第三十三話 偽物の体のなれの果て
「そりゃあ、どういう意味だ?」
衝撃的な言葉を聞かされたベアトリスには、理解できない。
作られた体と言うのは、一体、どういう意味なのだろうか。
ヴィオレットは、何を知っているのだろうか。
「帝国にいる者の魂は、全員、作られた体に入っているんだ」
「へぇ。なんか、良くわかんねぇけど、面白れぇな」
ヴィオレット曰く、帝国の民の魂は、作られた体に入っていると説明するが、全く、理解できない。
同じ言葉を繰り返していただけだからだ。
ヴィオレットは、詳しいことまで知らないのだろうか。
だが、ベアトリスにとっては、どうでもいい。
詳しい事が、わからなくても、今の帝国の民は、異常だったという事が知れたのだから。
ゆえに、面白いと感じたのだろう。
「作られた体だったから、殺してたのか?」
「そうだ。作られた体で、地上に降りるとどうなるか知っているか?」
「知らねぇよ。興味ねぇ」
「だろうな」
ベアトリスは、ヴィオレットが、帝国の民や帝国兵を殺した理由は、作られた体であるが故だと悟った。
作られた体だという事は、本当の体は、すでに、もうどこにもない可能性がある。
つまり、死んだという事だ。
死人を殺していたとしても、人殺しにはならない。
ヴィオレットは、そう言いたいのだろうか。
ベアトリスに問いかけれらたヴィオレットは、うなずく。
否定しないようだ。
すると、ヴィオレットは、作られた体の状態で、地上に降りるとどうなると思うかと、ベアトリスに尋ねるが、もちろん、ベアトリスは、興味がなかった。
ヴィオレットも、知ったうえで、尋ねてみたのであった。
「奴らが、地上に降りると、妖魔になる」
「はぁ?」
さらに、ヴィオレットは、衝撃的な言葉を口にする。
なんと、帝国の民が、地上に降りると妖魔になるというのだ。
ベアトリスは、あっけにとられていた。
今まで、自分達は、帝国とエデニア諸島を守るために、妖魔達と戦ってきたのだ。
その妖魔が、実は、帝国の民だったと言いたいのだろうか。
「つまり、妖魔は、帝国の民のなれの果てだ。私達は、帝国の奴らを殺していたんだよ」
ヴィオレットは、語った。
知っていたのだ。
帝国の民と妖魔の関係を。
これは、カレン達も、知らない事だ。
いや、知っていたら、ショックを受けていただろう。
帝国の民を殺していたなど、知りたくないはずだ。
だからなのだろうか。
ヴィオレットが、帝国を滅ぼすと決めたのは。
ショックを受けたのか、ベアトリスは、後退し始めた。
それも、よろめきながら。
うつむき、体を震わせるベアトリス。
この事実は、ベアトリスにも、耐えられないことなのだったのだろうか。
そう、推測し始めたヴィオレット。
だが、その時であった。
「はは、はははは……」
ベアトリスは、静かに、笑い始める。
その笑いは、不気味だ。
何を考えているかわからない。
ヴィオレットは、警戒しながらも、立ち上がり、構えた。
「あはははははははははっ!!」
突如、ベアトリスが、高笑いをし始めた。
狂っているかのようだ。
ますます、不気味に思えてならない。
彼女は、異常だ。
ヴィオレットは、改めて、そう思った。
「面白れぇ!!本当に、面白れぇなぁっ!!」
ベアトリスは、狂気の笑みを浮かべながら叫ぶ。
この異常な真実を知っても、まだ、面白いと感じるのだ。
帝国は、まさに、狂った世界だ。
その狂った世界を守らされていたというのに、面白いとベアトリスは、思っているようだ。
「妖魔になるから、人や精霊を殺してるのか?狂ってるな!!」
「狂ってるのは、お前の方だ!!」
ベアトリスが、面白いと感じた理由は、ヴィオレットが、妖魔になるのを防ぐために、帝国に牙を向けたという事だ。
妖魔になるのを止めるのではなく、殺すという手段を使った。
それは、まさに、狂っているのだろう。
だが、ヴィオレットは、狂っているのは、ベアトリスの方だと叫ぶ。
もちろん、否定はしないが、ベアトリスよりは、マシだと思っているのだ。
「どうだか。帝国の奴らが、作られた体だとしたら、確かに、人殺しはしてねぇ。けどな、お前は、ルチアを殺してる。その事は、どう思ってるんだ?」
仮に、ヴィオレットの言っている事が、真実だとしたら、確かに、人殺しはしていないと語るベアトリス。
だが、一つだけ、ヴィオレットは、まだ、答えていない事がある。
それは、ルチアに関しての質問だ。
ヴィオレットは、ルチアを殺している。
大事な仲間であり、親友を。
彼女も、作られた体だったというのだろうか。
いや、本当に、そうなら、ヴィオレットは、その事に関しても、語っているはずだ。
語らないという事は、ルチアは、作られた体に入っていない可能性がある。
ゆえに、ベアトリスは、ヴィオレットに問いかけた。
「思い出したくもないな」
「逃げるのかよ」
ヴィオレットは、ベアトリスの問いを拒絶する。
本当に、思い出したくないのだ。
ベアトリスは、ヴィオレットが、逃げたと推測した。
実際、逃げたのだろう。
ルチアの事を、今は、思い出したくないようだ。
「まぁ、いいや。そろそろ、この姿で殺し合いも、飽きてきた頃だしな」
「何?」
ベアトリスは、ヴィオレットが、答えない事に関しては、問い詰めないようだ。
しかも、今の姿で戦う事に対して、飽きてきたという。
それを聞いたヴィオレットは、警戒した。
ベアトリスが、何をするのか、察したようだ。
「あれ、使ってやるか!!」
ベアトリスは、力を解放する。
おそらく、もう一つの力を使うつもりなのだ。
宝石が光り始め、ベアトリスを包みこんだ。
「まずい!!」
ヴィオレットは、危険を察知し、ベアトリスの元へと迫る。
もう一つの力は、ヴィオレットにとって、厄介なのだ。
その理由は、ベアトリスが宿しているもう一つの力は、危険なのだ。
厄介と言ってもいいだろう。
しかも、今のベアトリスなら、尚更だ。
ゆえに、ヴィオレットは、すぐさま、ベアトリスを殺そうと鎌を振り下ろした。
だが、光が、鎌をはじき、ヴィオレットを吹き飛ばした。
「うっ!!」
吹き飛ばされたヴィオレットは、壁に激突する。
その間に、光が止み、ベアトリスが、姿を現した。
「あは、あははははは!!!」
ベアトリスは、高笑いをし始める。
しかも、狂っているかのように。
ヴィオレットは、立ち上がり、構えた。
ベアトリスの姿は、黄色のビキニを身に着け、黄色のレース素材のパレオを腰に巻き付けていた。
しかも、爪は長くなっている。
まるで、獣のようであった。
「どうよ、この力、すげぇだろ!!」
ベアトリスは、笑みを浮かべる。
それも、獲物を見ているかのように。
これこそが、もう一つの力なのだ。
その名は、バーサーカーモード。
攻撃力が、格段に上がり、暴走してしまう力だ。
だが、ベアトリスは、その暴走すらも、制御している。
ゆえに、ヴィオレットにとって、厄介であった。
「こうなったあたしは、誰も、止められねぇ。お前でもな、ヴィオレット」
ベアトリスは、叫ぶ。
まるで、勝利を確信したかのようだ。
この状況をヴィオレットは、どうするべきなのかと、推測しているのだろう。
殺されるか、抵抗するか。
ヴィオレットは、何も言わず、構える。
だが、その時だ。
ベアトリスが、力任せに、地面を蹴り、ヴィオレットに迫ったのは。
「おらああああああっ!!!」
「くっ!!」
ベアトリスは、爪を振り下ろす。
ヴィオレットは、鎌で、受け止めるが、ベアトリスの力の方が、上だ。
故に、押されかけたヴィオレットは、強引に、ベアトリスの爪をはじき、後退した。
自分も、ミラージュモードに切り替えるためだ。
だが、ベアトリスは、すぐさま、ヴィオレットに迫る。
そして、ヴィオレットに向けて、爪を振り下ろした。
しかも、魔技・アース・インパクトを発動しながら。
ヴィオレットは、魔法・スパーク・スパイラルを発動するが、ヴィオレットの魔法はかき消され、ベアトリスの爪は、ヴィオレットの左腕を引き裂いた。
「うあっ!!」
ヴィオレットは、苦悶の表情を浮かべる。
だが、ベアトリスは、容赦なく、ヴィオレットに迫った。
「しねえええええっ!!」
ベアトリスは、叫びながら、爪を薙ぎ払うように、振るう。
ヴィオレットの首を捕らえようとしていた。
だが、ヴィオレットは、宝石の力を発動する。
賭けに出たのだ。
宝石の力で、ベアトリスを吹き飛ばせるかもしれない。
宝石から光が、放たれ、ベアトリスは、吹き飛ばされた。
「がっ!!」
吹き飛ばされたベアトリスは、地面にたたきつけられる。
今度は、ヴィオレットが、ベアトリスに迫った。
「見くびるなよ。私も、もう一つの力がある。お前とは違うけどな」
「だろうな」
ヴィオレットは、もう一つの力・ミラージュモードを発動したのだ。
今のベアトリスに対抗するには、この力を発動するしかない。
ベアトリスを確実に仕留めるには。
ミラージュモードが発動されたというのに、ベアトリスは、笑みを浮かべている。
待ちわびていたかのように。
「いいね、いいね!!楽しみになってきたぜ!!」
ベアトリスは、狂気の笑みを浮かべる。
これで、最高の殺し合いができると、確信したのだろう。
やはり、自分の欲望を満たしてくれるのは、ヴィオレットしかいないと。
「じゃあ、続きと行こうぜ、ヴィオレット!!」
ベアトリスは、構える。
こうして、二人の最強の殺し合いが、始まろうとしていた。




