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楽園世界のヴァルキュリア―破滅の少女―  作者: 愛崎 四葉
第四章 執着の水のヴァルキュリア
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第五十一話 血に濡れたカード

 レジスタンスのメンバーの死体が、広場にさらされている事は、すぐに、クライドの耳に入った。

 クライドは、十分な情報を手に入れた後、ヴィオレット、ラスト、アマリアを呼び寄せ、事件の事を話した。


「それ、本当なのかよ」


 ラストは、信じられないと言わんばかりの表情で、尋ねる。

 予想できなかったのだろう。 

 まさか、殺人事件が起こるとは。

 セレスティーナが、そのような事をするとは、思えない。

 ヴィオレットに執着はしているが、そこまで、狂ってはいないのだ。

 むやみに、帝国の民を殺す事はないと、予想いた。


「そうだ」


「しかも、殺したのは、ヴァルキュリアか、ヴァルキュリア候補かもしれないってさ~」


 クライドは、冷静に答える。 

 もちろん、クライドも、最初は、驚いていた。

 彼にとっても、予想外だったのだから。

 アトワナは、いつものように、説明する。

 もう、犯人の目星までついているようだ。

 さすがと言ったところであろう。


「なぜ、そう言いきれる?」


「これ」


 ヴィオレットは、なぜ、犯人の目星がついたのか、尋ねる。

 もちろん、彼女も、セレスティーナか、彼女に仕えるヴァルキュリア候補ではないかと、推測していた。

 アトワナが、そう語るという事は、確定と見て間違いないのだろう。

 情報屋が、曖昧な情報を流すとは到底思えないのだから。

 ヴィオレットに尋ねられたアトワナは、ヴィオレットにある物を見せる。

 それは、血に濡れたカードであった。


「これは、カード?」


「そうそう」


「広場の所に置いてあったそうだ。殺された奴らと一緒にな」


 ヴィオレットは、カードを手にする。

 カードを目にしただけで、彼女も、確信を得たようだ。

 クライドは、ヴィオレットに説明する。 

 なぜ、自分達が、このカードを手にしたのか。

 帝国兵に見つかる前に、回収したのだ。

 カードを見れば、帝国兵も、誰が、犯人なのかは、わかってしまう。

 ゆえに、隠蔽されてしまうだろう。

 ヴァルキュリアやヴァルキュリア候補が、殺人事件を起こしたなどと、知られたくないはずだ。


「けど、殺害現場は、広場じゃない。裏路地っぽいよ~」


「なんで、そう思ったんだ?」


 アトワナは、さらに、話を続ける。

 確かに、死体が置かれてあったのは、広場だ。

 だが、クライド達は、殺害現場の特定まで、できているようだ。

 さすがと言ったところであろう。

 なぜ、裏路地だと思ったのか、ヴィオレットは、尋ねた。


「裏路地に大量の血がついていたからです。広場よりも、大量の」


「しかも、引きずられた後まで、残ってたし~」


「なるほど」


 ラセルが説明する。

 裏路地にもあったのだ。

 大量の血痕が。

 しかも、広場よりも、大量であった。

 何者かに引きずられた後まで残っていたらしい。

 アトワナが言うのだから、間違いないだろう。

 それを聞いたラストは、納得した。


「なぜ、そのような事を……」


「私をおびき寄せるためだ」


「え?」


 アマリアは、理解できなかった。

 仮に、セレスティーナか、ヴァルキュリア候補の少女が、犯人だったとして、なぜ、このような事をしたのだろうか。

 いや、もう、確信は、得ている。

 なぜなら、カードを目にした瞬間、アマリアも、気付いてしまった。

 彼女達のどちらかが、殺人犯なのだと。

 罠にはめられた可能性もあるが、ライムやベアトリスの様子からして、それは、あり得ないと思っていた。

 ならば、なぜ、殺人事件を起こしたのか。

 ヴィオレットは、確信を得ているらしく、語った。


「セレスティーナは、私を欲しがっている。だから、あえて、同士を殺して、私をおびき出そうとしているんだ」


 ヴィオレットは、セレスティーナの犯行と見ているようだ。

 当然であろう。

 ヴァルキュリア候補が、単独で動くとは、到底思えない。

 ゆえに、セレスティーナが、自分を欲している為、あえて、殺人事件を起こしたのだ。

 カードを置いたのも、自分が、犯人であるとわからせるためであろう。


「もし、ヴィオレットが、出てこなかったら……」


「他の奴らが、犠牲になるだけだ」


「そんな……」


 アマリアは、恐る恐る尋ねる。

 このままだとどうなるのか。

 答えは、簡単だった。

 ヴィオレットが、出てこないのであれば、殺人事件は、続くだけだ。

 つまり、他の帝国の民が、犠牲になるだけ。

 セレスティーナなら、やりかねないだろう。 

 アマリアは、愕然としてしまった。

 ショックを受けているのだろう。


「中々、面白そうなことになってきたよね」


「何を言って……」


「ああ」


「え?」


 ラストは、笑みを浮かべて、呟く。

 彼の笑みを目にしたアマリアは、とても、理解できなかった。

 なぜ、面白そうだと言えるのだろうか。

 自分達の同士が、殺されたというのに。 

 それも、身勝手な理由で。

 だが、ヴィオレットも、同じことを思っていたらしい。

 アマリアは、驚き、動揺した。

 二人は、何を考えているのか、全くもって、理解できない。


「ちょうどいいかもしれないな」


 クライドも、何か、いい案が思いついたらしい。

 殺人事件を止め、セレスティーナを殺すための案が。



 何も知らないセレスティーナは、頬杖をついて、外を庭を眺めていた。

 もちろん、対策はとっていない。

 ヴィオレットを殺すなどするわけがないのだから。

 楽しそうに庭を眺めているセレスティーナを見たハスネは、彼女の事を心配していた。


「ハスネちゃーん」


「あ、はい」


「紅茶を用意してくれる?」


「はい。ただいま」


 セレスティーナは、ハスネに、紅茶を頼む。

 頼まれたハスネは、嬉しそうに頭を下げ、ハスネに背を向けた。

 だが、その時であった。


「ちょっと、まってぇ」


「え?」


 セレスティーナは、ハスネを呼び止める。

 何かに気付いたようだ。

 ハスネは、立ち止まり、振り向こうとするが、セレスティーナは、すでに、ハスネの元まで歩み寄っていた。

 セレスティーナは、ハスネの腕をつかむ。

 ハスネの腕には、血がついていた。


「怪我、しているみたいだけど」


「あ……その……」


 セレスティーナは、ハスネの腕に血がついているを目にして、彼女を呼び止めたようだ。

 この血は、怪我したからではない。

 殺したレジスタンスのメンバーの返り血なのだ。

 ハスネは、戸惑い始めた。

 どうやって、答えようかと。


「こ、転んで、花瓶を割ってしまって、その破片で、切ってしまったんです」


「そう。痛かったわねぇ」


「は、はい……」


 ハスネは、戸惑いながらも、ごまかす。

 セレスティーナに知られないように。

 セレスティーナは、ハスネの嘘を信じたようだ。

 だが、ハスネは、心が痛んだ。

 大事なセレスティーナを騙してしまったのだから。


「紅茶の前に、手当て、してきなさぁい」


「は、はい。すみません……」


 セレスティーナは、ハスネに手当てをするよう、促す。

 ハスネは、うつむきながらも、頭を下げ、急いで、背を向けて、部屋から出た。 

 まるで、逃げるかのようだ。


「……」


 ハスネが部屋から去った後、セレスティーナは、鋭い目つきをしていた。

 まるで、何かに気付いているかのようだ。



 時間が経ち、夜になる。

 ハスネは、セレスティーナに気付かれないように、宮殿から出て、裏路地へと入った。


「さて、レジスタンスは、どこにいるかな……」


 ハスネは、警戒しながら、あたりを見回す。

 今夜も、レジスタンスのメンバーを襲撃するつもりだ。

 目的は、ただ一つ。

 ヴィオレットをおびき寄せ、殺すために。

 その時だ。

 フードをかぶった二人組が裏路地を歩いていくのを目にしたのは。


「やっぱり、宮殿の侵入は、無理かぁ」


 男性が、呟く。

 それも、大声で。

 まるで、聞こえるかのようにだ。

 違和感を持ってもいいはずなのだが、ハスネは、何も、違和感を感じず、尾行する。

 情報を手に入れたのだ。

 何も、疑う余地はなかったのだろう。

 いや、自分をおびき寄せるためだったとしても、ハスネなら、返り討ちにしてしまうはずだ。

 彼女は、ヴァルキュリア候補。

 それなりの実力はあるのだから。


「このままだと、セレスティーナを殺すのは、無理かもしれねぇなぁ~」


 男性は、再び、大きな声で呟く。

 セレスティーナを殺すというワードを聞いたハスネは、拳を握りしめた。


「やはり、ヴィオレットは……」


 ハスネは、怒りを露わにしている。

 ヴィオレットは、セレスティーナを殺すつもりなのだと確信を得たのだ。

 ゆえに、許せなかった。

 大事なセレスティーナを殺そうとしているのだから。


――このまま、生かしてなるものか!!絶対に、殺してやる!!


 ハスネは、決意を固めた。

 ヴィオレットを殺すと。

 セレスティーナを守るためだ。

 ハスネは、すぐさま、行動に移した。

 もう一度、レジスタンスのメンバーを殺して、ヴィオレットをおびき寄せると。

 ハスネは、カードを投げる。

 カードは、回転しながら、フードの二人組の首を切り裂こうとした。

 だが、その時だ。

 フードの二人組が、短剣で、鎌で、カードを切り裂いたのは。


「え?」


 ハスネは、驚き、呆然としていた。

 予想もしていなかったのだ。

 自分の攻撃は、あっさり、はじかれてしまうとは。


「やはり、お前だったか」


 女性の声がする。

 しかも、聞いたことのある声だ。

 その声は、ハスネが、最も、憎んでいる人物と同じ声であった。

 ハスネが、フードの二人組の正体に気付いたのと同時に、二人組は、振り向き、フードを外した。


「ハスネ」


 フードの二人組は、言うまでもなく、ヴィオレットとラストであった。

 

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