことないのだろう。
危険な場所にも潜り込んだことはある。
ゆえに、焦燥に駆られていなかった。
二人は、そのまま、帝国兵に突っ込む。
危険であるとわかっていながらも。
クライド達の戦力の方が上回っているからなのか、帝国兵達は、押され始めていた。
「ひるむな!!かかれ!!」
帝国兵の兵長は、叫ぶ。
押されてはならないと。
帝国を守れと言いたいのだろう。
帝国兵は、鋭い目つきへと変わり、ヴィオレット達に襲い掛かっていく。
ヴィオレット達は、帝国兵を切り裂き、殺しながら、進んでいくが、帝国兵の数が多すぎて、先に進めなかった。
だが、その時だ。
ラセルが、ヴィオレット達の前に立ったのは。
「ヴィオレット!!先に行ってください!!」
「わかった」
「気をつけろよ。ラセル」
「もちろんです!!」
ラセルは、ヴィオレット達を行かせるために、駆け付けたようだ。
もちろん、仲間を引き連れて。
ヴィオレットは、うなずき、カイリは、ラセルの身を案じる。
ラセルが、そのまま、突っ込み、帝国兵と対峙していく。
その間に、ヴィオレット達は、帝国兵の間を切り抜け、先に進んだ。
だが、予想外の事が起こった。
ラセルが、帝国兵に切り裂かれてしまったのだ。
「ぐあっ!!」
「ラセルさん!!」
ラセルは、苦悶の表情を浮かべながら、うめき声を上げる。
ラセルのうめき声を聞いてしまったアマリアは、思わず、立ち止まり、振り返ってしまった。
ラセルの身を案じて。
「い、行ってください!!早く!!」
ラセルは、懇願する。
ヴィオレット達を先に行かせることが、目的だったのだ。
たとえ、ここで、命が尽き果てたとしても。
それでも、アマリアは、ためらってしまった。
「行くぞ、アマリア」
「……はい」
ヴィオレットは、感情を押し殺し、アマリアに告げる。
アマリアは、静かに、うなずき、ラセルに背を向けて、ヴィオレット、カイリと共に、走り始めた。
「あとは、頼みましたよ」
ラセルは、ヴィオレット達に託した。
血だらけになりながらも。
帝国を滅ぼせるのは、ヴィオレットしかいないと、わかっているから。
ヴィオレット達は、先へと進む。
王宮まで、あと少しだ。
もう少しで、王宮に侵入できる。
だが、その時であった。
「聖女だ!!捕らえろ!!」
帝国兵が、アマリアを見つけて追いかける。
アマリアを捕らえよと、命じられたのだろうか。
アマリアは、必死に逃げる。
だが、必死になり過ぎたのか、バランスを崩して、倒れてしまった。
「きゃっ!!」
「アマリア!!」
「もらった!!」
アマリアが、倒れ、ヴィオレット達は、立ち止まり、振り向く。
その間に、帝国兵が、アマリアに襲い掛かろうとしていた。
もはや、捕らえるというよりも、殺すつもりのようだ。
アマリアは、危険を感じて、思わず、目を閉じてしまった。
帝国兵の刃が、アマリアを捕らえようとしていた。
しかし、ハイネとミーナが、アマリアの前に立ち、かばう。
二人は、帝国兵の刃に切り裂かれてしまった。
「ぐっ!!」
「ハイネさん!!ミーナさん!!」
ハイネとミーナが、苦悶の表情を浮かべる。
二人を目にしたヴィオレット達も、驚きを隠せなかった。
予想もしていなかったのだろう。
まさか、ハイネとミーナが、アマリアをかばうとは。
「早く、行きな!!」
「もたもたしてんじゃないよ!!」
「は、はい!!」
ハイネとミーナは、アマリアに先に行くように、促す。
アマリアは、戸惑いながらも、立ち上がり、走り始めた。
その間に、帝国兵が、二人に襲い掛かる。
それでも、二人は、アマリアを守るために、死闘を繰り広げた。
だが、帝国兵は、二人を追い詰め、再び、二人を切り裂いた。
「かはっ!!」
ハイネが血を吐く。
アマリアは、思わず、立ち止まり、振り向いてしまった。
ハイネとミーナの事を心配してのことだろう。
「振り向くな!!」
「進めっての!!」
ハイネとミーナは、声を荒げる。
必死なのだ。
アマリアを助けようと。
アマリアは、歯を食いしばって、ハイネとミーナから、背を向けて、走り始めた。
先に進むために、ハイネとミーナを見殺しにしたのだ。
アマリアが、先に向かったのを知ったハイネとミーナは、帝国兵へと視線を向ける。
命がけで戦う為に。
「こう言うのが、嫌だったから、闇ギルドに入らなかったのにな……」
「本当、あたいらって、バカなのかもね……」
ハイネは、死闘を繰り広げながらも、ため息をつく。
以前のハイネとミーナなら、あり得なかったことだ。
確かに、帝国に反発して、レジスタンスを結成したが、それは、帝国から、自身の身を守るためだ。
仲間達を守るためであった。
帝国を滅ぼうなどと、微塵にも思っていなかったのだ。
だが、ヴィオレット達と関わり、協力していくうちに、情が湧いた。
ヴィオレット達と共に戦う決意を固めたのだ。
そう思うと、ミーナも、笑い始めた。
以前の自分達が、見ていたら、大笑いしていただろうと思うほどに。
「でも、最高に、気分がいいよ」
ハイネは、ふと、微笑みながら、呟く。
ハイネとミーナは、後悔などしていなかった。
しているはずがなかった。
なぜだか、わからないが、最高にいい気分だ。
今にも、死にかけそうだというのに。
「うおおおおおっ!!!」
ハイネとミーナは、雄たけびを上げながら、帝国兵へと突っ込んでいく。
死ぬかもしれないとわかっていながら。
それでも、二人は、後悔などしていなかった。
その間に、ヴィオレット達は、王宮にたどり着いた。
帝国兵を殺しながら。
「着きましたね」
「ああ」
「ここからは、何が起こるかわからない。気をつけろ」
「はい、もちろんです」
とうとう、王宮にたどり着いた。
だが、ここからが、問題だ。
コーデリアが、何を仕掛けてくるかわからない。
ゆえに、ヴィオレットは、アマリアに忠告する。
もちろん、アマリアも、油断などしていない。
できるはずがなかった。
ゆっくりと、扉を開け、中に入るヴィオレット達。
ホールの中には、兵長が立っていた。
コーデリアの側近のあの兵長が。
「お待ちしておりましたよ。カイリ様、アマリア様、そして、ヴィオレット様」
兵長は、丁寧に頭を下げる。
まるで、敵だと思わせないようにだ。
だが、それでも、油断はならない。
ヴィオレット達は、兵長を警戒した。
「キウス兵長か」
「いかにも」
カイリは、目の前にいる兵長が何者なのか知っているようだ。
当然だろう。
キウス兵長と呼ばれた彼は、カイリにも仕えていたのだから。
キウス兵長は、顔を上げ、不敵な笑みを浮かべていた。
「お久しぶりでございます」
キウス兵長は、剣を鞘から引き抜き構えた。
やはり、ヴィオレット達を敵だとみなしているようだ。
コーデリアを殺し、帝国を滅ぼそうとする敵だと。




