第十五話 冷酷な者達
レジスタンスのリーダーは、ノラをにらんでいる。
怒りを抑えられないのであろう。
今まで、信じていたというのに、彼女は、裏切っていたからだ。
だからこそ、許せないのだろう。
「何してんだよ」
「……ここから、出るためです」
「何?」
なぜ、自分を裏切ったのか、理解できないレジスタンスのリーダーは、ノラに問いかける。
ノラは、正直に答えた。
アメジストエリアを出るためだと。
彼は、ますます、信じられなかったようだ。
予想もしていなかったのだろう。
まさか、ノラが、ここから出たがっていたなどと。
「ボス。ここから出ましょう!!もう、自分を責めなくてもよいのです!!あなたのせいでは、ありません!!」
「ノラ、お前……」
ノラは、レジスタンスのリーダーにここから出るよう促す。
一人で、出ようとしているわけではないのだ。
彼も連れてここを出ようとしている。
父親の犯した罪を償う必要はない。
なぜなら、彼のせいではない事をノラは、知っているのだから。
レジスタンスのリーダーは、戸惑った。
まさか、自分の為に、動いていたとは、思いもよらずに。
だが、その時であった。
ラストが、彼の前に立ったのは。
「困るなぁ。勝手な事されるとさ」
ラストは、苛立っているようだ。
ノラをにらんでいる。
レジスタンスのリーダーをそそのかそうとしているように見えたのかもしれない。
それでも、ノラは、怖気づかなかった。
「聖女サマ、返してくれない?」
「……お断りします。どうしてもと、おっしゃるのなら」
ラストは、手を伸ばす。
アマリアを返せと。
だが、ノラは、首を横に振った。
自分の意志を変えるつもりはないらしい。
ノラは、懐から、短剣を取り出した。
「私と戦ってもらいます」
「ちっ。なんで、そうなるんだか」
ノラは、構える。
ラスト達と戦ってでも、ここから出るつもりだ。
もちろん、レジスタンスのリーダーと一緒に。
矛盾している事は、わかっている。
それでも、チャンスを逃すわけにはいかなかった。
レジスタンスのリーダーは、嘆いていた。
なぜ、このような事になったのか、理解できず。
だが、ノラをこのままにするわけにはいかず、ラストと共に抱えた。
ヴィオレットは、帝国兵達を戦っている。
だが、帝国兵の数が多すぎて、回避しきれなかった。
「うぐっ!!あああっ!!」
ヴィオレットは、身を焼かれ、体を切り刻まれ、地面にたたきつけられる。
殴られた跡もあり、骨も折れている。
帝国兵は、容赦なく、ヴィオレットを痛めつけたようだ。
それくらいしなければ、ヴィオレットは、捕らえられない。
だが、華のヴァルキュリアを殺したという憎悪も混じっているようにヴィオレットは、感じていた。
「さあ、もう、終わりだ。ヴァルキュリア」
「一緒に来てもらおうか」
帝国兵達は、ヴィオレットを取り囲む。
このまま、捕らえるつもりのようだ。
だが、ヴィオレットは、痛みをこらえ、鎌を振り回す。
帝国兵達は、危険を察知し、一気に、後退した。
「断る!!」
「だったら!!」
ヴィオレットは、立ち上がり、構える。
たとえ、この身が、引き裂かれようとも、立ち向かうつもりだ。
帝国を滅ぼすために。
帝国兵達は、再び、ヴィオレットに襲い掛かった。
ヴィオレットを殺すつもりで。
だが、ヴィオレットは、魔法・スパーク・スパイラルを発動した。
雷は、渦を巻きながら、轟き始める。
雷の渦は、瞬く間に、帝国兵達へと襲い掛かった。
「うああああっ!!」
帝国兵達は、悲鳴を上げながら、吹き飛ばされる。
だが、これだけではない。
ヴィオレットは、すぐさま、魔技・スパーク・ブレイドを発動したのだ。
刃と化したオーラは、帝国兵達を切り裂いた。
「うぎゃああっ!!」
帝国兵達は、体を切り刻まれ、血を流しながら、倒れる。
だが、ヴィオレットは、容赦なく、帝国兵に迫った。
冷酷な表情を浮かべながら。
「あまり、使いたくなかったんだがな……。仕方がない」
ヴィオレットは、ため息をつきながら、鎌を変化させる。
鎌は、宝石の刃と化したのだ。
ヴィオレットは、固有技を発動するつもりだ。
固有技は、妖魔に有効だ。
だが、人や精霊に使うものではない。
ヴィオレットは、承知の上で、発動するつもりなのだろう。
「覚悟してもらうぞ!!」
ヴィオレットは、鎌を振り回して、構える。
そして、そのまま、地面を蹴り、固有技・チャロアイト・ライトニングを発動した。
宝石の刃は、帝国兵を切り裂く。
それも、真っ二つに。
全ての帝国兵を殺したヴィオレット。
体中は、帝国兵の血で染まっているが、拭う事はしなかった。
「これも、帝国を滅ぼすためだ……」
ヴィオレットは、もう、動かない帝国兵を見ながら、呟いた。
まるで、自分自身に言い聞かせるように。
その頃、ラストは、ノラと戦い続けている。
レジスタンスのリーダーと共に。
だが、暗殺者であるラストに敵うはずもなく、ノラは、追い詰められていた。
「きゃっ!!」
ノラは、吹き飛ばされ、倒れ込む。
ラストとレジスタンスのリーダーは、ノラに迫った。
それも、容赦なく。
彼女の事を、裏切り者としか思っていないのだろうか。
「さあ、覚悟しろ、ノラ」
レジスタンスのリーダーが、剣を振り上げる。
ノラを殺すつもりだ。
たとえ、今まで、彼に尽くしてきたとしても、情けをかけないのだろう。
ノラも、あきらめたのか、静かに目を閉じた。
彼に殺されるのなら、本望と思っているのかもしれない。
だが、その時であった。
「待ってください!!」
アマリアが、ノラの前に立つ。
ノラを守ろうとしているのだ。
これには、さすがのノラも、驚きを隠せなかった。
予想外だったようだ。
「どきなよ、聖女サマ。そいつは、殺さなきゃいけないんだ」
ラストは、アマリアをにらみながら、命じる。
相当、苛立っているようだ。
アマリアに邪魔をされて。
それでも、アマリアは、怖気づくことなく、両手を広げて、首を横に振った。
「駄目です!!彼女は、ただ、ここから出たがってるだけなんですから」
「だからって、俺達を殺そうしていいのか?お前も、騙されたんだろ?」
アマリアは、退こうとしない。
ノラは、ただ、ここから出たかっただけなのだ。
だからこそ、殺してはならないと思ったのだろう。
そんな彼女に対して、ラストは、ため息をついた。
出たければ、何をしてもいいわけがない。
現に、自分達は、殺されそうになったし、アマリアも、騙されたのだ。
それでも、まだ、ノラをかばうのかと、ラストは、問い詰めた。
「それでも、彼女の気持ちは、わかります。それに、私に優しくしてくださったから。嘘でも、うれしかった。だから、お願いです。ノラさんを殺さないで!!」
確かに、アマリアは、騙された。
ノラに、利用されたのだ。
聖女と言う立場を。
それでも、ノラをかばう理由は、ノラの気持ちが理解できるからだ。
アマリアだって、ここから出たい。
そう願っているからこそ、ノラの気持ちが理解できる。
それに、ノラは、自分に優しくしてくれた。
たとえそれが、利用するためであっても、うれしかったのだ。
連れ去られたアマリアにとって、ノラは、心を開ける唯一の存在だったから。
アマリアは、ラスト達に説得を試みた。
彼女を殺さないでほしいと。
「心のお優しい方ですね」
「ノラさん……」
「だから……」
ノラは、アマリアの言葉を聞いて、考えを改めたかのような態度を見せた。
アマリアは、振り向く。
もう、ノラは、あきらめたのだろうか。
ノラは、穏やかな表情を浮かべた。
だが、その時だった。
すぐさま、アマリアを捕らえ、短剣でアマリアの首へとつきつけたのは。
「っ!!」
「騙されるんですよ」
ノラは、最後の抵抗を試みたのだ。
アマリアを人質にしてしまった。
「ノラ!!」
「近づかないでください!!」
レジスタンスのリーダーは、ノラに迫ろうとする。
ノラを止めようとしているようだ。
だが、ノラは、声を荒げた。
まるで、彼さえも、拒絶しているかのようだ。
レジスタンスのリーダーは、立ち止まってしまった。
「もう、いいです。貴方にわかってもらえないのならば、一人で……」
ノラは、嘆いていたのだ。
わかっていた。
自分が、裏切り者だと知ったら、殺すであろうと。
だが、それでも、自分の気持ちをわかってほしかったのだ。
彼をどれだけ、慕っているかを。
彼の為に、裏切ったのだと。
だが、レジスタンスのリーダーは、わかってもらえなかった。
ノラは、失望してしまったのだ。
だからこそ、アマリアを人質にして、一人で、逃げようとした。
彼さえも、置き去りにして。
しかし、ラストは、すぐさま、ノラに迫った。
アマリアの身に危険が迫っているのに。
ノラは、驚き、戸惑うが、ラストは、ノラの後ろへと回り込む。
そして、短剣で、ノラの背中を刺した。
「っ!!」
背中を刺されたノラは、目を見開く。
アマリアは、信じられなかった。
ラストが、なぜ、ノラを刺したのか、理解できず。