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楽園世界のヴァルキュリア―破滅の少女―  作者: 愛崎 四葉
第二章 狂気の地のヴァルキュリア
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第三十話 ベアトリスを止めるアマリア

 アマリアに邪魔をされてしまったベアトリスは、アマリアをにらむ。

 苛立っているようだ。

 聖女であっても、容赦しないつもりなのだろう。

 それでも、アマリアは、姿勢を崩さなかった。 

 何があっても、ベアトリスと戦うつもりのようだ。


「聖女様の登場か。てか、なんで、こいつの味方するんだよ」


 ベアトリスは、アマリアに尋ねる。

 知っているからだ。

 アマリアが、ヴィオレット達を軽蔑している事を。

 妹のように、娘のように、思ってきたヴィオレットが、冷酷さを露わにし、失望した事に。

 だからこそ、なぜ、ヴィオレットを守ったのか、理解できなかった。

 彼女を守れば、帝国は滅ぼされるかもしれないというのに。


「貴方は、ヴァルキュリアとして、失格だからです!!」


「はぁ?」


 ベアトリスに問いかけられたアマリアは、答えることなく、ベアトリスに、ヴァルキュリア失格だと言い放つ。

 なぜ、そのような事を言われなければならないのだろうか。

 ベアトリスは、理解できず、アマリアをにらんだ。


「フェイを捨て駒にするなんて、許せません!!」

 

 アマリアが、ヴィオレットを助けた理由は、ただ一つ。

 ベアトリスの方が、冷酷だと感じたからだ。 

 いや、残酷と言った方が正しいのだろう。 

 自分の欲望の為に、フェイをヴィオレット達に殺させたのだ。

 命を捨て駒のように扱ったベアトリスの方が、よほど、残酷な事をしていると感じたのだろう。

 だからこそ、ベアトリスに魔法を放ったのだ。

 彼女を止める為に。


「反吐が出るぜ。これだから、箱入り娘はよ」


 ベアトリスは、苛立ちを隠せないようだ。

 アマリアの事を、見下しているからであろう。

 口では、偉そうなことを言っているが、彼女は、何も知らない箱入り娘なのだ。 

 だからこそ、余計に、苛立ってしまう。

 何も知らないくせにと。


「だったら、お前から、殺してやるよ!!」


「逃げろ!!」


 ベアトリスは、アマリアに斧を向ける。

 アマリアを殺すつもりなのだろう。

 クライドが、前に出るが、このままでは、彼も、アマリアも、殺されてしまう。

 そう、察したラストは、アマリアに逃げるよう叫んだ。

 だが、その時だ。

 帝国兵が、ベアトリスの周りを囲んだのは。


「なっ!?」


 帝国兵が、自分を捕らえるように囲んでいる。

 これには、さすがのベアトリスも、驚きを隠せないようだ。

 ヴィオレットは、危険を察知し、一瞬のうちに、ミラージュモードに切り替え、帝国兵が、自分を捕らえる前に、ラストの元へ到達した。

 これ以上、動けば、帝国兵に捕らえられてしまうと察したヴィオレットは、立ち止まり、ただ、帝国兵の動きを観察する。

 それでも、帝国兵は、ヴィオレット達を捕らえようとしなかった。


「ベアトリス様、そこを動かないでください」


「はぁ?どういう事だよ」


 帝国兵は、ベアトリスに命じる。 

 ベアトリスよりも立場が、下だというのに。

 ベアトリスは、状況が把握できず、苛立った。

 何がしたいのだと、言いたいのだろう。

 なぜ、ヴィオレットではなく、自分を捕らえようとしているのか、見当もつかないのだ。


「カレン様のご命令です。コーデリア様の命令に背いた貴方を捕らえるようにと」


「なんだと?」


 帝国兵は、ベアトリスに告げる。

 これは、カレンの命令なのだと。

 カレンは、察していたようだ。

 ベアトリスが、コーデリアの命令に背いたのだと。

 だからこそ、ヴィオレットではなく、ベアトリスを捕らえる事を優先とした。

 ベアトリスを守るために。

 だが、ベアトリスは、その理由を知る由もなく、帝国兵達をにらむ。

 帝国兵達は、少々、怯えながらも、ベアトリスから離れようとしなかった。

 カレンの命令に背くわけにもいかず。


「あたしは、フェイをこいつに殺されたんだ!!だから、敵討ちをしようとしたんだよ!!」


 ベアトリスは、訴える。

 なぜ、コーデリアの命令に背いたのかを。

 自分に仕えていたフェイをヴィオレット達に殺されたからだと。

 彼女の為に、敵討ちをしようとしたのだ。

 と、言えば、解放してもらえるかもしれない。

 ベアトリスは、そんな淡い期待を抱いていた。


「どんな理由があっても、命令に背いたことは許されない。そう、カレン様は、申しておりました」


「ちっ!!あの堅物女!!」


 ベアトリスの考えは、甘かったようだ。

 やはり、と言ったところであろうか。

 カレンは、命令に従う少女だ。

 生真面目であり、融通が利かない。

 ゆえに、ベアトリスの訴えを聞くわけがなかった。

 どんな理由があったとしても。

 ベアトリスは、舌打ちをする。

 カレンの生真面目さを恨んで。


「さあ、来てもらいますよ」


「ちっ……」


 帝国兵は、さらに、ベアトリスに迫る。

 ベアトリスは、帝国兵を殺すわけにもいかず、抵抗できなかった。

 抵抗する気がないとしった帝国兵は、ベアトリスを捕らえる。

 それも、丁重に扱うかのように。

 ヴィオレットは、ラストを連れて逃げようとする。

 今のうちだと思ったのだろう。

 だが、帝国兵が、逃すはずもなく、ヴィオレットに迫った。


「お前も、来てもらうぞ。裏切りのヴァルキュリア」


「……」


 帝国兵は、ヴィオレットを囲む。

 ヴィオレットは、逃げることができなくなってしまったのだ。

 ラストも深手を負い、帝国兵に抵抗する力も失っている。

 万事休すと言ったところであろうか。

 だが、その時であった。

 アマリアが、聖なる魔法を発動し、帝国兵に向かって、光が放たれたのは。


「わっ!!」


「え?」


 あまりの眩しさに、帝国兵は、驚き、目を閉じる。

 目くらましにあったようだ。

 聖なる魔法を発動したのは、誰なのか、ヴィオレットも、ラストも、わかっている。

 それゆえに、驚きを隠せず、アマリアの方へと視線を向けた。 

 アマリアは、魔法を発動したかのように、手を前に出している。

 やはり、アマリアが、助けてくれたようだ。


「アマリア?」


「早く、来なさい!!」


 ラストは、動揺を隠せないようだ。

 なぜ、アマリアが、自分を助けたのか。

 アマリアは、こちらに来るように叫び、ヴィオレットは、すぐさま、アマリアの元へと到達する。 

 変身を解いたヴィオレットは、アマリア達と共に、その場から離れた。


「待て!!逃げるな!!ヴィオレットぉおおおおっ!!!」


 逃げていくヴィオレットの姿を目にしたベアトリスは、手を出し、叫ぶ。

 よほど、ヴィオレットに執着しているようだ。

 セレスティーナと違った意味で。

 それでも、ヴィオレットは、振り向くことなく、ベアトリスから遠ざかっていった。

 


 屋敷に戻ったヴィオレット達。

 アマリアは、すぐさま、ラストの治療に取り掛かった。

 アマリアだけが、発動できる魔法・ホーリー・キュアを発動する。

 すると、瞬く間に、ラストの怪我は癒えたのであった。 

 ラストは、呆然とアマリアを見上げる。

 だが、アマリアは、何も言おうとしない。

 助けたのは、確かだが、まだ、避けているようだ。

 ラストの事が、許せないのだろう。

 ラストは、なぜか、うつむいてしまった。

 心が痛んだような気分になって。


「思わぬ事態になってしまったな」


「そうだな」


 ベアトリスが、捕まった事は、予想外だ。

 クライドも、頭を抱えている。

 依頼は、達成できたが、計画が狂ってしまったと言っても、過言ではないだろう。 

 ヴィオレットも、腕を組んで、ため息をついていた。


「で、お前に聞きたいことがあるんだけど?」


「何かね?」


「なんで、聖女サマを連れてきたわけ?」


 ラストは、気になっていた事があったようで、クライドに尋ねる。

 それは、なぜ、アマリアを連れてきたことだ。

 今回は、アマリアが、こちらの味方になってくれたから良かったものの、もし、止めていたら、それこそ、計画が狂っていたかもしれない。

 ゆえに、クライドの行動が、理解できなかった。


「真実を知ってもらうためさ。ベアトリスのな」


「ちっ」


 クライドが、アマリアを連れてきた理由は、ベアトリスの真実、いわば、本性を知ってもらうためだ。

 フェイが、街中に居た理由は、予想していた。

 ゆえに、ベアトリスの本性をアマリアに教えるチャンスではないかと、推測したようだ。

 たとえ、フェイの命を奪ってでも。

 ラストは、苛立ったようで、舌打ちをした。


「で、なんで、あんたは、俺達を助けてくれたわけ?」


「……わかりません」


「はぁ?」


 ラストは、アマリアに尋ねる。

 アマリアの言動の方が理解できなかったからだ。

 なぜ、自分達を助けたのか。

 だが、アマリアもわからないという。

 これには、さすがのラストも、理解不能であり、余計に、苛立った。


「わからないのです。なぜ、私も、貴方達を助けたのか……」


「……あっそ」


 アマリアは、本当に、わからなかったのだ。

 無我夢中だったのだろう。

 だからこそ、今にして思えば、なぜ、ヴィオレット達を助けたのか、自分でも理解できない。

 ラストは、これ以上、聞きだす事は、不可能だと判断し、ため息交じりに冷たく言い放った。


「ベアトリスの方が、恐ろしいと感じたかもしれません。ですが、あれが、ベアトリスの本性だったのでしょうか……。以前は、あんな子ではなかったはずなのに……」


「どうしてだろうねぇ」


 アマリアは、思い出したように語る。

 ベアトリスの方が、ヴィオレットよりも、恐ろしく、危険だと感じた気がしたのだ。

 だが、過去のベアトリスを思い出すアマリアであったが、過去のベアトリスは、あのような狂気じみた様子は、見せた事はない。

 面倒見のいい姉後肌の少女だったのだ。

 ラストは、何か、知っているようだが、あえて、答えなかった。


「少し、休もう。休んでから、話し合いをしようじゃないか」


「ああ」


 クライドは、ヴィオレット達に、休むよう提案する。

 フェイと戦い、ベアトリスとも、戦いを繰り広げた。

 疲労は、たまってきているはずだ。

 ヴィオレットは、静かに、うなずき、体を休めることにした。


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