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楽園世界のヴァルキュリア―破滅の少女―  作者: 愛崎 四葉
第四章 執着の水のヴァルキュリア
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第五十四話 守るために

 セレスティーナは、ヴィオレット達の前に姿を現した。

 しかも、ヴァルキュリアに変身した状態で。


「まさか、お前がここに来ていたとは」


「ふふ。悪い子をお仕置きするのは、当然でしょ?それも、ヴァルキュリアの務めだと思うわぁ」


 ヴィオレット達にとっては、予想外であった。

 まさか、セレスティーナが、ここに来るとは。 

 セレスティーナは、ハスネが、単独行動を起こしたことに対して、憤り感じていた。

 しかも、ヴィオレットを殺そうとしていたのだ。

 ゆえに、粛清した。

 処罰したのだ。

 ただ、それだけであった。


「じゃあ、ハスネは……」


「ええ、殺したわぁ。だから、安心して」


 セレスティーナの話を聞いたラストは、察した。

 ハスネは、死んだのだと。

 しかも、セレスティーナに殺されて。

 セレスティーナは、堂々と答えた。

 それも、微笑みながら。


「何が目的だ」


「あらぁ。決まってるじゃなぁい。貴方が、欲しいのよぉ、ヴィオレット」


 ヴィオレットは、セレスティーナに問いかける。

 なぜ、ここに来たのか。

 セレスティーナの目的は、ただ一つだ。

 ヴィオレットを手に入れる事。

 ただ、それだけだ。


「こっちに来ない?一緒に、行きましょう?」


 セレスティーナは、ヴィオレットを誘う。

 自分と共に行こうと。

 セレスティーナは、手を伸ばした。

 ヴィオレットを手に入れようとして。


「断る。誰がお前の所に行くか」


 ヴィオレットは、拒絶した。

 セレスティーナと共に行くつもりはない。

 セレスティーナのものになるつもりなど、毛頭ないのだ。

 ヴィオレットが、やるべきことは、ただ一つであった。


「さっさと、死んでもらうぞ」


 ヴィオレットは、鎌を振り回す。

 実は、すでに、ヴァルキュリアに変身していたのだ。

 ゆえに、セレスティーナを今すぐに出も殺せる。

 殺そうと思えば。


「ふふふ。怖い顔。でも、素敵よぉ。さすが、私のヴィオレット」


 拒絶され、刃を向けられたというのに、セレスティーナは微笑んでいる。

 まるで、美しいものを見て、見とれているかのようだ。

 いや、実際、見とれているのであろう。

 ヴィオレットの美しさと強さに魅入られているのだ。

 彼女の冷酷な表情も、セレスティーナにとっては、愛おしい。

 永遠に、自分のものにしたいくらいだ。


「私は、戦うつもりはないわぁ。でも、どうしても、っていうのなら……」


 もちろん、セレスティーナは、ヴィオレットと戦うつもりはない。

 美しい肌に、傷をつけたくないのであろう。

 だが、どうしてもというのであれば、彼女にも、考えがあるようだ。

 セレスティーナは、カードをヴィオレットに向かって投げる。

 だが、カードは、ヴィオレットから、遠ざかっていく。

 一体、何をしようと言うのであろうか。

 ヴィオレットは、あたりを見回し、警戒した。

 だが、その時だ。

 カードが、ラストの肩を切り裂いたのは。


「ぐっ!!」


「ラスト!!」


 一瞬の出来事であった。

 ヴィオレットも、ラストも、警戒していたのだ。

 セレスティーナのカードは、セレスティーナの意思で、動いている魔法のカードのようなものだ。

 ゆえに、どのようにカードが、襲い掛かるか、警戒しなければならない。

 だというのに、気付けば、ラストは、肩を斬られていたのだ。

 ラストが、苦悶の表情を浮かべる。

 状況を把握できないまま。


「彼を殺すわ」


 セレスティーナは、冷酷な表情を見せる。

 自分に刃を向けるのであれば、容赦なく、ラストを殺すつもりなのだろう。

 ハスネのように、カードをラストの心臓突き刺す事も、造作もない。

 ゆえに、ヴィオレットは、セレスティーナに従うしかないようだ。


「ちっ!!」


 ラストは、舌打ちをしながら、いくつもの短剣をセレスティーナに投げつける。

 もちろん、短剣で、セレスティーナを殺す事は不可能だという事は、ラストも、わかっている。

 だが、抵抗することはできるはずだ。

 セレスティーナの隙を作り、ヴィオレットと共に逃げるつもりなのだろう。

 だが、セレスティーナは、カードで、短剣をはじく。

 それも、いとも簡単に。

 ラストは、目を見開き、驚愕した。

 カードは、短剣よりも、もろいはずだ。

 はじかれるはずがないと思っていた。 

 だからこそ、短剣を投げた。


「無駄よ」


 セレスティーナは、冷酷な表情をラストに向ける。

 まるで、殺意を向けているかのようだ。

 セレスティーナは、カードをラストに投げる。

 危機を感じたヴィオレットは、すぐさま、ラストの前に立ち、かばおうとするが、それよりも早く、セレスティーナのカードが、ラストの体を切り刻んだ。


「ぐああああっ!!」


「ラスト!!」


 ラストが、絶叫を上げながら、うつぶせになって倒れる。

 ヴィオレットは、すぐさま、ラストの元へ駆け寄ろうとした。

 ラストを守るためだ。

 そうでもしなければ、セレスティーナは、ラストを殺そうとするだろう。

 だが、その時であった。


「動かないで!!」


 セレスティーナが、声を荒げる。 

 それと同時に、カードが、ラストに向かって放たれた。

 だが、寸前のところで止まったのだ。

 ヴィオレットは、それ以上、動けなかった。

 セレスティーナが、何をしようとしているのか、察して。


「動いたら、彼を殺すわ」


「……」


 セレスティーナは、ヴィオレットを殺す。

 一歩でも、動けば、ラストを殺すつもりだ。

 セレスティーナは、容赦しないだろう。

 ヴィオレットは、黙ってしまった。

 身動きが取れないまま。


「ねぇ、取引しなぁい?」


「何?」


 セレスティーナは、にこやかな表情を浮かべて、ヴィオレットに語りかける。

 なんと、取引を持ち掛けたのだ。

 ヴィオレットは、セレスティーナをにらんだ。

 彼女が、何をするつもりなのかと、警戒して。


「貴方が、来てくれれば、彼を見逃してあげる。それ以上は、何もしないわぁ」


「……断れば、こいつを殺す、か」


「そうよぉ」


 セレスティーナは、ヴィオレットにこちらに来るように要求したのだ。

 もし、断れば、ラストは、殺されてしまう。

 セレスティーナなら、殺すだろう。

 確実に。

 ヴィオレットの取るべき選択は、たった一つしかなかった。


「ヴィオレット……」


 ラストが、体を震わせながら、顔を上げる。

 口から、血を流しながら。

 重傷を負っているようだ。

 このままでは、ラストが、死んでしまう。

 だが、ラストは、反撃しようとしているのだろう。 

 ヴィオレットを連れていかせるつもりなど毛頭ないのだ。


「ラスト、動くなよ。お前が動けば、こいつは、お前を殺す」


「……」


 ヴィオレットは、ラストに警告する。

 もし、動けば、ラストは、殺されてしまうだろう。

 だからこそ、ヴィオレットは、ラストに警告したのだ。

 ラストは、ヴィオレットに従うしかなかった。

 抵抗もできないまま。


「いいだろう。ついていってやる」


「あら、うれしい」


 ヴィオレットは、セレスティーナの要求を受け入れた。

 ラストを助けるために。

 そうするしかなかったのだ。

 セレスティーナは、最高の笑みを浮かべる。

 ヴィオレットが、自分の元へ来るというのだ。

 セレスティーナにとって、心底、うれしいのだろう。


「さあ、こっちへ、いらっしゃぁい」


「……」


 セレスティーナに命じられるがままに、ヴィオレットは、セレスティーナの元へと歩み寄る。

 すると、セレスティーナは、ヴィオレットの腕をつかみ、ロープで縛った。

 逃げられないようにするためだ。

 ヴィオレットは、抵抗することなく、立ったままであった。


「ふふ、捕まえた」


 ヴィオレットを拘束し、喜ぶセレスティーナ。

 これで、ヴィオレットは、自分のものだと思い込んでいるのだろうか。

 心底、腹立たしい。

 だが、セレスティーナに刃向うわけにもいかず、ヴィオレットは、歯を食いしばった。


「ラストを解放しろ」


「はぁい」


 ヴィオレットは、セレスティーナに命じる。

 ラストを助けたいのだ。

 セレスティーナは、上機嫌でカードを自分の元へと引き寄せる。 

 と言っても、一枚、カードを手にしたままだ。

 いつ、ラストが、反撃するか、わからない。

 だからこそ、威嚇する為に、持っているのだろう。

 ラストは、激痛により、動けなくなっていた。

 

「さあ、行きましょう?」


 セレスティーナは、ヴィオレットを連れて、宮殿へと戻る。

 上機嫌で。

 ヴィオレットは、歩き始めた。

 ラストを守るために、自ら、セレスティーナに捕まってしまったのであった。


「待て……ヴィオレット……」


 ラストは、手を伸ばす。

 しかも、震わせながら。

 だが、その直後、意識が遠のき始めた。

 重傷を負っているからであろう。

 ラストは、抵抗を試みるが、抵抗むなしく、そのまま、意識を手放してしまった。


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