第五十七話 愛憎
ラストは、アマリア、クライド達と共に宮殿にたどり着く。
クライドの言っていた通り、警備は、手薄だ。
ゆえに、ラストは、帝国兵を殺しながら、侵入した。
アマリアは、帝国兵に心の中で謝罪しながら。
やはり、罪悪感を感じているのだろう。
「うまく、侵入できたな」
「そうだな」
ラストは、安堵しているようだ。
警備が手薄とは言え、失敗するわけにはいかない。
ゆえに、慎重に進んでいた。
クライドに、うまく、侵入で来た事に対して、安堵しているようだ。
「では、私達は、地下に行くとしよう」
「おう、頼んだぜ」
クライド達は、地下を目指すことにした。
結界を解くためだ。
ゆえに、ここでラスト達と別れることとなった。
ラストとアマリアも、クライド達に任せることにした。
「健闘を祈る」
クライド達は、ラストとアマリアの身を案じながらも、彼らと別れた。
「俺達も、行くぞ」
「はい」
ラストとアマリアも、ヴィオレットを救出するために、走りだす。
だが、ラストは、アマリアの事が気になったのか、アマリアの方へと視線を移す。
アマリアは、真剣な眼差しで、前を見据えていた。
ヴィオレットを助けようと決意を固めているかのようだ。
だが、ラストは、アマリアが、何か覚悟を決めているかのように思えてならなかった。
「なぁ、聖女サマ」
「なんでしょうか?」
「本当に、いいのか?」
「え?」
ラストは、アマリアに問いかける。
もちろん、急ぎながら。
気になった事があるのだろう。
ラストは、確信するように、尋ねるが、一体、何を尋ねているのか、アマリアには、わからなかった。
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「ヴィオレットを助けるってことは、セレスティーナを殺すってことだぜ?あんたは、それでいいのかよ」
ラストは、アマリアに説明した。
ヴィオレットを助けるという事は、帝国を滅ぼす事を助けることにもなる。
しかも、ヴィオレットを助ければ、ヴィオレットは、セレスティーナを殺すであろう。
それは、アマリアにとって、良くないことのはずだ。
故に、知りたかった。
アマリアが、なぜ、決意を固めたのか。
「……彼女達は、もう、妖魔になりかけているんですよね?」
「まぁな」
アマリアは、答える前に、聞き返す。
セレスティーナやカレンの事を。
侵食が始まっているという事は、妖魔になりかけているという事だ。
ラストは、うなずいた。
嘘、偽りなく。
「元に戻すすべもないんですよね?」
「……ないな」
アマリアは、再度、問いかける。
もし、彼女達が、妖魔となってしまったら、元に戻す方法はないのだろうと。
ラストは、言いにくそうに、答えた。
「ならば、殺すしかありません。あの子達を助けるために……」
アマリアは、覚悟を決めていたのだ。
彼女達が、妖魔になる前に、殺すしかないのだと。
家族のように接してきたアマリア。
その彼女達をアマリアは、殺そうとしているのだ。
彼女の決意は、固いだろう。
だが、同時に、アマリアの精神が、壊れてしまわないかと、ラストは、不安に駆られていた。
「それは、俺達の役目だから。あんたは、俺達の言う事、聞いてればいいの」
「……それで、いいんでしょうか」
「それでいいの」
「……わかりました」
ラストは、アマリアに語る。
カレンやセレスティーナを殺すのは、自分とヴィオレットの役目なのだと。
アマリアは、彼女達にさらわれないように、自分の指示に従えばいいと告げた。
だが、アマリアは、ためらっているようだ。
本当に、それでいいのかと。
ラストは、念を押す。
ラストの様子をうかがっていたアマリアは、しぶしぶ、承諾した。
――アマリア、お前は、自分の手を汚すな。何があっても……。
ラストは、アマリアに手出しさせるつもりなどなかった。
アマリアを連れ去ったのは、自分だ。
だが、それは、アマリアの為でもあり、被害者を出さないためでもある。
矛盾しているが、それが、最善の策であった。
アマリアは、ラストにとって、大事な存在なのだから。
ホールでヴィオレットを待つセレスティーナ。
しかも、ヴァルキュリアに変身して。
だが、その表情は、憎悪を宿していた。
「絶対に、許さない。許さないんだから……」
ヴィオレットに斬られたセレスティーナは、怒りを増幅させている。
抑える事はできないようだ。
あれほど、ヴィオレットに執着していたというのに。
だが、その時だ。
足音が聞こえたのは。
「っ!!」
足音を聞いたセレスティーナは、目を見開き、前を見る。
視線の先には、ヴィオレットが、いた。
ヴィオレットは、ヴァルキュリアに変身して、鎌を手に持ち、ゆっくりと、歩いている。
まるで、獲物を狙う狩人のように。
「ヴぃ、ヴィオレット……」
「探したぞ、セレスティーナ」
一瞬だが、セレスティーナは、ヴィオレットに怯えた。
ヴィオレットの顔は、憎悪を宿しているからだ。
自分以上に。
美しさが見られないほどに。
「殺される覚悟はできてるか?」
ヴィオレットは、セレスティーナに、鎌を向ける。
セレスティーナを殺すつもりだ。
それは、以前と変わりない。
だが、今までは、感情を押し殺して、ベアトリスやライムを殺していた。
今は、感情を抑えきれていない。
感情のままに、セレスティーナを殺そうとしている。
セレスティーナは、それに気付き、なぜ、怯えていたのか、ようやく、理解した。
「冗談じゃないわ!!殺される覚悟なんて、あるもんですか!!」
セレスティーナは、声を荒げて、ヴィオレットに怒りをぶつける。
恐れをかき消すかのように。
だが、ヴィオレットは、セレスティーナをにらんでいる。
瞳に殺気を宿して。
「貴方が、私を殺すって言うんなら、私だって、貴方を殺してやるわ!!」
セレスティーナは、カードを手にして、構える。
自分を殺すつもりであれば、セレスティーナも、容赦はしない。
相打ち覚悟で、殺すつもりだ。
ヴィオレットが、手に入らないのであれば。
「覚悟なさい」
「それは、こっちのセリフだ!!」
ヴィオレットは、床を蹴り、セレスティーナに向かっていく。
セレスティーナを確実に仕留める為に。
だが、セレスティーナは、ヴィオレットから、遠ざかり、距離を取る。
そのまま、カードを投げつけた。
魔法・スプラッシュ・スパイラルを発動しながら。
カードは、水の渦と共に、回転しながら、ヴィオレットに襲い掛かろうとしていた。
「無駄だ!!」
ヴィオレットは、あえて、水の渦に突っ込む。
魔技・スパーク・インパクトを発動しながら、鎌を振り下ろす。
水の渦の中で、雷のオーラが爆発し、水しぶきが飛び散る。
強引に、セレスティーナの魔法をかき消したのだ。
傷を負いながらも。
ヴィオレットは、そのまま、鎌を薙ぎ払い、カードを切り裂いた。
だが、カードは、再生され、ヴィオレットを切り裂こうとする。
それでも、ヴィオレットは、魔法・スパーク・スパイラルを発動して、カードを吹き飛ばした。
それも、斬られながら。
無茶苦茶な戦いだ。
セレスティーナは、あっけにとられていた。
その時だ。
ヴィオレットが、魔法・スパーク・ショットを発動したのは。
雷の弾が、セレスティーナに襲い掛かった。
「きゃっ!!」
セレスティーナは、雷の弾に当たってしまう。
回避する間もなかったのだ。
セレスティーナは、魔技・スプラッシュ・ブレイドを放ちながら、カードを投げつける。
それでも、ヴィオレットは、唸り声を上げながら、鎌を振り回し、強引に魔技やカードを吹き飛ばした。
――な、なんなの?あれじゃあ、まるで、獣みたいじゃない!もしかして、私が、怒らせたから?ルチアを排除したって言った事がまずかったの?
セレスティーナは、困惑していた。
今までのヴィオレットの戦い方は、残酷ではあるが、美しかったのだ。
だが、今は、違う。
全くもって。
あの戦い方は、まるで、獣や妖魔のようだ。
別人ではないかと思うほどに。
だが、なぜ、あのような戦い方になったのだろうか。
戦いを繰り広げながら、思考を巡らせるセレスティーナ。
すると、ヴィオレットが、憎悪を抱いた直前の事を思い出す。
自分が、ルチアの事を話した時であった。
ルチアを排除したと堂々と語った時、ヴィオレットは、我を忘れたかのように、怒りを露わにしたのだ。
――ルチア、あの女さえいなければ!!
セレスティーナは、怒りを露わにした。
全ては、ルチアのせいだと思い込んで。
だが、その時だ。
ヴィオレットは、セレスティーナに、迫ったのは。
鎌を振り下ろすヴィオレット。
セレスティーナは、とっさに、カードを投げつけ、ヴィオレットの攻撃を防ぐが、衝撃を受け、吹き飛ばされてしまった。
「っ!!」
吹き飛ばされたセレスティーナは、尻餅をついた。
その直後、ヴィオレットが、セレスティーナに、鎌を向けたのは。
「セレスティーナ」
「……」
「死ね!!」
ヴィオレットは、鎌を振り下ろす。
容赦なく。
セレスティーナを殺すつもりだ。
だが、その時だ。
セレスティーナが、宝石を握りしめたのは。
宝石は輝きだし、ヴィオレットの鎌をはじいた。
「うぐっ!!」
ヴィオレットは、バランスを崩しかけるが、足に力を入れ、体勢を整える。
光が止み、セレスティーナが、姿を現した。
「さっきから、言ってるでしょ。死ぬつもりなんてないって。私には、これがあるもの」
セレスティーナは、ヴィオレットの前に立つ。
青いシルクハットをかぶり、白のビスチェに青と黒のスカートを履いている。
まるで、手品師のようだ。
彼女のもう一つの力・サイキッカーモードを発動したのだ。
「さあ、ヴィオレット。殺してあげるわ。覚悟なさい」
セレスティーナは、構えた。
今度こそ、ヴィオレットを殺すために。