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*4* Her song‐仁 side‐

 入院生活ってなんでこんなに退屈なんだろ…。

 なんか凛は顔は可愛いけどかなりわがままで変な奴だし。

 泉って奴はなんでか分かんないけど俺の事嫌ってるっぽいし。

 その妹は─まぁ、普通だったな。



「この病院には普通の奴はあいつ以外いねぇのかよ─」



 おっと、ついつい声に出しちまった。

 でもほんとの事だしいっか。

 凛に聞こえてない事を祈る…。


 

 ガシャッ



 すると大きな音をあげて俺のベッドを包んでいたカーテンが急に開いた。

 俺がおそるおそる顔をあげると恐ろしい表情をした凛の姿が。



「誰?あいつって」



 ニッコリと笑って凛は言った。

 笑っているといっても口だけが笑っていて目があまり笑っていない。

 やばい。どうする、津島仁。



「当然あたしの事だよね?」



 少し声のトーンを下げて凛が言った。

 こういう時はこいつの話に合わせよう。



「そうそう。凛の事だよ。ほら、泉姉妹ってちょっと変わってるだろ…?」



 おい、やばいよ俺。

 友達の事を悪く言われて良く思う奴がいるか?

 …いねぇよ、馬鹿。


 あぁなんか凛の表情が険しくなってきてる…。

 


「そんな嘘、このあたしに通用すると思ってたわけ?」



 俺、殺されるかも─。



「え、や、その─」


「死ね、クソ」



 そう言って俺のベッドをこいつは蹴った。

 思ってたよりもその蹴りは強くかなりベッドが揺れ、俺は落ちた。


 そして頭を思いっきり床に叩きつけられた。



「いっっっってぇ〜!!」



 多分この俺の叫び声は病院内にとてもよく響いただろう。

 しばらく俺は床につっぷしていたが、さすがにそれはあまりにも間抜けだと思ったので起き上がる事にした。

 それから頭を両手で支えながら凛を見ると─、



「クククッ─」



 笑っていた。

 なぜ俺はこんな病院に来たのだろう──。


              ♪


「あぁ〜面白かったぁ」



 そう言って凛は伸びをした。

 たくっ、のんきなもんだよな。

 俺は死ぬかもって思うぐらい頭を強くぶつけたっていうのに。


 

「ていうか普通、あんなでかい声で叫ばないし」


「それだけ痛かったんだよ」



 最悪。最悪だ。

 この性悪女。

 

 なんかこいつは病院内で自作の歌とか歌ってて人気者だとか聞いたけど絶対それ、人違いだって。

 こいつがそんなみんなが聞きたくなるような歌なんて作れるわけないし。


 …って歌?

 こいつって歌作ってんだよな?

 なんかちょっと聞きたいかも─。

 いや、まぁでもそんなすごい歌でもないだろうけど。



「なぁ、おまえ─じゃなくて凛って歌作ってんだろ?」


「はぁ?何、急に。─まぁ作ってるけど?」


「じゃあさ、歌ってよ」



 駄目か…?

 てかこいつが俺に歌、歌うなんて絶対無いし─。



「いいけど」


「へっ?」



 今、こいつなんて言った?

 いいっつったか?



「いいのか?」


「別に。そのかわり、あんただけに聞かせるわけじゃないから」


「は?どういう意味?」


「病院の休憩所。そこに行く。ほら、キーボード持って」



 そして俺は少し重いキーボードを持たされた。

 凛はもう病室の外に出ている。

 


「早くして。そうしないと夕食の時間になっちゃうじゃん」


「はいはい、分かりました」



 俺は犬のようにこいつのあとについていくしかないみたいだ。


             ♪


「あら、凛ちゃん。今日も歌、歌うの?」


「はい。でもそろそろ夕食の時間なんで、少しだけ」



 なんか凛はたくさんの人に話しかけられている。

 やっぱりあの人気者だ、っていう話は嘘じゃなかったんだ…。


 

「あれ、この男の子は?」


「あたしの病室に来た子。仁って言うの」


「初めまして、仁君」


「初めまして」



 やっぱり変な病院だよ。

 なんでいちいちこんな名前なんて覚えてんだよ。

 そんな仲良くしたって意味ないだろ。

 同じ病室ならまだ分かるけど…。



「あっ、着いた。ここ、あたしの特等席。ここの席から見る景色が一番綺麗なんだ」


 

 そう言って凛は窓側に置いてある席に腰掛けた。

 確かにここの窓からの景色は綺麗だ。

 空がよく見えるし、山もよく見える。

 

 近くにあったテーブルにキーボードを置いた。



「ちょっと、仁。そっちのテーブルよりもこっちのテーブルの方が近いじゃん。ていうかあのテーブル持ってきて」


「はぁ?自分で持って来いよ、それぐらい」


「じゃあ、歌わない。それにあんたの席もこの特等席に座らせてやろうと思ったのに」


「あぁ、もうたくっ、分かったよ。持ってけばいいんでしょ、持ってけば」



 ほんとにわがままなお姫様だ。

 おっ、こいつにお姫様ってぴったりじゃん。

 いや、待てよ。

 そしたら俺が家来って感じになっちまうじゃないか。

 それはやばい。


 俺は結構重いテーブルを凛が座ってる席まで持ってった。

 そしてキーボードをそのテーブルの上に置いた。



「どうも。じゃあ、歌う。そこの席、座っていいから」



 凛は隣に置いてあった椅子を指差して言った。

 俺はその席に座った。

 そして凛はキーボードを弾き始めた。



「〜♪〜♪〜♪〜〜また明日ね〜♪そう〜言って別れた〜♪〜♪〜でもあたしには〜そんな事は分からない〜だって〜♪〜あたしには明日があるかなんて〜分からないのだから〜♪〜」



 凛は少し大人しい感じの歌を歌い始めた。

 彼女が歌い始めるとだんだんと人が集まってくる。

 そしていつの間にか周りは患者さんでいっぱいになっていた。

 

 なんか思ってたよりもいい曲だな…。

 こいつでもこんな歌が作れるのか。

 凛には才能があるのかなぁ─。



「〜♪〜♪〜それは〜危ないから〜駄目だよ〜♪〜なんて言われても〜♪〜〜もうあたしは〜分からない〜聞かないよ〜〜♪〜あたしは自由だから〜♪〜♪〜」



 歌がサビに入った。

 なんだかこの歌詞は凛の心の中を歌ってるのではないか?

 走ったり、激しい運動をするのは心臓、肺が弱いと危ないから駄目だ。

 でも彼女は走りたい、みんなと同じ事がしたいのではないか?


 初めて聞く彼女の歌は─とても綺麗だった。




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