第十九話 信じていたもの
落下したアメジストエリアから、辛くも、脱出したヴィオレット達。
だが、多くの同士達を失ってしまった。
ジーリアも、もう、命を落としてしまっただろう。
彼は、アメジストエリアを脱出することができなかったのだ。
ヴィオレット達を逃がすために、自分を犠牲にした。
もう、アメジストエリアの住人は、誰もいない。
会う事はもうできないだろう。
逃げ延びたヴィオレット達は、モルガナイトエリアを抜け、ヘタマイトエリアにたどり着いた。
ダイヤモンドエリアに行くことも、考えたが、実は、とある男性と偶然にも、遭遇したのだ。
彼も、別のレジスタンスのリーダーでもあり、多くの同士達を従えている。
多大なる影響を与える人物の一人だ。
ゆえに、ヴィオレット達は、彼の屋敷にかくまってもらうことにした。
少しの間だけだが。
「はぁ……」
アメジストエリアを脱出してから、一夜が明けた。
ヴィオレット達は、彼の屋敷で、眠りについたが、それでも、相当、疲れている。
身も心も。
ゆえに、ラストは、ため息をついた。
「だいぶ、疲れてるようだな」
「おう、そうだな」
「まぁ、無理もないか。まさか、アメジストエリアを落とすとはな……」
「参ったぜ」
ラストに声をかけたのは、一人の男性だ。
漆黒の髪に、赤い瞳。
実は、彼は、火の属性をその身に宿す人間だ。
本来なら、ルビーエリアに住んでいるのだが、このヘタマイトエリアにも、屋敷があり、たまに、ここに来る事があったのだ。
そこで、偶然にも、ヴィオレット達に遭遇し、かくまったというわけだ。
彼は、ラストから、話を聞かされていた。
その時の彼は、驚き、戸惑っていた。
こんなにも、早く、帝国が動くとは、思いもよらなかったようだ。
ラストも、頭を抱える。
相当、堪えているのだろう。
「でも、あんたに、会えたのは、ラッキーだったかもな。クライド」
「そうかもな」
だが、ラスト達にとっては、本当に、幸運だったのだ。
クライドと呼ばれた男性は、闇ギルドのリーダーだ。
レジスタンスのリーダー達に声をかけ、団結している。
彼も、帝国の狙いを知ってしまったがゆえに。
つまり、全てのレジスタンスを統括していると言っても、過言ではないのだ。
ゆえに、ラスト達にとっては、彼と出会えたのは、幸運であった。
「本当は、ジーリア達と一緒に合流するつもりだったんだけどな……」
「帝国が、早く、動いたのは、こちらも、予想外だった」
「おう、その通りだ」
ラストは、嘆いているようだ。
実は、作戦会議が終わったと、ジーリアやレジスタンスのメンバーと共に、クライドの元へ向かうつもりだった。
もちろん、他のエリアのレジスタンスも、呼びかけて。
だが、帝国兵が、予想よりも、早く、動きだし、しかも、アメジストエリアまで、落としてしまった為、計画が狂ってしまった。
同士達も、失ってしまって。
クライドも、予想外のようで、参った様子を見せていた。
「で、聖女サマは?」
「部屋にいる。おとなしくしているようだが?」
「あっそ……」
ラストは、アマリアの様子は、どうかと問いかける。
クライドと合流した後、アマリアを部屋に入らせたのだ。
もちろん、監禁だ。
だが、アマリアは、逃げようとも、抵抗しようともしなかった。
相当、ショックだったのだろう。
帝国が、帝国の民を巻き込んだのだから。
帝国を信じていたというのに。
ラストは、アマリアの様子を、クライドの部下に任せていた。
クライドの部下は、すでに、クライドに報告していたようだ。
アマリアは、部屋でおとなしくしているらしい。
ラストは、そっけない返答をした。
「気になるのか?」
「別に」
クライドは、ラストに問いかける。
アマリアが、気になっているのではないかと、察して。
だが、ラストは、再び、そっけない態度で答えた。
気にしてるそぶりを見せないように。
「素直ではないな」
クライドは、苦笑する。
ラストの心情を見抜いているようだ。
実は、ラストは、アマリアの事が気になっていた。
だが、自分は、アマリアに近づくべきではないと考えていたようだ。
彼は、暗殺者なのだから。
アマリアは、二階の部屋に閉じこもっている。
外を見るが、やはり、ヘタマイトエリアも、アメジストエリアと変わらない。
やはり、帝国が、見放したのだと、嫌でも、知ってしまうくらいに。
外の様子をうかがっていたアマリアは、ため息をついた。
「……なぜ、あのような事を」
アマリアは、信じられないようだ。
なぜ、帝国が、アメジストエリアを落下させたのか。
帝国は、帝国の民を守るために動いていたと思い込んでいた。
だが、それこそが、間違いだったのではないかと、思っているのだ。
自分が、見てきた帝国は、まがい物だったのではないかと。
その時であった。
ノックの音が聞こえてきたのは。
「アマリア、入るぞ」
ノックをしたのは、ヴィオレットのようだ。
ヴィオレットは、すぐさま、アマリアがいる部屋に入る。
だが、彼女の表情は、いつもと変わりない。
無表情のままだった。
「ヴィオレット……」
「大丈夫か?」
「え、ええ」
ヴィオレットは、アマリアに声をかける。
心配しているようだ。
アマリアにとっては、予想外の事であり、戸惑いながらも、うなずいた。
表情からは、心情を読み取れない。
だが、声は、どこか、温かみを感じる。
まるで、昔の彼女のように、思えたのだ。
少しだけであったが。
「心配してくれるんですね」
「そうだな。今後の為に、あんたは、必要だからな」
「そう、ですか……」
アマリアは、安堵した様子で、ヴィオレットに声をかける。
だが、ヴィオレットは、すぐさま、冷たい声で、答える。
また、いつものヴィオレットに戻ってしまった。
あの頃のヴィオレットに戻る事は、もう、ないのではないかと思うほどに。
アマリアは、うつむいた。
嘆いているかのようであった。
「……」
「どうした?」
「い、いえ……その……」
アマリアは、黙ってしまった。
思いつめているようだ。
ヴィオレットは、その事に気付き、アマリアに尋ねた。
だが、アマリアは、戸惑い、答えようとしない。
ヴィオレットに話したくないのだろうか。
ためらいながらも、アマリアは、息を吐いた。
心を落ち着かせるかのように。
「あれが、帝国の本当の姿なのかと思うと……正直……残念で……」
「そうだ」
やはり、アマリアは、帝国の事を考え、思いつめているようだ。
帝国は、ヴィオレットを殺すために、帝国の民を巻き込んだ。
これは、あまりにも、ひどすぎる。
いくら、アメジストエリアの住人が、帝国を滅ぼす事に、ヴィオレット達に加担していたとしても。
許されることではない。
ゆえに、アマリアは、失望していた。
ヴィオレットは、堂々と答える。
帝国は、残虐だと言っているかのように。
「あれが、帝国だ。自分の野望を叶える為なら、手段を選ばない」
「そのためなら、帝国の民さえも……」
「……」
ヴィオレットは、肯定する。
決して、嘘をつかずに。
あれが、帝国の本性なのだと。
アマリアは、絶句した。
言葉が、出なかった。
今まで、信じていたものは、嘘だったのだと、察して。
「ヴィオレット、アメジストエリアの落下させるように命じたのは、コーデリア女帝ですか?」
「おそらくな。浮遊石は、帝国が管理していたしな」
アマリアは、尋ねる。
アメジストエリアを落下させたのは、帝国兵の勝手な判断ではないと察したのだ。
おそらく、命じたのは、帝国の女帝・コーデリアではないかと。
アマリアは、今まで、コーデリアの事を「コーデリア様」と呼んでいた。
だが、今は、「コーデリア女帝」と呼んでいる。
コーデリアは、アマリアにとって、今まで、尊敬に値する人物だったのだろう。
今は、彼女を軽蔑している。
ゆえに、様をつけなくなったのだ。
ヴィオレットは、うなずく。
彼女も、同じように推測していたのだ。
アメジストエリアを落下させたのは、コーデリアの仕業だと。
「許せません。あんなこと、するなんて……」
アマリアは、拳を握りしめる。
許せないのだ。
コーデリアや帝国がしたことが。
その時であった。
ノックの音が聞こえたのは。
「どうぞ」
ノックに反応したアマリアは、誰かと尋ねく、招く。
すると、すぐに、ドアが開いた。
「どうも~」
入ってきたのは、ラストのようだ。
それも、陽気な口調で、入ってくる。
全く、のんきな奴だ。
ヴィオレットは、呆れながらも、ため息をついた。
反対に、アマリアは、呆然としていた。
拒絶しているわけでも、軽蔑しているわけでもないようだ。
「あれ?ヴィオレットもいたんだ」
「ああ」
ラストは、驚いている。
ヴィオレットが、アマリアの部屋にいたとは、予想もしなかったようだ。
しかも、アマリアが、拒絶していない事も、予想外だったのだろう。
目を瞬きさせている。
ヴィオレットは、静かにうなずいた。
「どうしたのですか?」
「いやね、ここの屋敷の主人が、あんたに会いたいって言ってるんだけど、来てもらえないかな?」
アマリアは、どうしたのかと、尋ねる。
拒絶するつもりはないようだ。
と言っても、ラストを受け入れているわけではない。
迷っているのだろう。
帝国も、むごい事をしたのだから。
ラストは、この部屋に入ってきた理由を語る。
この屋敷の主人・クライドが、アマリアに会いたがっていると。