第二十二話 コーデリアの命令
王宮エリアでは、カレン、セレスティーナ、ライム、ベアトリスが、女帝の間へと向かっている。
軍服に身を包んで。
コーデリアに、呼ばれたようだ。
話があると。
「ったく、めんどくせぇな。なんで、女帝の所にいかなきゃいけねぇんだよ。カレンだけ、行けばいいだろ?」
「いいじゃん。女帝様に会えるんだよ?滅多にないチャンスなんだから」
「私は、退屈だわぁ。あ、でも、ヴィオレットを捕らえろって言う命令なら、大歓迎だけどぉ」
ベアトリスは、コーデリアに会う事をめんどくさいと思っているらしい。
興味ないのだろう。
女帝と謁見することに関しては。
だが、ライムは、喜んでいるようだ。
女帝の謁見は、あまりない。
ヴァルキュリアであってもだ。
直々の命令を受けた事は、一度もない。
兵長を通して、命じられることがたびたびあるが。
だからこそ、ライムは、喜んでいるのだろう。
と言っても、セレスティーナも、あまり、嬉しそうではない。
仮に、ヴィオレットを捕らえろと言う命令なら、喜んで、引き受けるらしいが。
「黙れ。静かに、歩け」
カレンは、セレスティーナ達に命じる。
それも、苛立っているようだ。
何かあったのだろうか。
ヴィオレットを殺せなかったからなのか。
それとも、別の理由があるからなのか。
セレスティーナ達は、気になっていたが、カレンを刺激してはならないと悟ったようで、黙って歩き始めた。
その後、カレン達は、女帝の間にたどり着く。
コーデリアは、女帝の座にて、カレン達を待っていた。
「来たわね」
「はい」
コーデリアは、カレン達を目にし、微笑む。
まるで、待ちわびていたかのようだ。
カレン達は、頭を下げた。
ベアトリス以外は。
「コーデリア様、お聞きしたいことがあります」
「何かしら?」
「なぜ、四つのエリアを落下させたのですか?」
カレンは、コーデリアに問いかける。
それは、見放された四つのエリアを落下させたことだ。
なぜ、あのような事をしたのか、カレンは、理解できない。
ゆえに、苛立ち、コーデリアに問いかけた。
「あら、知っていたの」
「当然です。あのような事、わからないはずがないでしょう」
コーデリアは、あっけにとられているようだ。
まさか、カレンが、気付いたとは、思いもよらなかったのだろう。
カレンは、四つのエリアを落下させるように、命じたのは、コーデリアだと知っていたのだ。
落下した直後、兵長に問いただした。
兵長は、仕方なしに、カレンに教えたのだ。
コーデリアの命令だと。
「あそこには、関係ない人達がいたのですよ?それを、なぜ……」
「あのエリアは、レジスタンスが、いた事は、しっているわね?」
「え、ええ」
カレンは、帝国の民を巻き込んだことに対して、怒りと疑問を感じた。
確かに、あのエリアは、帝国に見放されたエリアだ。
あそこの住人が、帝国に刃向ったから。
と言っても、全員が、刃向ったわけではない。
関係ない民も、いたのだ。
それなのに、なぜ、彼らも、犠牲にしたのか、理解できなかった。
すると、コーデリアが、問いかける。
確認するかのように。
もちろん、カレンだって知っていた。
帝国に刃向う組織が、存在していた事は。
「彼らは、反乱を起こそうとしていたわ。ヴィオレットと共に」
「やはり、あのエリアにヴィオレットがいたのですね」
コーデリアは、気付いていたのだ。
レジスタンスは、ヴィオレットと共に、反乱を起こそうと、帝国を滅ぼそうとしていた事は。
それを聞いたカレンは、察した。
あの四つのエリアのどこかに、ヴィオレットが隠れていたのだと。
気付いていながらも、カレン達が、動かなかった理由は、コーデリアから、命じられていたからだ。
指示があるまで、待機しろと。
「そうよ。でも、あえて、泳がせていたわ」
「なぜ?」
コーデリア曰く、知っていながらも、ヴィオレットを泳がせていたのだという。
帝国兵が、殺されてもだ。
カレンは、ますます、理解できなかった。
なぜなのか。
「決まってるじゃない。殺すためよ。レジスタンスごとね」
「……」
コーデリアは、カレンの問いに答えた。
レジスンタンスも、ヴィオレットも、まとめて、殺すためだったのだ。
そのために、カレン達を待機させていた。
そうすれば、ヴィオレットは、何も気付かずに、落ちて、死ぬのではないかと。
なんて、卑劣なやり方なのだろうか。
カレンは、内心、吐き気がした。
苛立ちが、抑えきれなくなりそうで。
「私は、帝国を守っただけよ?それに、もし、彼らが、反乱を起こしたら、どうするつもりだったのかしら?」
「そ、それは……」
カレンの様子に気付いたコーデリアは、カレンに問う。
自分は、間違った事はしていない。
これは、あくまで、帝国の為だと、言いたいのだろう。
仮に、レジスタンスが、反乱を起こしていたら、カレンは、どうするつもりだったのかと、カレンに問いかける。
まさか、レジスタンスのメンバー全員を殺せるのかと。
それこそ、王宮エリア、ひいては、ルビーエリア、サファイアエリア、エメラルドエリア、トパーズエリアの住人を巻き込んでしまうのではないかと、言いたいのだろう。
取り返しのつかないことになる可能性だってある。
カレンは、その事も、考えていたのかと、コーデリアは、問いたいのだろう。
問われたカレンは、何も言えなかった。
反論すらできなかったのだ。
「まぁ、ヴィオレットを殺せないのは、残念だったけれどね」
コーデリアは、ヴィオレットが、逃げた事は知っているらしく、残念がっていた。
一番の標的は、ヴィオレットだったのだから。
カレンは、拳を握りしめた。
ヴィオレットさえ、殺していれば、このような事には、ならなかったのではないかと、推測し、ヴィオレットを憎んでいたのだ。
「大丈夫よ。失楽園の連中は、使い道があるわ。地上にいる彼らに、任せてあるから」
「そ、そういう問題では……」
「この話は、もう、終わり。本題に入りましょう」
コーデリアは、カレンを諭す。
海に落ちたエリアの住人は、使い道があるらしい。
と言っても、彼らは、死んでしまったはず。
一体、何を言っているのだろうか。
カレンは、戸惑いながらも、反論しようとするが、コーデリアが、強引に話を遮り、終わらせてしまった。
カレンは、これ以上、何も言えなかった。
反論すれば、コーデリアに刃向うことになってしまうだろうから。
「あなた達を呼んだのは、話したい事があったのよ」
「なんでしょうか?」
コーデリアは、カレン達を呼んだ理由を明かす。
一体、何が、話したいというのだろうか。
カレンは、理解できず、苛立ちながらも、コーデリアに尋ねた。
「ヴィオレットが、トパーズエリアに、侵入したらしいわ」
「なっ!!」
コーデリアは、カレン達に語る。
しかも、重要な情報だ。
なぜなら、ヴィオレットが、トパーズエリアに侵入したという情報だったのだから。
これには、さすがのカレンも、驚きを隠せない。
セレスティーナとライムも同様の表情を浮かべていた。
「へぇ」
ベアトリスだけが、にやりと、不敵な笑みを浮かべている。
自身が、統治しているエリアに裏切りのヴァルキュリアであるヴィオレットが、侵入したというのに、危機感を感じていない。
それどころか、楽しみにしているようにも思える。
なぜなのだろうか。
「ならば、帝国兵を向かわせます。私達も、行きますので、指示を」
「その必要はないわ」
「え?」
カレンは、自信が統治しているエリアにいる帝国兵を向かわせるとコーデリアに告げる。
ヴァルキュリアは、帝国兵に命じる権利も、与えられているのだ。
それほどの影響力があるという事なのだろう。
だが、コーデリアは、それを拒否する。
カレン達も、向かわせようとしないのだ。
カレンは、驚き、あっけにとられていた。
「あなた達は、各エリアの護衛をしなさい」
「はぁ?なんで、殺さねぇんだよ」
「ベアトリス、失礼だぞ!!」
コーデリアは、カレン達に、自身が統治しているエリアで、待機しろと命じたのだ。
それを聞いたベアトリスは、コーデリアに噛みつくように、問いただす。
相手は、女帝だというのに。
カレンは、慌てた様子で、ベアトリスを責めた。
女帝であるコーデリアに対して、失礼だと。
ベアトリスは、舌打ちする。
まるで、苛立っているようだ。
ヴィオレットを殺すチャンスだというのに。
「コーデリア様、ヴィオレットは、殺すべきです。どうか、指示を」
ベアトリスを責めたカレンであったが、ベアトリスの意見は、理解できるらしい。
カレンも、ヴィオレットを殺すべきだと思っているようだ。
それも、一刻も早く。
だからこそ、指示を出してほしいと、告げた。
ヴィオレットの件に関しては、ヴァルキュリアである彼女達も、勝手な行動はできないらしい。
「駄目よ。今は」
「なぜですか!!」
「知らなくていい事よ」
コーデリアは、指示を出さない。
ヴィオレットを殺すなと言う事なのだろうか。
カレンには、理解できなかった。
ヴィオレットを殺すために、帝国に見放されたエリアを落下させたというのに。
なぜ、今は、殺すなと命じるのだろうか。
コーデリアは、その理由を答えようとしなかった。
しかも、微笑みながら。
まるで、カレン達をあざ笑っているかのようだ。
「大丈夫。ヴィオレットは、必ず、ここに来るわ。その時に、殺せばいいの。いいわね」
コーデリアは、カレン達を諭す。
ヴィオレットが、この王宮エリアに侵入した時に、殺せばいいのだと。
だから、焦るなと言いたいのだろうか。
コーデリアは、もう一度、カレン達に、命じる。
それも、鋭い目つきで。
コーデリアと目が合ったカレン達は、体を硬直させた。
まるで、蛇に睨まれた蛙のように。
「……かしこまりました」
カレン達は、コーデリアに反論できず、コーデリアの命令に従う事となった。
ヴィオレットを殺せない事を苛立ちながら。