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楽園世界のヴァルキュリア―破滅の少女―  作者: 愛崎 四葉
第三章 小悪魔の風のヴァルキュリア
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第三十九話 彼女達は、危険

 ライムに命令されたユユとヤヤは、街中を歩いている。

 それも、帝国の民と同じような服装で。

 変装しているようだ。

 これも、ライムの命令なのだろうか。

 ヤヤは、街中を見回しながら、立っている。

 ユユの姿は見当たらない。

 どこかに出かけているようだ。

 ヤヤは、ユユが戻ってくるのを待っているのだろう。

 賑やかで穏やかな街並みを目にしたヤヤ。

 おそらく、ヴィオレット達が、侵入している事は、気付いていないのだろう。

 そう思うと、怒りがこみあげてくる。 

 ヴィオレットさえいなければ、こんなことには、ならなかったのに、と。

 その時だ。

 ユユが、戻ってきたのは。


「どう?」


「うん、話は聞けた。ここにいるって」


 ヤヤは、ユユに尋ねる。

 どうやら、聞き込みをしていたようだ。

 ユユは、地図を広げて、指を指した。

 宮殿から、少し離れた場所を。


「お店?」


「うん」


 ユユが、指さした場所は、お店のようだ。

 と言っても、どのような店なのかは、ユユもヤヤも知らない。

 だが、ユユは、誰に、何を聞いてきたのだろうか。

 いや、ライムは、どのような命令を二人にしたのだろうか。


「ねぇ、本当にやるの?」


「やるしかないよ。だって、断ったら……」


 ヤヤは、恐る恐る尋ねる。

 これから、二人がやることは、禁じられている事のようだ。

 だからこそ、ヤヤは、恐れているのだろう。

 本当に、ライムの命令通りに動いていいのか。

 だが、ユユは、やるしかないと思っているらしい。

 ライムの命令にそむけばどうなるか、わかっているからだ。


「そう、だよね……」


 ヤヤは、うつむきながらも、うなずく。

 もう、やるしかない。

 腹をくくるしかないのだと、察して。


「生き残るためには……ライム様の命令を聞くしかない……たとえ、帝国の民を殺すことになっても……」


「う、うん」


 ユユは、覚悟を決めているようだ。

 生き残るためには、ライムの命令を聞くしかない。

 彼女達に、選択の余地はないのだ。

 その命令が、帝国の民を殺せと言う命令であってもだ。

 彼女達は、殺すのだろう。

 ライムの命令に従って。

 ヤヤは、戸惑いながらも、うなずく。

 まるで、ユユが、追い詰められているように見えたからだ。


「れ、レジスタンスなら、いいよね?」


「う、うん。反逆者だもんね……」

 

 ヤヤは、恐る恐る尋ねる。

 もし、仮に、レジスタンスのメンバーを殺したとしても、まだ、大丈夫なのではないかと。

 帝国の民を殺す事は、禁じられている。

 だが、彼らは、反逆者。

 正当防衛だと言えば、許してもらえる。

 二人は、そんな気がしていた。


「大丈夫、だよね?」


「大丈夫だよ。説明すれば、きっと……」


 ヤヤは、確認するように、尋ねる。

 まだ、恐れているのだろう。

 だが、ユユは、大丈夫だと話した。

 説明すれば、わかってもらえると思っているのだろう。

 自分達は、何も、悪くないと言えば……。


「行こう……ヤヤ」


「うん……ユユ」


 ユユとヤヤは、手をつないで、歩き始める。

 手をつなげば、気持ちが落ち着くのだ。

 ライムがいない時は、いつも、そうしてきた。

 二人なら、大丈夫だと再確認するかのように。



 アマリアは、地下室にいる。

 部屋の鍵はかかった状態だ。

 閉じ込められていると言っても過言ではないだろう。


「はぁ……」


 アマリアは、ため息をついた。

 今、どうなっているのかと、不安に駆られているに違いない。

 ユユとヤヤの事を考えているのだろう。

 だが、その時だ。

 ウォーレットが、部屋に入ってきたのは。


「あ、ウォーレットさん」


「どうですか?何か、困った事は、ありませんか?」


「あ、いえ……」


 アマリアは、立ち上がる。

 ウォーレットの姿を目にした途端、心が落ち着いたからだ。

 もちろん、彼も、闇ギルドに所属している。

 それでも、元帝国兵であり、アマリアの事を受け入れてくれる数すくない人物だ。

 ゆえに、安堵したのだろう。

 ウォーレットは、アマリアを気遣って、尋ねたが、アマリアは、思わず、首を横に振ってしまった。 

 気になっていた事があるというのに。


「ヴィオレット達は?」


「まだ、戻ってきてないようです」


「そう、ですか……」


 アマリアは、ヴィオレットの事を尋ねる。

 戻ってきていないかと。

 だが、ウォーレット曰く、戻ってきていないらしい。

 ヴィオレット達の事も心配しているのだ。

 だが、ユユとヤヤを殺してほしくない。

 アマリアは、二つの願望の狭間で、揺れ動いていた。


「ウォーレットさんは、どう思っているんですか?」


「何をでしょうか?」


「その……帝国を滅ぼすこととか、ヴァルキュリアの事とか……」


 アマリアは、ウォーレットに尋ねた。

 彼は、闇ギルドに所属している。

 闇ギルドの目的は、帝国を滅ぼす事だ。

 そのためには、ヴァルキュリアを殺さなければならないと思っている。

 帝国に仕えていた彼は、今、その事に関して、どう思っているのだろうか。

 アマリアは、気になっていたのだ。


「……自分は、帝国の裏を見てきました」


「裏?」


「そうです」


 ウォーレットは、ためらいながらも、語った。

 帝国に仕えていた彼は、帝国の裏を見てしまったのだ。

 兵長であった彼は、多くの部下を従えてきた。 

 だからこそ、嫌でも見えてしまったのだろう。

 帝国の裏が。


「帝国は、本当に、恐ろしい。自分は、そう思います」


「どうしてですか?」


 帝国の裏を見たからこそ、ウォーレットは、恐ろしく感じ、脱走したのだ。

 部下のオルゾと共に。

 帝国を統治している女帝・コーデリアが、いかに、狡猾で、欲望のままに動いているのか、彼らは、知ってしまった。

 だが、アマリアは、まだ、知らない。

 ゆえに、思わず、問いかけてしまった。

 なぜ、恐ろしく思えたのか。


「帝国は、世界を支配しようとしているのです」


「世界を?」


「島を支配しているのも、そのためかと……」


 ウォーレットは、語る。

 帝国は、世界を支配しようとしているのだと。

 エデニア諸島のほとんどの島が、支配されたのも、帝国の欲望の表れなのだ。

 世界を支配するためなら、どんな手段も使う。

 コーデリアなら、そうするであろう。


「それと、ヴァルキュリアの事ですが……」


「はい」


「彼女達は、危険です」


「どうして、そう言えるのですか?」


 ウォーレットは、アマリアに、ヴァルキュリア達は、危険だと警告する。

 すると、アマリアは、ムキになり、尋ねた。

 なぜ、そう言えるのかと。

 これは、アマリアでさえ、理解できないのだ。

 ヴァルキュリア達が、どれほど、辛く、過酷な状況の中で生きてきたのか、アマリアは、知っているから。

 帝国の為に、命を賭して戦ってきたのだ。

 ゆえに、アマリアは、なぜ、彼女達が、危険だと言えるのか、理解できなかった。


「……聖女様もみたんですよね?ベアトリスの事」


「あ、はい……」


 ウォーレットは、静かに、アマリアに尋ねる。

 アマリアも、見ているからだ。

 ベアトリスの豹変ぶりを。

 もちろん、アマリアも見ている。

 ゆえに、否定はできなかった。


「自分は、トパーズエリアの警備をした事があります。以前のベアトリスは、姉のように頼もしく、優しい方でした」


「私も、そう思っておりました」


 ウォーレットは、かつて、トパーズエリアを警備していたらしい。

 警備中に、ベアトリスにも、あった事があったようだ。

 その時のベアトリスは、とても、穏やかで優しい姉後肌の少女だった。

 アマリアも、その時のベアトリスの事は、今でも、覚えている。

 だからこそ、信じられなかったのだ。

 豹変してしまったベアトリスの事が。

 まるで、別人のように、思えてならなかった。


「ですが、ある日を境に、性格が豹変してしまったんです」


「やはり、そうだったんですか」


 ウォーレットは、真実を語った。

 突然、ベアトリスの性格が、豹変してしまったのだ。

 まるで、狂ってしまったかのように。

 何があったのかは、ウォーレットでさえも、不明であった。


「ラストは、詳しく語らなかったんですが、何かが起こる前触れだと思ったほうがいいと言っていました」


「ラストが?」


「はい」


 ベアトリスの事をラストに話したウォーレットは、ラストから、話を聞いた。

 何かが起こる前触れなのだと。

 つまり、あのベアトリスは、本当に、危険だったのだ。


「もしかしたら……妖魔に?」


「え?」


 ラストが、その事を知っていたとなると、何か、重要な何かを知っているのだろう。

 もしかしたら、妖魔になる前兆だったのかもしれない。

 帝国の民が、全員、妖魔になるのであれば、その可能性も高いであろう。

 と言っても、妖魔の事は、誰にも口外するなとラストにきつく言われている。 

 ゆえに、アマリアは、小声で話したのだが、ウォーレットには、聞こえてしまったようだ。


「あ、いえ。何でもありません」


 アマリアは、首を横に振る。

 絶対に、知られてはならないからだ。

 仮に、ヴァルキュリア達も、妖魔になってしまうのであれば、何とかしなければならない。

 アマリアは、そう、考えていた。

 と言っても、今は、何もできない。

 アマリアにとっては、歯がゆく、辛い事なのであった。



 アマリアがいる店の方では、マスターが、カウンターで、お客と話している。

 もちろん、そのお客は、レジスタンスのメンバーであるが。

 アトワナやハイネもいる。

 何か、話をしているようだ。

 その時であった。

 帝国の民に変装したユユとヤヤが、店に入ってきたのは。


「あら、いらっしゃいませ」


 マスターは、カウンターから出て、ユユとヤヤの元へと歩み寄る。

 だが、ユユとヤヤは、クロスボウを懐から出し、マスターに向けた。


「きゃっ!!」


「な、何!?」


 突然、武器を向けられ、店は、騒然となる。

 アトワナとキャリーも、驚き、立ち上がった。

 彼女達は、油断していたのだ。

 帝国の民であり、ここに来るのは、レジスタンスのメンバーくらいなのだから。


「命令だ」


「聖女を出せ」


 ユユとヤヤは、命じた。

 アマリアが、ここにいる事を知っていたらしい。

 ゆえに、アマリアを出すようにマスターに命じた。


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