第三十一話 我慢できずに
カレンの命令により、宮殿の地下牢に閉じ込められたベアトリス。
宝石を回収したいところではあるが、体に埋め込まれている為、回収は、不可能だ。
故に、鉄格子の外側から、鉄の盾を設置する事で、脱獄できないようにした。
これも、カレンの提案らしい。
ゆえに、ベアトリスは、脱獄せず、牢の中にいた。
「……あー、つまんねぇ」
ベアトリスは、退屈そうにつぶやいた。
何も知ることなく、ただ、時間が過ぎていくだけ。
そうしている間にも、ヴィオレット達が、何をしているかも、わからない。
逃げているという事は、ないだろう。
なぜなら、ヴィオレットは、帝国を滅ぼそうとしている。
ゆえに、自分達も、殺すつもりだ。
ヴァルキュリアは、ヴィオレット達の目的の妨げになるのだから。
「我慢できねぇや」
退屈で、耐えられなくなったベアトリスは、立ち上がる。
鉄の盾は、頑丈だ。
そう簡単に、破壊できるはずがない。
カレンも、そう思っていた為、設置するように、命じたのだ。
だが、ベアトリスは、ヴァルキュリアに変身する。
そして、力任せに、振り下ろした。
しかも、魔技・アース・ブレイドを発動しながら。
斧と地のオーラが、鉄の盾にぶつかる。
すると、鉄の盾は、いとも簡単に、鉄格子と鉄の盾は、破壊されてしまい、ベアトリスは、牢から出てしまった。
「なっ!!」
鉄の盾が、破壊され、ベアトリスを監視していた帝国兵は、振り向いて、驚愕する。
誰も、予想していなかったのだろう。
ベアトリスが、いとも簡単に、鉄の盾を破壊するとは。
カレンも、ベアトリスの腕力を甘く見ていたのだ。
帝国兵は、剣をベアトリスに向けるが、ベアトリスは、帝国兵に迫り、彼を切り裂いた。
「がはっ!!」
帝国兵は、血を吐いて、倒れる。
それも、動かなくなって。
ベアトリスは、帝国兵を殺してしまったのだ。
今まで、殺さなかったのに。
それほど、耐えられなかったのだろう。
ヴィオレットと殺し合いができなかったことが。
「ちっ、やっぱ、つまんねぇな。弱いすぎるぜ」
ベアトリスは、斧を肩に担ぐ。
殺した帝国兵は、弱かったと、失望して。
やはり、自分の欲望を満たしてくれるのは、ヴィオレットしかいない。
ベアトリスは、そう、改めて、思い知った。
「さて、行こうか、ヴィオレット」
ベアトリスは、斧を肩に担いだまま、歩き始める。
ゆっくりと、ヴィオレットの元へ。
ヴィオレット達は、宮殿の近くまで来ていた。
しかも、クライドの闇ギルドのメンバーとハイネのレジスタンスのメンバー達も待機した状態で。
あれから、ハイネに、フェイを殺した事を報告。
ハイネも、ヴィオレット達を尾行していたようで、知っていたのだ。
ゆえに、約束通り、協力することとなった。
建物の角に隠れて、様子を見るヴィオレット達。
「どうだ?」
「うん、お客さんが、いっぱいだねぇ~」
クライドは、アトワナに、尋ねる。
見る限り、帝国兵が多い。
やはり、そう、簡単には、通してくれそうにない。
だというのに、アトワナは、ゆったりとした口調で答える。
危機感がないかのようだ。
「行けるか?」
「誰に言ってんの?あたいらが、死ぬって思ってるの?」
「まさか」
クライドは、ミーナに尋ねる。
ミーナは、ムキになって答えた。
自分達が、死ぬはずないと、思っているようだ。
当然、クライドも、ミーナ達が、死ぬとは、思っていない。
すると、ウォーレットが、クライドの元へ、駆け付けた。
「そっちは、どうだ?」
「あちらは、問題ないようです。オルゾの判断なので、間違いないかと」
「ありがとう」
ウォーレットは、報告する。
実は、地下の入り口の様子を見に行っていたのだ。
確かに、帝国兵は多いが、自分達なら、問題ない。
帝国兵と互角に渡り合えるだろう。
オルゾは、そう判断したようで、ウォーレットは、オルゾの判断を信じて、クライドに報告した。
「ヴィオレット達の方は、どうだ?」
「問題ない」
「いつでも、オッケーだよ~。って、言いたいところだったんだけど……」
クライドは、ヴィオレット達に、突入できるかどうかを確認する。
ベアトリスを殺せるのは、ヴィオレットだけだ。
ゆえに、ヴィオレット達の準備が、整わなければ、突入はできない。
ヴィオレットは、問題ないようだ。
いつでも、いけるらしい。
ラストも、うなずきたいところであったが、何か、疑問を抱いたかのように、視線を右へと向ける。
実は、ラストの右隣にはアマリアがいたのだ。
「な、なんですか?」
「べっつにぃ。なんで、来たのかなって思っただけ」
ラストに視線を向けられたアマリアは、疑問を抱く。
何か、問題でもあるのかと。
ラストは、理解できなかったのだ。
なぜ、アマリアが、ここにいるのかと。
どういうつもりなのか、知りたいのだろう。
実は、アマリアは、自分も、参加させてほしいと、懇願したのだ。
今から、ベアトリスを殺すというのに。
なぜ、反対しようとしなかったのだろうか。
アマリアは、騙している様子は、見られず、クライドは、承諾した。
「安心してください。あなた達を止めるためではありません」
「へぇ、じゃあ、なんで?」
アマリアは、ヴィオレット達を止めるためではないらしい。
だったら、尚更、理解できない。
なぜ、ここにいるのか。
ラストは、問いかけた。
理由が知りたくて。
「……ベアトリスは、おそらく、脱獄していると思います。ですから、こちらで捕らえるためです!!」
「いい推測だけど、考え方はあまちゃんのまんまだな」
「なんとでも、仰ってください」
アマリアは、ベアトリスが、大人しく牢にいるとは思っていないらしい。
ゆえに、脱獄していると考えたようだ。
だが、ベアトリスを野放しにするつもりはなく、自らの手で、ベアトリスを捕らえるつもりだ。
彼女を捕らえて、罪を償ってもらう為に。
ラストは、アマリアの推測には、感心しているが、自らの手で、捕らえるという事に関しては、甘いと思っているらしい。
それでも、アマリアの決意は変わらなかった。
「行くぞ」
「わかった」
ヴィオレットは、クライドに合図を送る。
準備万端のようだ。
クライドは、ラセル達にも、合図を送り、突撃の為、構えた。
「突撃だ!!」
クライドが、叫ぶと、闇ギルドのメンバーとハイネのレジスタンスのメンバーは、地面を蹴り、帝国兵達に向かっていく。
帝国兵達は、クライド達に気付き、斬りかかった。
だが、ここで、クライド達が、遅れを取るわけがない。
クライド達は、帝国兵を切り裂いていく。
と言っても、帝国兵も、押されているわけではない。
宮殿前は、乱戦状態となった。
「私達は、地下から行く、いいな?」
「了解」
「はい!!」
クライド達の様子をうかがっていたヴィオレット、ラスト、アマリア。
状況を確認しているようだ。
今なら、突入できるかどうだ。
だが、見たところ、自分達が、気付かれることはないようだ。
乱戦状態だ。
当然であろう。
今のうちに、ヴィオレット達は、地下から侵入して、ベアトリスを殺す事を決意した。
もちろん、アマリアは、別の目的で、地下に向かうが。
その頃、ベアトリスは、斧を肩に担いで、歩いていた。
斧には、大量の血がついている。
しかも、ベアトリスの後ろには、血を流して、倒れている帝国兵の姿があった。
全て、ベアトリスが、殺したのだろう。
「ん?なんだか、騒がしいな」
足音や物音が聞こえる。
ベアトリスは、何かあったのではないかと、察したようだ。
「ヴィオレットが来てるかもしれねぇな」
ベアトリスは、ヴィオレットの仕業ではないかと、踏んでいるらしい。
相当、ヴィオレットに執着しているようだ。
その時であった。
「ん?あいつらは……」
ベアトリスは、ヴィオレット達が、地下牢の中を走っているのを目にした。
もちろん、ラストとアマリアも、いたが。
「一緒にいやがるのか……」
ベアトリスは、イラついているようだ。
ラストとアマリアがいる。
これでは、ヴィオレットと殺し合いができない。
彼らが、邪魔だったのだ。
ベアトリスにとって。
「けど、ちょうどいいかもな」
ベアトリスは、不敵な笑みを浮かべる。
ヴィオレット達は、まだ、気付いていないからだ。
ベアトリスがどこにいるのかを。
ゆえに、ベアトリスは、静かに、ヴィオレット達を尾行し始めた。
そうとも、知らないヴィオレット達は、広い部屋にたどり着く。
「いたか?」
「いないな」
「どこに行ったのでしょうか……」
「わからない。地下は、全部、探したが……」
ベアトリスは、どこにもいなかった。
くまなく探したはずなのだ。
一体、どこに行ってしまったのだろうか。
アマリアは、振り返り、戻り始めようとする。
もしかしたら、ベアトリスが、来ているのではないかと、推測して。
だが、その時だ。
アマリアの足元から、魔方陣が、浮かび上がったのは。
「待て!!アマリア!!」
「え?」
ラストは、アマリアの足元から浮かび上がった魔法陣に気付き、叫ぶ。
とっさに、アマリアの名を呼んで。
初めてラストに名前を呼ばれたアマリアは、振り向くが、魔法はすでに発動されようとしていた。
ラストは、地面を蹴り、アマリアを押しのけた。
「きゃっ!!」
アマリアは、突き飛ばされ、尻餅をつく。
だが、地の壁は、ラストとアマリアを取り囲んでしまった。
「ラスト!!アマリア!!」
ヴィオレットは、少々、遅れて、ラストとアマリアが、地の壁に閉じ込められてしまった事に気付き、二人の元へと駆け寄った。