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楽園世界のヴァルキュリア―破滅の少女―  作者: 愛崎 四葉
第二章 狂気の地のヴァルキュリア
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第三十二話 殺し合いで満たされて

 ヴィオレットは、ラストとアマリアを閉じ込めている地の壁をたたいた。


「二人とも、無事か!?返事をしろ!!」


 ヴィオレットは、二人に呼びかける。

 だが、二人の反応はない。

 何かあったのだろうか。


「……」

 

 最悪の状況を推測するヴィオレット。

 ラストとアマリアは、命を落としてしまったのかもしれない。

 そんな事をできる地属性の者のは、たった一人しかいない。

 そう思うと、ヴィオレットは、怒りが込み上げ、拳を握りしめた。

 だが、その時であった。


「大丈夫だ。殺してねぇよ」


「お前……」


 ベアトリスが、ヴィオレットの前に姿を現す。

 しかも、殺していないと、断言した。

 それでも、ヴィオレットは、怒りを抑えきれず、ベアトリスをにらみつける。


「よう、ヴィオレット」


 ベアトリスは、不敵な笑みを浮かべた。

 ヴィオレットに睨まれても、怖気づいていないようだ。

 当然であろう。

 ベアトリスは、ヴィオレットと殺し合いができればそれでいいのだ。

 ヴィオレットが、どのような感情を抱いていたとしても。


「お前がやったのか?ベアトリス」


「そうだ」


「何の為に?」


 ヴィオレットは、ベアトリスに確認する。

 地の壁は、ベアトリスが、発動したのかと。

 ベアトリスは、堂々とうなずいた。

 だが、ヴィオレットは、理解できない。

 なぜ、このような事をしたのだろうか。

 ベアトリスの目的は、何なのだろうか。


「そりゃあ、決まってるだろ?」


 ベアトリスは、狂気の笑みを浮かべる。

 まるで、壊れてしまったかのようだ。

 いや、楽しみで仕方がないのだろう。

 今から、自分の欲望が満たされるのではないかと思うと。


「お前と、殺し合いがしたいからだよ、ヴィオレット!!」


 ベアトリスは、笑みを浮かべながら、答える。

 ヴィオレットと殺し合いがしたい。

 そのために、牢を脱獄し、帝国兵を殺し、ラストとアマリアを閉じ込めたのだ。

 ただ、自分の欲望を満たすために。


「帝国兵を殺したけどさ。やっぱり、欲望は、満たされない。お前しかいないんだよ!!」


 ベアトリスは、語り始める。

 帝国兵を殺したと。

 だが、ベアトリスの欲望は、満たされなかった。

 なぜなら、帝国兵が、弱すぎたからだ。

 互角に渡り合える強い者と殺し合いたい。

 ヴィオレットなら、それができる。

 ベアトリスは、そう、確信し、笑みを浮かべていた。


「そんなに、殺してほしいのか」


 ヴィオレットは、拳を握りしめる。

 怒りを抑えきれないようだ。

 ベアトリスのしたことが、許せないのだろう。

 もちろん、自分達のしたことも、許されるはずがない事は、わかっている。

 それでも、ベアトリスは、異常だ。

 彼女は、身勝手で、狂っている。

 ヴィオレットは、そう思えてならなかった。


「だったら、殺してやる!!」


「はは!!そうこなくちゃな!!」


 ヴィオレットは、構える。

 ベアトリスを殺すために。

 ベアトリスも、自分の欲望を満たすために、構える。

 だが、その時だ。 

 ベアトリスが、ある魔法を発動したのは。 

 それは、部屋全体を地の壁で覆い尽くす魔法であった。


「これは……」


 ヴィオレットは、あたりを見回す。

 まるで、ヴィオレットを逃すまいと、地の壁を発動したかのようだ。

 それほど、自分の欲望を見たいしたいのだろうか。


「安心しな、邪魔されないようにしただけだ。これで、心置きなく、殺し合いができるだろ?」


「そうだな」


 ベアトリスは、地の壁を発動した理由を語る。 

 帝国兵やクライド達が、部屋に到達しても、侵入できないようにするためにだ。

 それも、自分の欲望を満たすため。

 ヴィオレットも、帝国兵に来られては困る。

 クライド達も、ベアトリスに殺されては困るのだ。 

 帝国を滅ぼすために、彼らの協力が必要なのだから。

 ヴィオレットは、鎌を振り回す。

 すると、ベアトリスも、斧を振り回した。

 もう、話す事は何もない。

 あとは、殺し合いをするだけだ。 

 そう言うかのように、二人は、同時に地面を蹴った。


「おらあっ!!」


 ベアトリスは、斧を振り回す。

 それも、魔技・アース・インパクトを発動しながら。

 ヴィオレットの周りで爆発が起きるが、ヴィオレットは、すぐさま、回避した。


「はっ!!」


 ヴィオレットは、魔法・スパーク・スパイラルを発動する。

 一気に、ベアトリスを追い詰めるためにだ。

 だが、ここで、ベアトリスが、追い詰められられるはずもなく、魔法・アース・スパイラルを発動して、相殺させる。

 その間に、ヴィオレットは、ベアトリスに迫り、鎌を振るうが、ベアトリスは、斧を振り回し、ヴィオレットの鎌をはじく。

 ヴィオレットは、とっさに、後退し、ベアトリスと距離を取った。


「いいね、いいね!!さいっこうだ!!」


 ベアトリスは、狂気の笑みを浮かべている。

 ヴィオレットと殺し合いができる事を喜んでいるようだ。


「お前の力は、こんなもんじゃねぇだろ!!もっと、本気を見せてみろよ!!」


 ベアトリスは、まだ、満足していないようだ。

 当然であろう。 

 ベアトリスは、さらなる殺し合いを望んでいる。

 本気を出してこそ、本当の殺し合いだと思っているようだ。

 だからこそ、ヴィオレットに本気を出すよう、挑発する。

 すると、ヴィオレットは、固有技・チャロアイト・ライトニングを発動する。

 ヴィオレットの鎌は、宝石の刃と化し、雷を帯びながら、ベアトリスに斬りかかった。

 ベアトリスは、すぐさま、固有技を発動しようとするが、それよりも、早く、ヴィオレットが、ベアトリスの腹を切り裂いた。


「ははは!!これだ、これだよ!!ヴィオレット!!もっと、楽しもうぜ!!死ぬまでさ!!」


 腹を斬られ、血を流しているというのに、ベアトリスは、笑い始める。

 まるで、痛みすらも、喜びに変わっているかのようだ。

 もはや、狂っていると言っても、過言ではないだろう。


「あ、ヴァルキュリアって、不死身だったんだっけなぁ?てことは、永遠に殺し合いができるわけだ!!」


 ベアトリスは、ある事に気付く。

 それは、自分の痛みが引いている事だ。

 ヴァルキュリアは、不死身だ。

 死ぬ事はない。

 首を切り落とされても、心臓を貫かれても、回復してしまう。

 永遠の命を手に入れたも同然だ。

 ゆえに、ベアトリスは、ヴィオレットと永遠に殺し合いができると喜んでいた。


「くだらない。本当にな」


 ヴィオレットは、ため息をつく。

 あきれているのだろう。

 それほど、殺し合いがしたいのかと。

 何を求めているのか、ヴィオレットには全く理解できなかった。


「さっさと、死んでもらうぞ」


「だから、死なねぇっての!!」


 ヴィオレットは、鎌を振り回して、構える。

 ベアトリスを殺すつもりだ。

 ベアトリスも、狂気の笑みを浮かべながら、斧を構えた。

 ヴィオレットとベアトリスは、同時に地面を蹴り、武器がぶつかり合う。

 ベアトリスは、そのまま、力任せに、斧を振り、ヴィオレットは、耐え切れず、吹き飛ばされてしまった。

 壁に激突したヴィオレット。

 その間に、ベアトリスは、固有技・カーネリアン・テラを発動する。

 ヴィオレットも、固有技を発動するが、ベアトリスの威力には、適わず、すぐさま、回避するが、右わき腹を斬られてしまった。


「楽しいなぁ。最高だ」


 ベアトリスは、斧を肩で担ぎながら、ヴィオレットに迫る。

 ヴィオレットの傷は、癒え始めたが、激痛により、まだ、立てない状態だ。 

 その間に、ベアトリスは、ヴィオレットの前に立ち、斧をヴィオレットに向けた。

 だが、それ以上、動こうとはしない。

 殺すチャンスだというのに、どうしたのだろうか。


「なぁ、ヴィオレット、聞きたいことがあるんだ」


「なんだ?」


 ベアトリスは、唐突に、尋ねたいことがあると話す。

 一体どうしたのだろうか。

 ヴィオレットは、理解できず、尋ねた。


「人や精霊を殺すって、どんな気持ちだ?」


「……」


 ベアトリスは、ずっと、知りたかったのだ。

 人や精霊を殺すという事は、どんな気分が味わえるのかと。

 ヴィオレットは、ルチアや帝国兵を殺してきた。

 裏切り者も、含めてだ。

 それは、ヴィオレットにとって、苦痛も同然かもしれない。

 だが、ベアトリスには、わからないのだろう。

 ヴィオレットは、冷酷な表情のまま、人や精霊を殺してきたのだから。


「ルチアを殺してどうだった?帝国兵を殺してどうだったんだ?教えてくれよ」


 ベアトリスは、さらに、問いかける。

 ヴィオレットの心情などお構いなしに。

 殺す事で、快感を得て、欲望を満たしたい。

 だが、まだ、ベアトリスは、それを達成できていない。 

 だからこそ、ヴィオレットに聞きたかったのだ。

 やはり、強い者同士の殺し合いでなければ、自分の欲望は、満たせないのかと。


「知らないな」


「はぁ?」


 ヴィオレットは、知らないと答える。

 それは、ベアトリスにとって意味が分からない答えだった。

 殺して何も感じないというわけはない。

 だからこそ、ベアトリスは、問いかけたのだ。

 ヴィオレットの答えは、ベアトリスにとって、予想外であった。


「私は、人と精霊を殺していない」


「どういう事だ?」


 さらに、ヴィオレットは、人と精霊を殺していないと否定したのだ。

 一体、どういう意味なのだろうか。 

 ベアトリスには、まったく、理解できず、問いただした。


「……ここにいる奴らは、作られた体だったからだ」


 ヴィオレットは、衝撃的な言葉を口にする。

 帝国の民の体は、作られた体だというのだ。

 これには、さすがのベアトリスも、驚きを隠せなかった。


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