序 『ホモ・メンクイ』
地球上には、『ホモ・サピエンス』という種族がいる。
いわゆる、人間だ。
ホモ・サピエンスは、人間=自分たちのことだと思っている。
確かに、人間の大部分は、ホモ・サピエンスだ。
しかし、あくまでも大部分。全てでは、ない。
人間の約0.01%、数にして70万人ほど。
『彼ら』は、ホモ・サピエンス中心の社会で、至って普通に生活を営んでいる。
故に、その存在が外界に知られることはない。
『彼ら』もまた、地球上に生きる『人間』なのである。
では、『ホモ・サピエンス』と『彼ら』、なにがその二つの種族を隔てているのか。
『彼ら』はホモ・サピエンスに比べて、胃腸の働きが弱く、その特性上、あまり多くの食物を摂取できない。
それ故、特殊な加工をされたBL本やホモビデオから採れる『BL因子』によって、単位量あたりのエネルギー変換効率を底上げして生活しているのだ。
具体的には、BL同人を10冊読めば、一日を白米茶碗一杯で難なく乗り切ることが可能となる。
つまるところ、彼らにとっての食事とは、すなわち、『BLを鑑賞すること』と同義なのだ。
そんな『彼ら』。
種族の名を――『ホモ・メンクイ』。
これは、そのような隠された種族に新たな風を吹き込む、とある青年の物語である。