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楽園世界のヴァルキュリア―破滅の少女―  作者: 愛崎 四葉
第一章 裏切り者と失楽園
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第二十一話 ヴァルキュリアを殺しに行く

「ヴァルキュリアを、殺す?」


 アマリアは、声を震わせて、問いかける。

 信じられないのだ。

 ヴィオレットの言葉が。 

 当然であろう。

 彼女は、かつての仲間達を殺すというのだ。


「そうだ……」


 アマリアの問いにヴィオレットは、静かにうなずいた。

 それも、冷酷な表情のままで。


「そ、それは、カレン達を殺すという事ですか?」


「……そういうことになるな」


 アマリアは、もう一度、問いかける。

 ヴァルキュリアを殺すという事は、カレン達を殺すという事だ。

 ヴィオレットは、少々、躊躇しながらも、うなずいた。

 否定しなかったのだ。


「……なぜ、なのですか?理由があるんですよね?」


「……」


 アマリアは、問いかける。

 なぜ、カレン達を殺そうとしているのか、理解できないからだ。

 何か、理由があるのだろうか。

 それが、納得できるかどうかは、定かではない。

 だが、聞かずにはいられなかった。

 ヴィオレットは、黙ってしまった。

 答えられないようだ。


「答えてください。帝国を滅ぼすために、なぜ、彼女達を殺す必要があるのですか?」


「そ、それは……」


 アマリアは、問いただす。

 少々、怒りを露わにしているようだ。 

 何も、理由を聞かないままでは、納得できるはずがない。

 なぜ、帝国を滅ぼすために、彼女達が、死ななければならないのか。

 ヴィオレットは、戸惑い始めた。

 答えることができないのだろうか。


「ヴァルキュリアは、世界の平和を脅かすからだ」


「そんな!!彼女達は、命がけで戦ってきたのですよ!」


 ヴィオレットの代わりに、ラストが答える。

 ヴァルキュリアは、世界の平和を脅かす存在なのだと。 

 だが、アマリアは、声を荒げた。

 ヴァルキュリアは、命がけで、妖魔と戦ってきたのだ。

 帝国を、エデニア諸島を守るために。

 それなのに、なぜ、世界の平和を脅かす存在なのだと言えるのだろうか。

 アマリアには、当然、理解できなかった。


「わかっている。だが、殺さなきゃいけないんだ」


「詳しくは、答えてはもらえないのですか?」


「……」


 ヴィオレットも、理解している。

 カレン達が、命がけで戦ってきたことは。

 だが、それでも、殺さなければならないのだ。

 アマリアは、問いかけるが、ヴィオレットは、黙ってしまった。

 やはり、言えないことなのだろうか。

 だとしても、アマリアは、賛成できなかった。


「やっぱり、君は、反対するのかね?」


「……」


 今度は、クライドが問いかける。

 だが、アマリアは、黙ってしまった。

 帝国を変えたいのは、やまやまだ。

 だが、彼女達を殺す事は、賛成できない。

 ゆえに、悩んでいるのだろう。


「まぁ、彼女達は、救う力を持っているが、滅ぼす力も備わっている。と言ったら、どうする?」


「それでしたら、止めれば、良いのではありませんか?」


「もう、手遅れだ。あいつらは、殺さないといけない」


 クライドは、ヴァルキュリアの事を語る。

 彼女達は、救う力も、あれば、滅ぼす力も持っている。

 いわば、諸刃の剣だ。

 だからこそ、殺そうとしているのだと、語った。

 だが、アマリアは、納得できない。

 もし、仮に、クライドの言っている事が正しいのであれば、カレン達を止めればよいのではないかと思っているようだ。

 ヴィオレットは、首を横に振る。

 もう、手遅れなのだと。

 詳しい事がわからず、アマリアは、困惑した。


「……なら、見極めさせてください。彼女達が、本当に、滅ぼす力を持っているのか。それを知らなければ、なりませんから」


 アマリアは、答えを出した。

 ヴィオレット達には、ついていく。

 ヴァルキュリアと帝国の真実を知らなければならないから。


「ヴィオレット、私は、貴方のやり方は、賛成できません。ですから、方法を探します。彼女達を止める方法を」


「勝手にしろ」


 アマリアは、ヴィオレットの目的を真っ向から否定した。

 カレン達を死なせたくない。

 ましてや、ヴィオレットにそのような事をしてほしくないのだ。

 だからこそ、ヴァルキュリアが破滅の力を持つというのならば、カレン達が、死ななくて、すむように、破滅の力を止める方法を探すとヴィオレット達に、宣言した。

 ヴィオレットは、止めるつもりはないようだ。

 止める権利はないと、思っているのだろうか。


「じゃあ、君達が、ヴァルキュリアを殺す間に、私達は、エリアの結界を解くとしよう」


「結界を解く?」


 目的は違えど、帝国に乗り込むことは決まった。

 そうとなれば、クライド達のやるべきことは、一つのようだ。

 ヴィオレット達が、ヴァルキュリアを殺す間に、クライド達は、エリアの結界を解くと言いだした。

 だが、結界とは、何なのだろうか。

 アマリアは、知らないらしく、問いかけた。


「そうだよ。この帝国はね、地上の島からは見えなくなっているんだ」


「え、そうなのですか?」


「そうだぜ」


 クライドが説明する。

 なんと、帝国は、エデニア諸島からは、見えなくなっているようだ。

 アマリアは、やはり、知らなかったらしく、問いかけると、ラストがうなずいた。


「何の為に?」


「そりゃあ、侵入させないためだろう」


 アマリアは、なぜ、見えなくなるように結界を張っているのか、理解できないらしい。

 ラストは、笑みを浮かべながら、答えた。

 侵入を防ぐためだと。

 帝国がどこにあるのか、わからなければ、侵入することもできない。

 いや、結界が張ってある時点で、侵入は不可能なのだ。

 道は、閉ざされたと言っても、過言ではない。


「アメジストエリアを落下させたのも、他に意味があるらしい」


「へぇ、なんで?」


 クライド曰く、アメジストエリアを落下させたのも、ヴィオレットを殺すためだけではないようだ。

 ラストは、興味を持ったらしく、尋ねた。


「海賊が、動き始めたとか」


「海賊?もしかして、レージオ島の?」


「そうだ」


 クライドは、情報を得ていたのだ。

 エデニア諸島の海賊が、動き始めたと。

 「海賊」と言う言葉を聞いたラストは、尋ねる。

 知っているようだ。

 その海賊の事を。

 その海賊は、レージオ島を拠点としている。

 クライドは、ラストの問いにうなずいた。


「海賊?」


「正義の海賊さ。今、歴代の中でも、最強なんだろ?」


「らしいな」


 アマリアは、やはり、海賊の事さえも、知らないようだ。

 ラスト曰く、正義の海賊らしい。

 しかも、今の海賊は、歴代の中でも、最強だと言われているらしい。

 帝国も、恐れているほどだ。


「なるほど、島を取り戻そうとしてるんだな」


「取り戻す?」


「おう、帝国に制圧されてるからな」


「え?」


 海賊が動き始めたと知ったラストは、エデニア諸島で、何が起こっているのか、悟ったようだ。

 だが、アマリアは、何も、知らないらしい。

 エデニア諸島で何があったのか。

 ラストは、アマリアに教えた。

 帝国は、エデニア諸島を制圧したのだと。

 アマリアは、驚き、愕然とする。 

 予想もしていなかったのだろう。

 ますます、帝国の事が信じられなくなったようだ。

 なぜ、エデニア諸島を制圧したのか、見当もつかない。


「だから、私達は、エリアの結界を解除しようと思うんだ。海賊に援軍を要請する為にね」


「利用するためか?」


「その通りだ」


「……」


 クライドは、海賊に帝国を侵入させるため、エリアの結界を解除しようとしている。

 援軍を要請すると言っていたが、クライドは、海賊を利用しようとしているのだろう。

 彼らの戦力は、絶大だ。

 クライド達も、その戦力を欲している。

 海賊達の戦力を利用したいと思うほどに。

 ラストは、察したようだ。

 だが、アマリアは、黙ってしまった。

 利用してまで、帝国を滅ぼしたいのかと、思ったのだろう。


「確かに、利用価値はあるな」


「だろ?」


 ヴィオレットも、海賊を利用する事に、賛成しているようだ。

 海賊は、利用価値があるらしい。

 ヴィオレットが、同意見である事を知ったクライドは、微笑んでいる。

 理解してくれる者がいてくれて助かったと思っているのだろう。


「だから、その前に……」


「ヴァルキュリアを殺して、結界を解く」


「そういう事だ」


 海賊を利用するためには、結界を解かなければならない。 

 だが、結界は、ヴァルキュリアがいる屋敷の地下にある。

 つまり、彼女達を殺さなければ、結界は、解けないのだ。

 ヴィオレットは、やるべきことを口にし、クライドは、うなずいた。


「結界が張ってあるのは、トパーズエリア、エメラルドエリア、サファイアエリア、ルビーエリアだけだ」


「一番近いのは、トパーズエリアだな」


「そうだな」


 クライドは、説明する。

 結界が張ってあるのは、四つのエリアであり、ここから、近いのは、トパーズエリアだ。

 つまり、ベアトリスがいるエリアになる。

 ヴィオレットは、まずは、ベアトリスを殺すつもりなのだろう。


「ここも、もうもたない。だから、すぐに、ここを出よう。いいな?」


「ああ」


 クライドは、ここも、もうじき、落下させられると知っているらしい。

 作戦会議が終わった後、ヴィオレット達を連れて、ここから出るつもりだ。

 ここにいる帝国の民を見捨ててでも。

 ヴィオレットも、そのつもりで、うなずいた。



 会議が終わった後、ヴィオレット達は、トパーズエリアにたどり着く。

 トパーズエリアには、帝国兵が、待ち受けていたが、クライドのおかげで、気付かれることなく、潜入したのだ。

 やはり、クライドは、エリアを自由に行くことができるらしい。

 と言う事は、ヘタマイトエリアの住人ではなかったのだろう。

 表向きは、何か重要な立場なのかもしれない。

 アマリアは、そう思えてならなかったが、しばらくすると、ヘタマイトエリアが、落下し始めた。

 そして、モルガナイトエリア、ダイアモンドエリアも……。


「本当に、全てのエリアを……」


「見放されたエリアには、もう、価値がないって思ってるのかもな……」


 アマリアは、絶句した。

 まさかとは思っていたが、帝国は本当に、見放されたエリア、全てを、落下させたのだ。

 ラストは、もう、四つのエリアは、価値がないと、判断したがゆえに、落下させたのではないかと思っている。

 または、別の目的があるのではないかとも。


「だったら、尚更、コーデリアを止めなければ……」


 アマリアは、改めて、決意を固めた。

 コーデリアを必ず、止めると。


――必ず、帝国を滅ぼす。そして、私も……。


 ヴィオレットも、心の中で、決意を固めていた。

 必ず、帝国を滅ぼすと。 

 そして、自分自身も、何かしようとしているらしい。

 何をしようとしているのかは、誰にも分らない。

 わかる事は、ヴィオレットが、覚悟を決めている、と言う事だけであった。

 感情を押し殺して。


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