第三十四話 狂い始めた狂戦士
ヴィオレットとベアトリスが、死闘を繰り広げている間、地の壁に閉じ込められたラストは、ただ、呆然としているわけではない。
短剣で、地の壁を破壊しようとしていたのだ。
固有技を発動しながら。
「そらっ!!」
ラストは、力を込めて、短剣で、地の壁を刺す。
だが、何度、力を込めても、固有技を発動しても、地の壁は、破壊できない。
それほど、頑丈なのだ。
アマリアも、ロッドで、たたくが、やはり、地の壁は、破壊できなかった。
「ちっ!!ビクともしねぇ!!」
「ど、どうしたら……」
ラストは、舌を巻く。
何をやっても、破壊できないからだ。
このままでは、どうすることもできないであろう。
激しい音だけが響いてくる。
戦いは、激しさを増しているようだ。
ゆえに、アマリアは、焦燥に駆られていた。
どうしたら、ここから、脱出できるのか。
「……ヴィオレットが、ベアトリスを殺すしかないだろうな」
「そんな……」
ラストは、答える。
地の壁から、脱出できる方法は、ただ一つしかないと答えを見出したからだ。
ヴィオレットが、ベアトリスを殺すしかないだろう。
そうすれば、地の壁は、消滅するはずだ。
それを聞いたアマリアは、愕然としていた。
「何?まだ、ベアトリスのこと、守ろうとしてるの?」
「……」
ラストは、苛立ったように、アマリアに問い詰める。
まだ、ベアトリスの事を救おうとしているのかと。
はっきり言って、もう、救いようがないのだ。
ラストは、ベアトリスの様子を見た時から、そう、察したのであろう。
アマリアは、心情を読み取られた気がして、黙ってしまった。
彼女の様子をうかがっていたラストは、ため息をついた。
落胆して。
「いいや。ここから、出るぞ」
「はい」
ラストは、アマリアの答えを待たずして、判断する。
ここから、脱出することを。
もちろん、ベアトリスを殺すために。
ヴィオレットは、ベアトリスと死闘を繰り広げていた。
ヴィオレットも、ベアトリスも、もう一つの力を解放した為、戦いは、激しさを増していた。
二人が、衝突する度に、衝撃が走り、魔法や魔技が、入り乱れ、反動が起こる。
地の壁が、変形するほどに。
「はあっ!!」
「おらよっ!!」
ヴィオレットが、魔技・スパーク・ブレイドを発動する。
だが、ベアトリスは、爪で、ヴィオレットの魔法を切り裂いた。
なんという威力だろうか。
恐ろしく感じるほどだ。
ベアトリスは、ヴィオレットに迫り、爪で、ヴィオレットを引き裂こうとする。
だが、ヴィオレットは、一瞬のうちに回避し、ベアトリスから、遠ざかった。
「これならどうだ!!」
ベアトリスが、魔技・アース・ブレイドを発動する。
それも、何発も。
だが、ヴィオレットは、全てを回避し、ベアトリスに迫る。
すぐさま、魔法・スパーク・ショットを打ちこんだ。
魔法の弾は、ベアトリスを捕らえたが、ベアトリスは、笑みを浮かべる。
互角に戦えることに対して、喜びを感じているようだ。
「やるじゃねぇか」
ベアトリスは、構える。
痛みすらも、受け入れているかのようだ。
今、ベアトリスにとっては、最高の殺し合いなのだろう。
永遠に続けばいいと思うほどの。
だが、ヴィオレットは、この死闘を続けるつもりはない。
すぐさま、ベアトリスに迫った。
「終わりだ!!」
ヴィオレットは、固有技を発動しようとする。
だが、その時だ。
ベアトリスが、ヴィオレットの腕をつかんだのは。
「なっ!!」
「甘いな」
ヴィオレットは、驚愕する。
なんと、ベアトリスは、ヴィオレットのスピードに反応したのだ。
一瞬にして、移動できてしまうというのに。
だからこそ、ヴィオレットは、動揺した。
何が起こったのかと。
ベアトリスは、笑みを浮かべる。
ヴィオレットを捕らえたことに対して、喜びを感じているかのようだ。
ベアトリスは、固有技・シトリン・テラを発動した。
バーサーカーモードで、発動できる固有技を。
爪から宝石の刃が出現し、ヴィオレットを捕らえた。
「うああああっ!!」
ヴィオレットは、何度も、体を切り裂かれ、絶叫を上げる。
衝撃により、吹き飛ばされたヴィオレットは、体から、血を流した。
しかも、固有技を受けたことにより、回復の速度が遅い。
痛みで、動けなくなってしまったのだ。
だというのに、ベアトリスは、容赦なく、ヴィオレットに迫った。
「お前の力はすげぇと思ってるよ。その速さは、異常だ。でも、力は、あたしの方が上だ」
ベアトリスは、なぜ、ヴィオレットのスピードに反応できたのか、語る。
それは、自分の力を使って、強引にスピードを上げたというのだ。
ヴィオレットなら、どう動くは、予想して。
ゆえに、ベアトリスは、ヴィオレットの腕をつかむことができたのであった。
「だから、その力を使って、スピードを出したと?」
「その通りさ!!」
ヴィオレットは、ベアトリスの力が、それほどまでだったとは、思いもよらず、状況を把握できない。
だが、確かに、ベアトリスは、ヴィオレットのスピードに反応した。
認めるしかないのだろうか。
認めたくはないのだが。
ベアトリスは、狂気の笑みを浮かべる。
まるで、勝ち誇ったかのように。
「これで、あたしは、お前よりも、上だぜ!!あたしが、最強だ!!」
ベアトリスは、確信を得たかのように、天を仰いだ。
ヴィオレットに勝ったと思い込んでいるのだろう。
ヴィオレットを殺す事はできるかどうかは、不明だ。
だが、ヴィオレットを打ち負かすことができれば、自分が、最強だと言いたいようだ。
ヴィオレットは、何も、反応しなかった。
反応する力すら、なくなってしまったのかもしれない。
ベアトリスは、上機嫌で、構えた。
「じゃあな!!」
ベアトリスは、固有技・シトリン・テラを発動する。
今度こそ、ヴィオレットを仕留めるためだ。
だが、ヴィオレットは、すぐさま、回避し、ベアトリスの背後に回った。
ベアトリスは、驚き、反応できていない。
今が、チャンスだ。
ヴィオレットは、魔法・スパーク・スパイラルを発動。
ベアトリスは、回避できず、直撃を受け、片膝をついた。
「なるほどな。お前が、殺し合いを望んでるのは、お前自身が、一番強いと、証明したいからか」
「い、いつの間に!?」
ヴィオレットは、察したようだ。
なぜ、ベアトリスが、殺し合いを望んだのか。
自分に執着したのか。
それは、ヴィオレットが、ヴァルキュリアの中で、最強だとベアトリスが認めているからだ。
だからこそ、ベアトリスは、ヴィオレットと殺し合いを望み、打ち負かす事で、自分が、最強である事を証明したかった。
だが、それは、適わない。
その理由は、ヴィオレットは、打ち負かされた振りをしたからだ。
ベアトリスを油断させるために。
ヴィオレットの作戦通り、ベアトリスは、油断した。
しかも、動揺を隠せないようだ。
今、隙だらけの状態であろう。
「だが、残念だったな。私が、全力を出したと思っているのか?」
「何?」
なんと、ヴィオレットは、全力を出していたわけではなかった。
今まで、手を抜いていたというのだ。
これには、さすがのベアトリスも、驚きを隠せない。
ベアトリスは、全力を出していたというのに。
ヴィオレットは、彼女よりも、戦闘能力が、上だと言いたいのであろうか。
「ここからが、本番だ」
ヴィオレットは、構える。
本当に、ベアトリスを殺すつもりだ。
ベアトリスは、後退した。
怯えているようだ。
ヴィオレットに殺されるのではないかと、察して。
「行くぞ!!」
怯えるベアトリスに対して、ヴィオレットは、容赦なく迫った。
それも、一瞬のうちに。
ヴィオレットは、魔技・スパーク・ブレイドを発動。
それも、何度も。
「うっ!!ぐっ!!」
ベアトリスは、ヴィオレットのスピードに反応できず、直撃を受けしまう。
それでも、ヴィオレットは、移動しながら、魔技・スパーク・ブレイドを発動し続けた。
治癒能力が、追いつかないほどに。
「止めだ!!」
「うがあああああああっ!!!」
徹底的に追い詰められたベアトリス。
だが、ヴィオレットの攻撃が、収まるはずがない。
ヴィオレットは、止めを刺せると確信して、ミラージュモードで発動できる固有技・スギライト・ライトニングを発動。
ヴィオレットの手から宝石の刃が、出現した。
それも、鎌の形となって。
ヴィオレットが、手を水平に降ると、鎌も動く。
ヴィオレットに命じられるがままに。
鎌は、ベアトリスの腹を切り裂いた。
ベアトリスは、絶叫を上げ、仰向けになって倒れる。
回復の速度は、遅く、ベアトリスは、起き上がることができなかった。
「やはり、回復の速度が遅いな」
ヴィオレットは、ベアトリスに迫る。
しかも、ヴァルキュリアであっても、固有技を受けたものは、回復の速度が遅い事を確認するかのように。
「今なら殺せるかもしれないな」
回復の速度が遅いため、ベアトリスは、起き上がる事も、抵抗することもできない。
ヴィオレットは、そう、察し、通常モードに切り替えて、鎌を出現させた。
このまま、ベアトリスを殺すつもりのようだ。
「はっ。どうだか……」
「何?」
殺せると言い放ったヴィオレットに対し、ベアトリスが、鼻で笑う。
まるで、見下しているかのようだ。
ヴィオレットは、ベアトリスを見下ろした。
それも、にらむように。
「あたしが、この程度で死ぬはずがねぇ。だって、ヴァルキュリアは、不死身なんだからよ!!」
ベアトリスは、自分が死ぬはずがないと、確信を得ているらしい。
なぜなら、ヴァルキュリアは、不死身だからだ。
いくら、切り裂かれても、再生する。
固有技を発動されてもだ。
ゆえに、ベアトリスは、笑みを浮かべていた。
自分達は、殺されるはずがないと。