*5* By two people‐凛 side‐
「あぁ〜早く夏休み来ないかなぁ〜」
沙希は病室に来て早々、伸びをしながらそう言った。
う〜ん、夏休みかぁ〜。
ていうかまだまだじゃない?
「夏休み始まるのっていつ?」
「7月の21日」
「まだまだじゃん」
もうそんな先の話をしてんのか、沙希は。
でも夏休み始まると沙希達がいっつも病院に居てくれていいんだよねぇ…。
まぁ、仁がいるけど。
「津島は?」
少し怪訝そうな顔をして沙希は隣の空いているベッドを見た。
別にいないんだからそんな怪訝そうな顔しなくてもいいのに。
ま、顔に出やすいタイプだからしょうがないか。
「知らない」
あいつなんて知らないし。
ていうかあのあたしの歌を聞きかせた日からなぜか仁はどこかへ行ってばかりだ。
何か意味分かんない奴。
大体がなんであたしの歌を聴きたがったんだろう。
別に興味を持つような事は言ってないと思うんだけど。
「ふ〜ん」
「今日も沙瑛いないの?」
「うん。なんか大会が近いんだって」
「陸上部は?」
「今日は早く終わった」
そう言って沙希はピースサインをしてにかっと笑った。
沙希はちゃんと部活に出ているのだろうか?
ちょっと気になるな。
「ねぇ、あたしって学校行けないのかなぁ〜」
「行けるんじゃない?」
はっ?
「行けるのっ!?」
「なんか最近調子よくなってきたから、もうそろそろ学校に行かせてもいいんじゃないかって、じぃが言ってたよ」
「院長が?」
「うん」
ほんとかなぁ。
学校行きたいな。
部活はだめかもしれないけど。
「あっ、やっば〜い。テスト勉強しなきゃ」
「テスト勉強?」
「うん、あと2週間後ぐらいに中間テストがあるんだ」
「ふ〜ん、大変だねぇ」
「凛はいいなぁ。テストなくて」
「でもつまんないよ、それも」
沙希はじゃあね、と言って病室を後にした。
その入れ替わりに仁が入ってきた。
よくよく見ると手に何か持っている。
それは、ギターだった。
青色の普通の大きさの奴。
「どうしたん?そのギター」
話しかけてみた。
すると仁は少しびっくりしたような顔でこっちを見た。
「あぁ─」
そう言うと仁は自分のベッドの上にそれを置いた。
答えろよ。
「どうした、そのギター」
あたしはまた聞いてみた。
仁はこっちをちらっと見るとギターに視線を落とした。
「俺のだよ。入院する前から持ってたんだ」
「なんで今頃持ってくんの?」
「おまえの歌」
仁はそう言って黙った。
「あたしの歌がどうした?」
少し目を泳がせて俯いてから仁は言った。
「おまえの歌、弾いてみたかったんだよ」
「へっ?」
「だから─おまえの歌、好きだから─」
そう言って仁は初めて聞かせた歌をギターで弾き始めた。
─すごい。
音もリズムも全て合っていた。
2回しか聞かせた事はなかったのに…。
すべて耳コピーしていたみたいだ。
でもやっぱり全部は覚えられなかったのか、少し違う部分もあった。
しかしそれもちゃんと綺麗な音になっている。
音は外れていない。
全部弾き終えると仁は言った。
「─どうだ?」
「うん─」
あたしは少し戸惑った。
なんて言えばいいのか分からない。
「すごい─。よく覚えられたね」
「おう。1度聞いたら忘れられなくってな。でもかなり練習したよ」
あぁ─だから最近姿を見せなかったのか。
急にこいついいとこみせやがって。
「ばーか」
あたしが言うと仁は少し眉に皺を寄せた。
「ばかとはなんだよ。せっかく人ががんばって─」
「別に頼んでないもん」
「─なぁ」
「何?」
あたしは少し不機嫌そうに答えた。
「2人で歌わないか?」
「はぁ?」
「俺、おまえの歌に一目惚れした」
何を言い出すんだ、この男は。
でも、いいかもな─。
こいつ結構腕いいみたいだし。
2人でやるのもいいもんかもな。
「ま、いんじゃない?」
あたしは一応そう答えておいた。