第二十話 帝国を滅ぼすために
「私に、ですか?」
「そうそう」
アマリアは、驚きを隠せない。
まさか、自分に会いたがっているとは、思いもよらなかったのであろう。
自分は、蚊帳の外だと思っていたのだから。
ラストは、アマリアの問いにうなずいた。
どうやら、間違いではないらしい。
「後、今後の作戦も、話そうってさ」
「アマリアも、参加させるのか?」
ラストは、作戦会議をするからアマリアを連れてきてほしいと、クライドから頼まれていたのだ。
だが、ヴィオレットは、困惑した表情を見せる。
アマリアを作戦会議に参加させることをためらっているようだ。
何か、理由があるのだろうか。
「……もう、隠し通せないよ。腹、くくりなよ、ヴィオレット」
「……わかった」
ラストは、ヴィオレットを諭す。
ここまで来たら、隠し通せないと。
もう、覚悟するしかないのだと。
ヴィオレットは、ため息をつき、うなずいた。
覚悟を決めたようだ。
「どうしたのですか?」
「……なんでもない」
アマリアは、ヴィオレットの様子に気付き、問いかける。
だが、ヴィオレットは、答えようとしなかった。
答えられないというよりも、答えたくないようだ。
アマリアは、そう思えてならなかった。
部屋を出て、ヴィオレット達は、クライドがいる部屋へ向かう。
その部屋は、広々としている。
正直、アマリアは、驚いていたのだ。
この屋敷は、広い。
ヘタマイトエリアが、帝国に見放されたエリアとは言え、この屋敷は、廃れてはいない。
貴族が住んでいるのではないかと思うほどに。
この屋敷は、一体、何者なのだろうか。
アマリアは、思考を巡らせていた。
だが、ラストは、ノックして、ドアを開ける。
すると、クライドが、ソファーに座り、ヴィオレット達を招き入れた。
しかも、二人のメイドを従えて。
「来たぜ」
「ああ」
ヴィオレット達が、アマリアを連れてきたことを確認したクライドは、すっと、立ち上がる。
アマリアを歓迎しているかのようだ。
「ようこそ、ヘタマイトエリアへ。聖女様」
クライドは、紳士のようにお辞儀をしてみせた。
本当に、貴族ではないかと思うほどに。
「あの、貴方は……?」
「失礼。自己紹介が、遅れたな。私は、クライド。闇ギルドのリーダーを務めている」
「闇ギルド?」
アマリアは、クライドに問いかける。
クライドが、何者なのか、気になっているようだ。
当然であろう。
彼は、貴族のように思えてならなかったのだから。
クライドは、自己紹介する。
闇ギルドのリーダーだと、堂々と。
だが、アマリアは、闇ギルドが、どういう組織なのか、わからないようだ。
レジスタンスとは、違うのかと、疑問を抱いているに違いない。
「帝国に刃向う組織。他のエリアのレジスタンスも統括している」
「ええ!?」
ヴィオレットは、アマリアに説明する。
闇ギルドについて。
闇ギルドは、多くのレジスタンスの統括している集合的組織だ。
つまり、ジーリアのレジスタンスも、闇ギルドの傘下に入っていたのだろう。
彼は、そのトップだという。
アマリアは、驚いた。
貴族だと思っていたのだから。
これは、予想外だったのだろう。
「ははは、驚いたかな?」
「え、ええ」
アマリアの反応を見たクライドは、笑っている。
予想通りと言ったところであろうか。
だが、笑い方も、紳士的であり、アマリアは、起こる事はなく、ただただ、戸惑っていた。
「そ、それで、クライドさんは、なぜ、私を……」
アマリアは、クライドに尋ねる。
なぜ、自分を呼んだのか。
作戦会議を開くのであれば、自分は、本当に必要なのかと思ったのだろう。
なぜなら、自分を捕らえた理由は、ヴァルキュリアを生み出さないためだ。
それを防ぐために、わざわざ、ヴァルキュリアの儀式の時に、自分を攫ったのだ。
となれば、自分が、ここにいる必要はあるのかとアマリアは、考えていた。
「単刀直入に聞く。君は、今の帝国をどう思っているのかね?」
クライドは、アマリアに尋ねる。
今の帝国をアマリアは、どう思っているのか。
知りたいのだろう。
アメジストエリアを落下させて、多くの死者を生み出した。
関係ない帝国の民を巻き込んだのだ。
それでも、帝国を信じているのかと。
「……い、今までは、帝国は、帝国の民を守る良き国だと思っていました」
「じゃあ、今は?」
アマリアは、答える。
今までは、帝国の事を信じていたのだ。
民の事を考える良き国だと。
すると、クライドは、今は、どうなのかと、尋ねる。
それも、真剣な眼差しで。
「アメジストエリアの住人を殺したことは、許されないことです。ですから、私は、コーデリア女帝に真意を問いたい」
「問うてどうする?」
アマリアは、許せないのだ。
帝国は、なぜ、あのようなむごい事をしたのか。
信じられないのだ。
だからこそ、アマリアは、コーデリアに問いただそうと心に決めた。
だが、その後は、どうするのだろうか。
コーデリアが、真実を語ったのなら。
アマリアは、どのような行動をとるのか。
クライドは、さらに、アマリアに問いかけた。
「もし、コーデリアが、帝国の民を犠牲にしようとしているなら、私は、彼女を止めます!!」
仮に、コーデリアが、自分の願いの為に、いや、野望の為に、帝国の民を犠牲にしようとしているのであれば、アマリアは、コーデリアを止めるつもりだ。
これ以上、犠牲者を増やさないために。
帝国を変える決意を固めたのだろう。
「私達は、帝国を滅ぼそうとしている。その事について、どう思うかね?」
「……わかりません。本当に、悪いことなのか。ですが、帝国の事が知りたい。あなた達の事も」
クライドは、さらに、問いかける。
自分達は、帝国を変える為に動いているのではない。
帝国を滅ぼすために、動いている。
これは、明らかにアマリアと目的が違う。
その事に関して、どう思っているのだろうか。
アマリアは、正直な思いを答えた。
まだ、わからないのだ。
悩んでいるのだろう。
ヴィオレット達を受け入れるべきなのか。
だが、アマリアは、帝国も、ヴィオレット達の事も知りたいのだ。
なぜ、このような事をしているのか。
「ですから、貴方達と行動させてください。行動して、見極めます」
アマリアは、懇願した。
自らの意思で。
強制的に連れていかれるのではなく、自ら、ヴィオレット達についていくと決意したのだ。
彼女達と行動して、真意を見極めると。
「君達は、どうするつもりだ?」
クライドは、ヴィオレット達に問いかける。
アマリアの決意を聞いて、彼らは、どうするつもりなのか。
知りたいのだろう。
「聖女サマは、必要だしな」
「ああ、ここに置いておけば、危険だろう」
「じゃあ、決まりだな」
ヴィオレットも、ラストも、異論はないようだ。
元々、アマリアを連れていくつもりであった。
たとえ、アマリアが、拒絶してもだ。
だが、アマリアは、自ら、ついていくと決意を固めた。
これは、ヴィオレットとラストにとっては、好都合であろう。
二人の答えを聞いたクライドは、判断した。
アマリアを王宮エリアに連れていくと。
「それで、あの計画を実行するつもりか?」
「そうだが」
クライドは、ヴィオレットに尋ねる。
「あの計画」の事について。
ヴィオレットは、うなずくが、「あの計画」とは、何をするのつもりなのだろうか。
「あの計画?」
「……」
アマリアは、やはり、「あの計画」が、わからないようだ。
ヴィオレットに尋ねるが、ヴィオレットは、無言のままだ。
答えようとしない。
しかも、アマリアから目をそらしてしまった。
無意識のうちに。
答えたくないのだろうか。
「もう、話すべきだぜ、ヴィオレット」
「……」
ラストは、ヴィオレットに諭した。
アマリアには、話すべきだと判断したのだろう。
だが、ヴィオレットは、話そうとしない。
まるで、躊躇しているかのようだ。
「な、何をするつもりなのですか?教えてください。ヴィオレット……」
アマリアは、ヴィオレットに尋ねる。
不安に駆られたのだろう。
ヴィオレットが、何をするつもりなのか。
嫌な予感がしたのだ。
ヴィオレットは、覚悟を決めたのか、ため息をついた。
「私は、帝国を滅ぼす。そのために……」
ヴィオレットは、語り始めた。
だが、その表情は、冷酷だ。
ヴィオレットの表情を目にしたアマリアは、息を飲む。
ヴィオレットの答えを待ったのだ。
「ヴァルキュリアを殺す」
衝撃的な言葉だった。
ヴィオレットは、帝国を滅ぼすために、ヴァルキュリアを殺すと宣言したのだ。
かつての仲間を殺すと。
ヴァルキュリアは、帝国の、いや、世界の希望だ。
彼女達をヴィオレットは、殺すと宣言した。
冷酷な表情のままで。