息抜きの時間〜爽やかな甘味を添えて〜
息抜きに書いた恋愛話です。
ごゆっくりどうぞ。
一台の車が通り過ぎると、水たまりがなだらかに波打った。収まろうとする水面には、次々と真ん丸の波紋が打ちつけられる。
一列に並んだ赤色と青色の傘は、車が通り過ぎた後には横に並んだ。青い傘の方が少し高くあげられていた。
「で、話って何かな? 」
右側にいる少年は赤い傘を持つ少女に問いかける。少女の方を見れば、薄暗い明かりの中で、少し赤らめた頬をしていた。
「えっとね……その、話っていうのは……」
目は雨粒の中を泳いでいくが、なんせ全く足りない。泳ぐのをやめて少女は深く深呼吸をした。
「その!。円馬くんと付き合いたくて! 」
意を決して少女は叫ぶ。それを聞いた少年は、驚きのあまり目を見開いた。そのすぐ後、僅かに頬を紅潮させた。
「えっ、と……いい……よ? 」
少し片言になりながら、明後日の方角を見つめて少年は言った。その言葉に少女はまた顔を赤らめる。
「じゃあ、やるね」
少年は真面目そうにそう言った。
「──へっ? 」
言ったのだが……少年の次の言葉に少女は呆然とするしかなかった。少年は人差し指を少女の方に向けて言う。
「い、いくよ……! 」
ツンツン。……ツンツン。
「あ、あの……」
肩をつつく少年に少女は言う。しばらくすると、やがて少女にも意味がわかってきた。予想外のことだったらしく無表情になった少女は黙って少年を見続けていた
「あれ?『突き合う』んだよね?紗良ちゃんもしないの?」
「えっ」
「──ん? 」
「円馬くんの馬鹿ー! 」
そう叫んで少女は家に帰ろうとして一歩手前の曲がり角を曲がった。
「あっ違う」
戻ってきた少女、紗良は円馬と目が合う。
「……。ば……馬鹿ぁ……」
恥ずかしさが混じり、少々涙目になりながらも雨の中を紗良は帰っていった。
「間違ってたのかな……? 」
円馬は、本気でそう思った。
※※※※
私は如月紗良と言います。今高校生です。円馬くんとは幼なじみで小学校の頃からの友達。……今は恋人?……であってほしいな。昨日は逃げちゃったけど、今日はちゃんと話せるようになりたいな。
学校へついた私は日誌を取りに行きます。今日私は日直の日です。
「もう取りに行ったぞ? 」
職員室に入り、担任の藤川先生に日誌をもらおうとしたらこんなことを言われました。いつもよりかなり早く来たのだけどどうやら先着がいたみたいです。
「失礼しました……」
扉を閉めて一応配達物の確認をします。日誌からある程度は予想してましたが、案の定配達物はなかったです。
教室も開いていたので入りました。まだ机の椅子はどれも上がったままです。
「誰もいない……? 」
もう一人の日直はどこへ?、と思ったすぐの時でした。
「あっ紗良ちゃん、おはよう」
「えっあっ、おはよう円馬くん」
「入らないの? 」
「えっは、入るよっ。え、円馬くん早いんだね! 」
「早いって、今日日直だよ? 」
「そうだっけ? 」
席に着席して、一息つきます。でもその一息の途中で急に心臓がドクンと強く鼓動がしました。
円馬くんと二人きり。
そう意識した途端昨日の出来事を思い出して机を叩いちゃいました。
「……?。どうしたの?」
「き、昨日ごめんね!先帰っちゃって……」
「ああ、いいよいいよー。僕もなんだか悪かったみたいだし」
「あ、そうなんだ」
「付き合うって交際のことだったんだねぇ」
「まさか知らないとは思わなかったよ……」
どうやら本当に分からなかったようです。少しどころじゃないけど驚きました。隣同士で無言の時がどんどん過ぎていきました。
「ちーっす」
「それでねそれでねー……」
「紗良ちゃんおはー」
「えっうそやん」
「なぁなぁこれ見てっ! 」
続々とクラスメイトのみんなが登校してきました。教室の中が賑やかになります。予鈴、ホームルーム、と毎日のしている事が流れるように終わっていきます。
国語の授業です。丁度物語文の授業でした。男女間の恋物語でした。なんだか読んでいるだけでも恥ずかしくなってきました。
「ねぇ、円馬くん」
「なぁに?紗良ちゃん」
「今週の土曜日空いてるかな……? 」
「え、うん空いてるよ」
「じゃあさ、もし良かったら──」
『じゃあこの問い、円馬、答えてみろ』
『あっはい』
私は詰まりそうになりながらも振り絞って声を出しました。
「──遊園地に行かない? 」
心を落ち着かせてから円馬くんの方へ視線を向けると、円馬くんの顔じゃなくてズボンが見えていました。更に周りから沢山視線を感じます。
「出席番号七番の如月紗良さん」
「はっはい!」
先生に呼ばれて私は返事をしました。
「授業中に私語は慎みましょうね? 」
「す……すいません」
みんなに聞かれていたようで、みんなはクスクスと笑みをこぼす。
「紗良ちゃん可愛い〜」
「珍しいなー」
「癒しやー」
心も体も縮こまった気分でぎこちない動きで椅子に座った。
「紗良ちゃん私語は慎もうね」
「い、言わないでよ……」
「遊園地行くから、ね? 」
「ほ、ほんと? 」
私はちょっぴり嬉しくなりました。
※※※※
待ちに待った遊園地に行く日です。私は昨晩遊園地に行くのご楽しみすぎたのにぐっすりと眠っちゃって元気です。顔を洗って、歯磨きバッチリ、チケットもお金もちゃんと持ち物はすべて持ったし、服も昨日用意していたのですぐ着れたし、時間は約束の十分前だし。──あれっ十分前!?
「お母さん!。行ってきますー! 」
「あら〜。いってらっし」
バタン!!
実は私は帰宅部です。十分遅れて到着しました。でも、あたりを見回してみても円馬くんは見当たりませんでした。
「あれ?。いないのかな」
トントンッ。私は肩を叩かれました。──プニッ。
「ひっかかったっ」
「わっ!。え、円馬くん! 」
私は驚きのあまり数歩下がりました。ニコリと円馬くんは笑っています。
「びっくりしたよ……」
胸に手を添えながら言うと、円馬くんは私のその手を掴んで、私は引き寄せられていきました。
「離れちゃダメだよっ」
「う……うん……」
私にとっては不意打ちのようで思わず心臓が飛び出しそうです。遊園地では、メリーゴーランドで円馬くんが白馬の王子様のようで、ジェットコースターで私は叫びまわったけど円馬くんは楽しそうで、お化け屋敷は二人で一緒に驚いたり。
「楽しかったー! 」
「そろそろ時間だし最後に一つ行くかい? 」
ほかのアトラクションもしているうちに、太陽さんは隠れていこうとしていました。
「じゃ……じゃあ」
「……ん? 」
「観覧車に乗りたいっ」
※※※※
本日のメインイベントと私は思っています。観覧車です。ふたりきりの静かな時間を満喫出来て……出来ますっ。凄い緊張してます……!。
「綺麗だねぇ」
「ほんとだ。綺麗ですね!」
外は光が空いっぱいに広がっていました。
「実は今日は上手くいくか緊張してたんだ……」
「円馬くんが緊張なんて珍しいです」
わ、私は顔に出てないだろうか……。もうすぐてっぺんにさしかかろうとしていました。次第に心臓が強く波打っていきます。
※※※※
無言の静寂がふたりを包み込んだ。時が止まったようにその静寂は迫ってきた時間を表していくようだった。
──一番遠い場所。
──一番近い場所。
「円馬くん……っ! 」
「紗良ちゃん……っ! 」
「あっ」
「あっ」
二人の声は重なった。静寂を笑い声で緩やかに和ませていく。
「円馬くんが知ってるなんて思いませんでした」
「これでもちゃんと調べたんだからな」
「……タイミング逃しちゃいました」
「じゃあそのタイミング──捕まえようよ」
──二人は優しく唇を重ね合わせた。