第四十九話 執着
ライムが、ヴィオレットに殺されてから、一日が経った。
王宮エリアから、サファイアエリアに帰還したセレスティーナ。
部屋に戻ると、ヴァルキュリア候補の少女が、セレスティーナを出迎えた。
「お帰りなさいませ。セレスティーナ様」
「はぁい。ただいま、ハスネちゃん」
ヴァルキュリア候補の少女は、頭を下げる。
セレスティーナは、少女の頭を撫でた。
ライムやベアトリスと違って、二人の関係は良好のようだ。
下僕のように虐げられているわけではない。
ハスネと呼ばれた少女も、セレスティーナを慕っていた。
「セレスティーナ様、ライム様が……」
「知ってるわぁ。殺されたんでしょぉ」
「はい……」
ハスネは、うつむき、悲しそうな表情を浮かべる。
彼女も、知っていたのだ。
ライムが、ヴィオレットに殺された事を。
もちろん、セレスティーナも、知っていた。
だが、どう見ても、他人事のようだ。
セレスティーナは、何を考えているのかは、不明だ。
ゆえに、ハスネは、戸惑った。
「おそらく、次は、ここに来るはず。そうなると……」
「素敵」
「え?」
ハスネは、言いにくそうに、話す。
推測しているようだ。
ヴィオレット達は、ここ、サファイアエリアに侵入してくるのではないかと。
となると、今度は、セレスティーナが、狙われてしまう。
自分の大事なセレスティーナが、ヴィオレットに殺されてしまうかもしれないのだ。
そう思うと、ハスネは、恐れていた。
セレスティーナが、自分からいなくなるなんて、想像もしたくないのだろう。
だが、肝心のセレスティーナは、喜んでいる。
ハスネとは正反対に。
ハスネは、驚愕し、戸惑っていた。
「素敵じゃない!!ヴィオレットが、ここに来るんでしょ?」
「え、ええ」
セレスティーナは、喜んでいるのだ。
ヴィオレット達は、次にここに来る。
そう思うとうれしくてたまらないのだ。
ハスネは、うなずくが、理解できなかった。
なぜ、喜んでいるのか。
「楽しみだわ!!ついに、ヴィオレットが、私のものに……」
「せ、セレスティーナ様……」
「何かしらぁ?」
セレスティーナは、待ちわびていた。
ヴィオレット達が、ここに来る事を。
そうなれば、ヴィオレットを手に入れられるのだ。
それほど、ヴィオレットに執着している。
異常と言えるほどに。
ハスネは、戸惑いながらも、セレスティーナに呼びかけた。
「ほ、本当に、裏切りのヴァルキュリアを殺さないのですか?」
「そうよぉ」
ハスネは、セレスティーナに問いかける。
本当に、ヴィオレットを殺すつもりはないのかと。
もちろん、セレスティーナは、うなずいた。
ヴィオレットを手に入れたいのだ。
ゆえに、殺すはずがなかった。
「ですが、裏切りのヴァルキュリアは……」
「もしかしてぇ、私が、殺されると思ってるのぉ?」
「はい……」
ハスネは、懸念しているのだ。
セレスティーナは、殺されてしまうのではないかと。
ハスネの不安を推測しているセレスティーナ。
ハスネは、静かにうなずいた。
その時だ。
セレスティーナが、ハスネに迫ったのは。
「っ!!」
セレスティーナに迫られ、ハスネは、驚く。
初めて、セレスティーナが、怖いと感じたのだ。
殺気を抱いているわけではない。
それでも、恐れを抱いていた。
「大丈夫よぉ、ハスネちゃん。私は、死なないわぁ」
「は、はい……」
セレスティーナは、ハスネの不安を取り除くように語る。
微笑みながら。
自分は、死ぬはずがないと、確信を得ているのだろうか。
ハスネは、戸惑いながらも、うなずいた。
「私はぁ、殺される前に、ヴィオレットを手に入れるのぉ。早く、来ないかしらぁ」
セレスティーナは、自分が死なないと、断言したのは、理由があった。
殺される前に、ヴィオレットを手に入れればいいと思っているのだ。
どのような方法で、手に入れようとしているかは、不明だ。
それでも、殺せないように、拘束してしまうのだろう。
自分のものにする為に。
セレスティーナは、楽しみにしていた。
ヴィオレットが、自分のものになる時を。
――ヴィオレット。あいつは、セレスティーナ様を惑わしているんだ。
ハスネは、思い込んでいた。
セレスティーナが、ヴィオレットに執着しているのは、ヴィオレットが、セレスティーナを惑わしたからだと。
何らかの方法で。
当然、ハスネも、セレスティーナも、精神が宝石のせいで、侵食されているとは、知らない。
ゆえに、ハスネは、ヴィオレットを憎んでいた。
大事なセレスティーナを変えてしまったと思い込んで。
――私が、あいつを、殺さなければ……。
ハスネは、ヴィオレットを殺す事を決意した。
セレスティーナを元に戻すことができるではないかと、推測して。
ライムを殺した後、ヴィオレット達は、すでに、サファイアエリアに侵入していた。
クライド達の協力もあり、難なく、侵入で来たようだ。
ちなみに、ラストの仮面は、元に戻っていた。
彼曰く、替えがあったらしい。
「どうにか、侵入できたな」
「そうだな」
クライドが所持する屋敷に入ったヴィオレット達。
侵入に成功し、ラストは安堵しているようだ。
クライドも、ほっとしているらしい。
それもそうであろう。
警備は、強化されているはずだ。
ベアトリスだけでなく、ライムまでもが、殺されたとなれば、帝国は、ヴィオレットを捕らえようと、躍起になるだろう。
だが、クライド達と共に行けば、問題ない。
帝国兵が、ヴィオレットの存在に気付き、疑いをかけ、問いただそうにも、できないのだ。
クライドがいる限り。
帝国兵は、クライドを目にした途端、体がこわばり、たやすく通してしまう。
クライドは、それほどの権力を持っているらしい。
一体何者なのだろうか。
ヴィオレットとアマリアも、わからない。
ラストは、知っているようだが。
「ウォーレットさんも、お怪我が治ってよかったです」
「あ、ありがとうございます」
アマリアは、ウォーレットの怪我が治って、安堵しているようだ。
それもそうであろう。
彼は、ユユとヤヤの攻撃を受け、重傷を負ってしまったのだ。
アマリアは、彼を心配していた。
だが、クライドが、部下に命じていたのだ。
ウォーレットを助けるようにと。
そのおかげで、ウォーレットは、命を落とさずに済んだ。
アマリアの微笑みを目にしたウォーレットは、顔を赤らめながらも、うなずいた。
「あー、ウォーレット照れてる~」
「アトワナ、やめなさい」
ウォーレットの表情を目にしたアトワナは、冷やかし始める。
この状況を楽しんでいるかのようだ。
そんな彼女に対して、キャリーは、冷静な態度で、アトワナを制止した。
「良かったな、ウォーレット」
「あ、ああ。すまなかったな」
オルゾも、安堵している。
心配していたのだろう。
ウォーレットが、ヴァルキュリア候補に殺されかけたと聞かされたのだ。
心配をかけてしまったと察したウォーレットは、頭を下げて。
申し訳ないと感じて。
だが、誰も、咎めるつもりはない。
本当に、安心しているのだから。
「さて、次は、セレスティーナですね」
「そうだな」
ラセルは、次の標的は、セレスティーナだと呟く。
ヴァルキュリアは、残すところ、あと二人。
カレンとセレスティーナだ。
ここを統治しているのは、セレスティーナ。
クライドも、覚悟を決めたようで、うなずいた。
「ねぇ、ヴィオレット。あんたさ、あいつが、あんたの事、狙ってたけど、何かしたの?」
「そうそう、気になってたんだよね~。どうやって、心を奪ったのさ」
「さあな」
ハイネは、気になった事があったようで、ヴィオレットに問いかける。
それは、セレスティーナの事だ。
セレスティーナが、ヴィオレットに執着している事は、クライド達も、知っている。
ベアトリスのように、殺し合いを望んでいるわけではない。
ヴィオレットを手に入れようとしているのだ。
だが、なぜなのかは、不明だ。
ゆえに、ミーナも、気になっており、ヴィオレットに問いかけるが、ヴィオレットさえも、知らないのだ。
おそらく、侵食が始まっているからだと思われるが。
「とりあえず、宮殿の様子とか、探って、計画建てようぜ」
「そうだな」
ラストは、宮殿に侵入する為に、宮殿がどういう状態なのか、探ろうと提案する。
宮殿の状態を把握したうえで、計画を立てようとしているようだ。
もちろん、ヴィオレットも、そのつもりだ。
ゆえに、ヴィオレット達は、すぐに、屋敷を出て、宮殿に向かった。
だが、やはり、予想通りと言ったところであろうか。
宮殿周辺は、帝国兵が、警備している。
ゆえに、簡単に、侵入はできないであろう。
ヴィオレット達は、一度、屋敷に戻り、明日、作戦を立てることにした。
その日の夜、ラストは、廊下を歩いていた。
「ふぅ。やっぱ、簡単には入らせてくれなさそうだな。さて、どうするかな、ヴィオレットは」
ラストは、呟き始める。
予想していたとは言え、今回も、一筋縄ではいかない。
ゆえに、慎重に計画を立てる必要がある。
ヴィオレットは、どうやって、セレスティーナを殺すのかと、ラストは、推測しているらしい。
まるで、待ちわびているかのようであった。
だが、その時であった。
「ラスト」
「ん?」
声をかけられたラストは、振り向く。
なんと、声をかけたのは、アマリアであった。
「聖女……サマ……」
アマリアが、声をかけるとは、思いもよらず、ラストは、戸惑っていた。
今まで、拒絶されていたというのに……。




