第六話 レジスタンス
アメジストエリアを統治しているレジスタンスのリーダーと出会ったアマリア。
その後、三人だけで話がしたいと言われ、カウンターの女性を呼び寄せた。
やはり、彼女は、この店を経営している者らしい。
しかも、ボスや他の客が、泊まれるように部屋を用意しているようだ。
アマリアは、女性に連れていかれ、地下室にたどり着く。
女性は、ドアを開けると、そこは、ベッドだけが置かれてある質素な部屋であった。
「ほら、入りなさいよ」
「な、何ですか、ここは……」
女性は、アマリアを強引に部屋に入らせる。
戸惑うアマリアは、尋ねた。
ここは、一体どこなのかと。
「あんたの部屋だけど?」
「ええ?」
女性は、淡々と答える。
なんと、アマリアの為に用意した部屋らしい。
だが、アマリアは、あっけにとられていた。
ここで寝泊まりをしなければならないのかと思うと、信じられないのだろう。
アマリアにとっては、牢獄と同じようなものなのかもしれない。
女性は、アマリアの心情を読み取り、ため息をついた。
「何?ここじゃ、ご不満?そりゃあ、そうよねぇ。あんた、聖女様だもんね。何も知らない」
女性は、嫌味を言ってのける。
聖女様だというのに、このような扱いを受けて不満なのかと。
しかも、アマリアの事を無知だとバカにして。
アマリアは、むっとした表情を見せた。
「わ、私は、知っています。見くびらないでください」
「じゃあ、ここの状況も、知ってたってわけ?帝国が、何を企んでいるのかも」
アマリアは、ムキになって答える。
自分は、知っていると。
無知ではないと。
そんなアマリアを目にして、女性は、呆れた様子で、問いただした。
アメジストエリアが、失楽園と呼ばれるほど、帝国に見放されていたという事も、帝国が、何を考えているのかも。
いや、何を企んでいるのかも。
「て、帝国が、企んでいるわけないじゃないですか!!帝国は、世界の為に」
「はいはい。もういいわ」
アマリアは、帝国が企んでいるわけないと、反論する。
この期に及んで、まだ、信じているのだろう。
帝国は、民を守る良い国だと。
そんなアマリアを目にした女性は、アマリアの話を強引に遮った。
もう、聞きたくなかったのだ。
あきれたくなるほど、アマリアは、無知だったから。
何も知らないで、育てられた箱入り娘のように。
「ここで、大人しくしてちょうだい。箱入り娘様」
女性は、アマリアに命じる。
しかも、アマリアの事を「箱入り娘」と罵って。
アマリアは、反論しようとするが、女性は、勢いよく、ドアを閉めた。
まるで、アマリアに対して、苛立っているようだ。
反論もさせてもらえず、アマリアは、ため息をついた。
「なんで、こんな目に……」
アマリアは、うなだれる。
なぜ、このようなことになってしまったのだろうと。
今頃、ヴァルキュリアが誕生し、帝国は、平和になれたのではないかと思うとやるせなかった。
その頃、ヴィオレットとラストは、レジスタンスのリーダーと話をしていた。
「で、ここに来るってことは、頼みたいことがあるんだよな?」
「その通り、察しがいいねぇ」
「ったりめぇだろ。お前らが、聖女様を攫うって聞いた時から察してたんだよ」
レジスタンスのリーダーは、ヴィオレット達が、なぜ、ここを訪れたのか、察したらしい。
当然であろう。
なぜなら、ラストは、予告していたのだ。
アマリアを帝国から攫うと。
となれば、アマリアをかくまう場所が必要だ。
帝国兵に見つからない場所が。
自分の屋敷が、適任であると、ラストは、判断し、予告したのだろうとレジスタンスのリーダーは、推測していた。
「じゃあ、話が早い。あの聖女サマ、かくまって」
レジスタンスのリーダーが、自分達の狙いを察していると知り、ラストは、堂々と頼む。
やはり、聖女をかくまってほしと依頼する為にここへ来たようだ。
レジスタンスのリーダーは、ため息をついた。
「いいぜ」
「お、本当?」
ため息をつきながらも、レジスタンスのリーダーは、承諾する。
これは、ヴィオレットやラストにとって、意外な事だ。
聖女をかくまうという事は、常に、危険が付きまとう。
もし、帝国兵にばれたりでもしたら、確実に処刑されるであろう。
巻き込まれたくなければ、当然、断るはずだ。
だというのに、レジスタンスのリーダーは、あっさりと、承諾した。
これには、何か、わけがあるようだ。
ヴィオレットは、そう、察していた。
「本当に、いいのか?何か、依頼があるんじゃないのか?」
「察しがいいな」
ヴィオレットは、確認するように、レジスタンスのリーダーに尋ねる。
承諾するという事は、何か、交換条件があるのではないかと。
レジスタンスのリーダーは、笑みを浮かべながら、語りかけた。
やはり、何か、頼みがあるらしい。
そう簡単に、かくまうはずなどなかった。
「簡単に、受け入れるとは思っていない。あの聖女をかくまうという事は、覚悟がいる」
ヴィオレットは、推測していたようだ。
聖女・アマリアをかくまうという事は、それなりの覚悟がいる。
そう簡単に、引き受けられるものではない。
と言う事は、かくまう代わりに、頼みがあるのではないか。
ヴィオレットは、そう、思っていたようだ。
「その通りだ。依頼をこなしてほしい」
「どんな?」
レジスタンスのリーダーは、改めて、依頼を頼む。
ラストは、反論する様子を見せず、尋ねた。
依頼をこなすつもりなのだろう。
ヴィオレットも、異論はないようだ。
静かに、話を聞くことにした。
「ここに、帝国兵が、潜んでるって話だ。俺達の仲間が、連れてかれた」
「その仲間を取り戻せって?」
レジスタンスのリーダー曰く、アメジストエリアに、帝国兵が、潜んでいるというのだ。
その証拠に、彼の仲間が、帝国兵に連れていかれたらしい。
帝国に刃向う反逆者として。
帝国が、見放したというのに。
だからこそ、悟ったのだろう。
帝国兵が、このエリアに潜んでおり、自分達を処刑しようとしていると。
ラストは、問いかける。
連れ去られた仲間を取り戻してほしいと言っているのかと。
だが、ラストの問いに、レジスタンスのリーダーは、首を横に振った。
「いや、あいつらは、もう、殺されてるだろうからな。その帝国兵を殺してほしんだ」
「ああ、なるほどねぇ」
レジスタンスのリーダーは、仲間を取り戻そうとしているわけではないらしい。
これは、意外だ。
彼は、仲間の事を大事に思っている熱い男だ。
だからこそ、仲間を取り戻そうとしているのではないかと、ラストも、推測していた。
だが、彼曰く、仲間は、もう、殺されていると推測している。
帝国なら、やりかねない。
帝国は、残酷な国だから。
レジスタンスのリーダーは、潜んでいる帝国兵を殺してほしいと頼んだ。
これ以上、仲間を失いたくはないのだろう。
彼の依頼を聞いたラストは、納得していた。
「だが、潜んでいるという事は、変装しているってことなんだろう?」
「その通りだ」
帝国兵は、おそらく、制服を着てはいないだろう。
潜んでいるという事は、変装して、帝国の民に紛れ込んでいるはずだ。
ラストは、そう、推測しており、レジスタンスのリーダーは、うなずいた。
つまり、帝国の民の中から、正体を見抜き、殺さなければならない。
これは、一筋縄ではないか無いだろう。
ラストは、苦笑していた。
「だが、やれるだろ?お前達なら」
「どうかな~」
レジスタンスのリーダーは、確信を得ているらしい。
ヴィオレット達なら、依頼をこなしてくれるだろうと。
だが、ラストは、意地が悪そうに答える。
できるかどうかは、わからないと、言いたいのだろう。
「よく言うぜ、ラスト。おまえ、帝国に従ってた暗殺者なんだろ?」
「元、だけどな」
なぜ、ヴィオレット達が、依頼をこなせるのかと確信しているのか。
それは、ラストが、暗殺者だからだ。
彼は、帝国に従う暗殺者として暗躍していた。
コーデリアを殺そうとするものは、命を奪ってきたのだ。
帝国兵、帝国の民、レジスタンス。
どんな人物でも、暗殺してきた。
いとも簡単に。
だからこそ、頼んでいるのだろう。
と言っても、ラストは、元暗殺者だと告げる。
なぜなら、今は、帝国に反旗を翻している。
ゆえに、元だと言いたいのであろう。
「まぁ、仕方がないか。あの聖女サマの為なら」
ラストは、観念したかのように、ため息をつく。
決めたのだろう。
依頼をこなすと。
全ては、アマリアをかくまってもらうため。
アマリアを帝国に戻してはならないのだ。
どうしても。
それゆえに、ラストは、依頼を断れなかった。
「ヴィオレットも、いいよな?」
「異論はない。帝国を滅ぼすためなら、なんだってやる」
ラストは、ヴィオレットに尋ねる。
もちろん、ヴィオレットも、異論はない。
依頼をこなすつもりだ。
帝国を滅ぼすために。
ヴィオレットの決意は、固かった。
「と言うわけだ。その依頼、引き受けたぜ」
ヴィオレット達は、依頼を引き受ける事を決意した。