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「起きて!」と彼の布団を剥がす私。


「うーん…」とカーテンとカーテンの間から顔を出した日差しが彼の目の丁度いいところに当たり、彼は、眩しそうに手を目に翳す。


さらに、「起きて!遅刻するよ!」と彼の身体を揺する。


次に、私が動き出し、向かったのは…


「悟!」


声だけで起きる訳もなく…


たったったと階段を上がっていき、起こす。


「悟、起きて!朝だよ!」


「…」


身体を揺する。


しかし、起きない。目を開かない。


「…」


さっきよりも大きな声で、「悟!」と言うと、彼の耳はぴくっとして、目を開く。


「悟!起きて!幼稚園、遅刻するから!」


「うーん…」とまだ眠い目を擦る。


悟を起こした後、再び、彼を起こす。


それは、私の日常の一つである。


その後、二人にご飯を食べさせ、息子を幼稚園に送りに行き、帰って来て、洗濯物をして、洗い物をして、掃除をして…



私は、いつも午前中に家の用事を済ませると、必ず、行くところがある。


その場所は、初恋の相手であり、同級生であった彼とよく来た、自然の広がった時間が流れていることを忘れさせる、思い出の場所である。


今だって、一度も忘れたことはない。一度も。


君がここにいたこと。


私の側にいたこと。


ここに来る度に、晴れている。不思議だ。雨が降ったことも嵐が来たことも一度もない。


もう、時は、10年以上が経っている。


空を見上げる度に、涙が出る。


もし、今、君が、生きていたら、私の未来に君はいたのだろうか。


黄色のマーガレットの花や、ピンク色の花、白い小さい花びらの花を花束にしたものを置いた。


そして、両手を合わせて祈った。



ねえ、あなたは、幸せでしたか?



私の頭の中で少しずつはっきりと記憶が蘇る。



まだ、高校2年生の私。


飾られたクラスの名簿が並べられた。


クラス名を友達と探していると、友達である2人と同じクラスだと知り、喜びあった。


その時、私の隣に男の子が並んだ。


彼もまた、自分の名前を見つけて、友達と一緒で、喜んでいた。


そんな時、丁度、同じ話をしていたのか、「美月!」と声が重なった。


お互いに目が合う。


あるバラエティ番組に出て来た女の人、美月。


それが、みんな、名前がわからなかったらしく、丁度良く、彼は知っていて、私と重なったらしいのだ。


それを機に、何故か、仲良くなり、彼と同じクラスだということも知り、何故か、隣の席という運命らしきものがあった。


でも、その時は、別に、恋とか、そういうものではなく、男友達というカテゴリーに過ぎない。


男友達は、いたことのある私にとっては、それは普通である。


そんなある日、「金井!」と呼ばれた。


その声に私は、振り返る。


「金井、波瑠ってわかる?」


「わかるよ」


「だよな」


「何で?」


「あいつらに話したら、知らないって言うだ…」


「…そうなんだ…」


少し、彼との会話のやり取りに間が空く。


「ねえ、係、なにやるかもう決めた?」


「…うーん…まだ、決まってない…」


「…そっか…」


「…うん…」


少し間が空いたから、「あ…あのさ…」と彼が何かを言いかけていた時である。


ばー!とドアが開く。


「ゆら!」と呼ぶのは、蘭。


「今、行くよ」


その声にひょっこと姿を隠した。


「そう言えば、何か、言いかけてたよね?」


「…いや…別に…」と彼は、行ってしまった。


教室に戻ると、ざわざわとする教室。


これから、係や委員を決めるのだ。


「何にする?」と香奈は、言う。


「うーん…」と悩んだ蘭。


「ゆらは?」


「私も悩んでる….」



結局、私は、図書委員に決め、係は、配り物をする係となった。


じゃんけんという運命の結果で、そうなった。


蘭と香奈もじゃんけんにより、それぞれに別という結果になったが、まあ、仕方がない。


しかし、不思議だった。


じゃんけんという運命で決まったはずなのに、彼と同じ委員で係というもう、運命でしかない。


1学期の後半くらいになって、席替えをした。


隣は…彼。


もう、運命じゃん!


私は、それだけで、少し彼が気になるようになった。


気が付けば、彼を目で追ってて…


1学期が終わる修了式が終わった後、私のところに来て、「あの!」と言う。


「うん?」といつも通りの反応。


そんな時だった。


「僕…好きです…あ…あの….僕と付き合って下さい!」と彼に告白をされた。


そして、付き合うことになり、彼のことを知っていく度に、もっともっと好きになっていく。


デートをする時も手を繋ぐということも心臓がはち切れそうなくらいばくばくとして、ちゃんと目を見て話せない。


しかも、下を俯いてしまう。


「金井さん…あのさ…」とデートをしていた時、俯いた私。


「ねえ、僕を見て!」と私の顔を上げる。


目を見れない。


「金井さん!」


「はい!」


「…やっと、目が合った」


「…うん…ごめん…」


「…金井さんのこと、ゆらって呼んでもいいですか?」


「…はい…」


少し照れる私。


「僕のことは、優って呼んで」


「…うん…」


すると、彼は、私の手を握る。


慣れてるのかな?


私も付き合うのは、初めてではないのに、何でだろう。今までにない緊張と幸せ。


「…」


「ゆら…さん…」


「…はい…」


「…」


「…」


「なんか、照れくさいね」


「そうだね」


ただ、彼がそこにいる。


ただ、そこに。私の側に。


微笑んだり、笑ったりする顔。



「…」


「会いたい…」と呟く。


どんなに、会いたくてもどんなに話したくても離れても…


君のことは、忘れない。忘れたことなんて一度もない。


そんな事を思っていると、強くまだ冷たい風は吹き出した。


ぽろぽろと出て来てしまう。


これもいつも通り。全て、いつも通り。


だった。

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