表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
楽園世界のヴァルキュリア―破滅の少女―  作者: 愛崎 四葉
第一章 裏切り者と失楽園
14/101

第十四話 自由を求めて

「ど、どうして……」


 アマリアは、衝撃を受けた。

 彼を慕っているとまで言っていた彼女が、なぜ、裏切り者になってしまったのか。

 先ほどの言葉は、嘘だったのだろうか。

 だが、表情を思い出すが、どう考えても、嘘偽りはないはず。

 それゆえに、アマリアは、信じられず、呆然と立ち尽くしていた。

 状況を把握できず。


「どうされました?もう少しで、貴方は、元の暮らしに戻れるのですよ。それに、私も、解放される……」


 メイドの女性は、アマリアに尋ねる。

 アマリアの心情を知っていたからだ。

 アマリアは、王宮エリアに戻りたいと願っている。

 それは、ヴィオレットとラストの運命を変えてしまうことになる。

 だが、彼女達に罪を償わせることもできる。

 やり直す事ができるかもしれないとも考えていた。

 いつか、説得するつもりだったのだ。

 今、それができるチャンスなのだろう。

 あの王宮エリアに戻れる。

 なのに、どうしてだろう。

 足が、動かない。

 まるで、行ってはならないと、体が拒絶しているかのようだ。

 だからこそ、メイドの女性は、尋ねた。

 アマリアも、自分も、解放されるのだと。


「ど、どういう事ですか?」


「……申し訳ございません。貴方を利用しました」


「え?」


 アマリアは、体を震わせて尋ねる。

 どういう事なのか、理解できなかったからだ。

 メイドの女性は、申し訳なさそうに、頭を下げた。

 アマリアを利用したというのだ。

 アマリアは、ますます、理解できなかった。


「私は、自由になりたいのです。あそこから、出たいのです。そのためには、なんだってしました」


 メイドの女性は、淡々と語る。

 ずっと、出たかったのだ。

 あの閉鎖的な空間から。

 アメジストエリアを出て、自由になりたかったのだ。

 そのためなら、なんだってした。

 仲間も裏切った事もある。

 アマリアでさえも、利用した。 

 自身の願いを叶える為に。

 帝国兵に教えたのだ。

 アマリアが、このアメジストエリアにいると。

 すると、帝国兵は、アマリアを連れてくるように命じられた。

 だが、彼女は、簡単に応じなかったのだ。

 自分も、アメジストエリアから出たい。

 アマリアを連れてくるから、出してほしいと。

 帝国兵は、彼女の要求に応じた。


「あのヴァルキュリアを捕らえれば、解放されると街の方々に教えたのです。帝国が、連れていってくれると。もちろん、嘘ですが」


「な、何のために……」


「あのヴァルキュリアと暗殺者が邪魔でした。この計画を遂行するには」


 メイドの女性は、ヴィオレットを捕らえるように帝国の民に告げたのだ。

 彼女を捕らえれば、ここから出られると。 

 もちろん、帝国兵は、それも命じていた。

 と言っても、捕らえたものを解放するとは言っていない。

 彼女は、嘘をついたのだ。

 その嘘を真に受けて、帝国の民は、ヴィオレット達を捕らえようとした。

 返り討ちに合ってしまったが。

 なぜ、そのような事をしたのか、アマリアは、理解できず、問いかける。

 彼女の狙いは、ヴィオレットとラストを消す事だったのだ。

 ヴィオレットとラストは、彼女にとって、邪魔な存在であった。


「彼女達は、あのお方から頼まれていたのです。裏切り者を見つけ出せと。だからこそ、私は、嘘をついたのです。彼女達の足止めをさせる為に」


 メイドの女性は、知っていた。

 ヴィオレットとラストが、裏切り者を見つけ出せと、レジスタンスのリーダーから依頼されていた事を。

 それは、彼が、メイドの女性を信頼していたからこそ、教えたのだ。

 だが、それが、仇となってしまったのだろう。

 彼女は、ヴィオレットとラストを止める為に、帝国の民に嘘をついたのだ。


「じゃ、じゃあ、襲撃は……」


「私が、教えました。ここに聖女がいる。見つけたら、帝国が、ここから、連れ出してくれると」


 アマリアは、メイドの女性の話を聞き、ある事を思い出す。

 それは、あの屋敷が襲撃された時の事だ。

 もしかしたら、彼女が、仕組んだことではないかと。

 アマリアの疑問に、彼女は、答える。

 やはり、アマリアの予想通りだった。

 彼女が、教えたのだ。

 聖女を見つけ出せば、ここから、抜けられると嘘をついて。

 

「あの方を殺そうとしたのですか?」


「いいえ、それは、違います」


 アマリアは、メイドの女性に問いかける。

 レジスタンスのリーダーを殺そうとしたのかと。

 慕っていると言っていたのは、嘘ではないかと思い始めてきた。

 だが、意外にも、彼女は、首を横に振る。

 それも、辛そうに。


「あのお方をお慕い申していたいのは、本当です。あのお方が、あいつらごときに後れを取るはずがないと思っていました」


「なら、なぜ……」


 メイドの女性が、レジスタンスのリーダーを慕っているのは、本当なのだ。

 彼が、殺されるとは思っていないらしい。

 それほど、彼の事を信頼しているのだろう。 

 だったら、尚更、アマリアは、理解できない。

 なぜ、このような事をしたのか。


「あのお方とここから抜け出すためです」


 メイドの女性は、自身の狙いを打ち明ける。

 確かに、彼女は、ここから、出たいと願っている。

 だが、自分だけではない。

 レジスタンスのリーダーと共に出ようと思っていたのだ。

 だが、レジスタンスのリーダーが、命じたわけではない。

 彼女の独断で、行っていた事だ。


「あの窮屈な鳥かごから、あのお方には自由になってほしいのです。二年前、あのお方の父親が、反旗を翻しました。そのせいで、あのお方は、縛られているのです」


 二年前、アメジストエリアが、帝国に見放されたのは、レジスタンスのリーダーの父親が、原因だと、メイドの女性は、思っているらしい。

 彼の父親が、反旗を翻し、多くの同士を連れて、帝国に刃向った。

 だが、結果は、彼の父親は、処刑され、アメジストエリアは、見放された。

 彼は、その償いをしているのだろう。

 アメジストエリアの者達を巻き込んでしまったと嘆いて。

 だからこそ、メイドの女性は、自由になってほしかった。

 慕っているからこそ、このような事をしたのだ。

 アマリアは、愕然とする。

 帝国が、彼女を狂わせてしまったのではないかと思うほどに。


「ですから、聖女様、申し訳ございませんが、一緒に来てもらいます」


「え?え?」


 メイドの女性は、アマリアの手をつかみ、強引に、帝国兵への元へと歩かせる。 

 連れていかれるアマリアは、未だ、状況が把握できない。

 自分に優しくしてくれたことまで、嘘だったのだろうか。

 全ては、自分とレジスタンスのリーダーの為にしたことであり、自分達以外は、どうでもよかったのだろうか。

 未だに、信じられず、アマリアは、抵抗もできないまま、歩かされていた。

 だが、その時だ。

 短剣が、メイドの女性へと放たれたのは。

 だが、メイドの女性は、懐にしまい込んでいた短剣を取り出し、はじく。 

 短剣は、カランと音を立てた。

 待機していた帝国兵達は、構える。

 その理由は、ヴィオレット、ラスト、レジスタンスのリーダーが、駆け付けに来たからであった。


「ちっ。外したか」


 仕留め損ねた為、ラストは、舌打ちをする。

 見くびっていたのだろう。

 メイドの女性が、反撃するとは予想外だったのだ。

 だが、ラストは、余裕なのか、ひょいと短剣を拾い上げた。


「お前、本当に……」


「……」


 レジスタンスのリーダーは、信じられないらしい。

 当然であろう。

 今まで、信じていた彼女が、裏切り者だったとは、信じたくないのだ。

 ヴィオレットとラストから聞かされていた。

 自分達を襲うように仕向けたのは、彼女だと。

 メイドの女性は、罪悪感を感じたのか、彼から目をそらした。


「ヴァルキュリアが、来たな」


「殺さず捕らえろよ」


 帝国兵は、ヴィオレットを目にして、構える。

 彼女を捕らえるつもりだ。

 どのような手段を使っても。

 殺さないように。


「あいつらは、私がやる。だから……」


「おう、アマリアは、任せろ」


 ヴィオレットは、たった一人で、帝国兵を相手にするつもりだ。

 捕まるつもりも、殺されるつもりもない。

 ただ、帝国兵を殺すために彼女は戦うのだろう。

 ラストも、ヴィオレットに任せて、アマリアを助けようと短剣を構えた。

 ゆっくりと歩き始めるヴィオレット。

 帝国兵は、ヴィオレットに襲い掛かろうとするが、ヴィオレットは、すぐさま、ヴァルキュリアに変身した。


「はっ!!」


 ヴィオレットは、鎌を振り回し、帝国兵を切り裂いていく。

 多数対一だというのに、ヴィオレットは、次々と、帝国兵を殺していく。 

 だが、帝国兵も、追い詰められてはいない。

 連携を取り、魔法や魔技を発動していく。

 ヴィオレットは、鎌を振り回して、魔法や魔技を切り裂いていく。

 それでも、防ぎきれず、刃と化したオーラが、ヴィオレットの体を切り裂いた。


「うっ!!」


 ヴィオレットは、苦悶の表情を浮かべる。

 だが、帝国兵は、容赦なく、魔法や魔技を発動する。

 弾が、ヴィオレットを襲い、ヴィオレットは、吹き飛ばされた。

 それでも、ヴィオレットは、痛みをこらえて立ち上がる。 

 痛みすらも、押し殺そうとしているようだ。

 帝国兵は、容赦なく、ヴィオレットに迫った。


「我々を見くびるなよ。我々は、訓練を受けているのだ。お前を捕らえる為に」


「ちっ……」


 帝国兵は、情けをかけるつもりはない。

 少女と言えど、彼女は、戦闘兵器だ。

 油断すれば、殺されてしまう。

 だからこそ、容赦なかった。

 ヴィオレットは、舌を巻く。

 やはり、一人では、一筋縄ではいかないのだと悟って。

 その頃、メイドの女性は、アマリアの前に立つ。

 アマリアを譲るつもりはないようだ。


「ボス……」


「ノラ……」


 レジスタンスのリーダーは、メイドの女性の名を呟く。

 愛しい彼女の名を。

 ノラも、心苦しそうな表情を浮かべていた。

 なぜ、武器を向き合わなければならないのかと嘆いて。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ