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*3* She the next‐凛 side‐

「凛〜!たっだいまぁ」



 大きな声と共に病室の扉が開き、沙希が入ってきた。

 今日は帰りが早い。

 それに沙瑛はどうしたのだろう。

 

 いつもは帰ってくる時は沙瑛が一緒だし、帰るのは6時近くになるのに今日は4時だ。

 部活が無かったのだろうか。



「おかえり。今日は早いみたいだけど」


「そうっ!今日は部活が無かったんだぁ〜」



 やっぱり。

 推理的中。



「何部だっけ?」


「何?もう忘れたの?忘れん坊だなぁ」


「あんたに言われたくないけど」


「陸上部だよ。陸上部」


「へぇ〜」



 陸上部かぁ─。

 あたしは絶対に入れない部活だな。

 

 あたしは心臓が悪いから走ると危ない。

 だから走るのはもっての他、激しい運動は絶対にできない。

 でも体力をつけるために屋上に散歩に行ったり、休憩所まで歩いて行ったりはするけど。



「沙瑛は?」


「沙瑛はね、吹奏楽部で今日も部活あるから遅くなるよ」



 そういえば沙瑛は吹奏楽部だったっけ。

 吹奏楽部ならあたしにも入れそうだなぁ─。


 いつか少し病状が残ってても退院できたら吹奏楽部に入りたいな。

 


「─誰?」



 ずっと黙って隣のベットで本を読んでいた仁が急に話に入ってきた。

 何だよ、さっきまで黙って本読んでたくせに。

 しかも本を読みながら話しかけてきてるし。

 しょうがなくあたしは答えることにした。



「沙希。泉沙希。ここの院長の孫」


「ふーん。よろしく、泉。俺は津島」


「あっそ。津島さん」


 

 沙希は少し不機嫌そうに答えた。

 本の方に目を落としながら話してるからかな。

 しかも話に入ってきたんだし。



「ねぇ、何あいつ」



 沙希は小声で話してきた。

 あたしもつられて小声で答える。



「何って?」


「どういう奴?」


「なんか少し重いぜんそくで今日から入院するんだって。この病室で」


「げっ、この病室で?」


「そう」



 沙希はものすごく顔をしかめた。

 別にあんたの病室じゃないんだから…。

 


「もうあたしこの病室に毎朝来ないかも…」


「そんなに嫌?あいつ」


「やだ」


 

 あれだけで印象が決まるわけ?

 わがままだなぁ、沙希は。

 どうにかならないのかこの性格。

 こんなあたしが言うのもなんだけど。


 とにかく、ただでさえつまらない入院生活の中での楽しみが減ってしまうなんてのはこっちだって嫌だ。

 一応あたしは沙希達が毎朝来てくれるのがとても楽しみなんだから。



「ねぇ、沙希ってさぁ陸上部なんでしょ。長距離?短距離?」


「長距離。まぁ短距離も早いけどね」


「ふーん。何秒?」



 あぁ、あたしはばかだなぁ。

 こんなの聞いたってあたしに早いかどうかなんて分からないのに。

 

 でも、沙希とできれば長く話していたい。

 だから聞いても分からない事でもあたしはなんでも聞いてしまう。



「100mは、14.67」


「それってすごい?」


「うん、すごい」


「何自分で言ってんの」



 ほんと、何自分で自分の事すごいって言ってんだか。

 確か沙瑛が前にほとんどの人が100mは17秒ナントカって言ってたな。

 じゃあやっぱり沙希の記録は早いのだろうか。

 また今度沙瑛に聞いてみよう。


 そういえば今日は沙希は部活が無くて早く帰ってきたんだよね。

 だったら学校の友達と遊んだりすればいいのに。

 何であたしなんかと話したりしてんだろ。



「沙希って友達と遊んだりしないの?」



 あたしが聞くと沙希はもう、と言った。



「凛って、急に話し変えるよね。ま、それが凛らしいっちゃあ凛らしいんだけど」


「そんなのどうでもいいでしょ。で、あたしの質問に答えてよ」



 沙希はう〜んと考えている。

 そんな考えるほどの質問をしたのかな。あたしは。



「凛と話してる方がおもしろいから」



 沙希はそう言ってニッと笑った。

 ほんとにそうなのかな。

 でも沙希がそう言うんだからそうかな。

 

 なんか沙希の笑顔を見てるとこっちまで楽しくなる。

 だから沙希とはずっと話してたいと思うのかな。

 きっとそうだ。

 あたしは何度もこの笑顔に助けられたのだから。



「ありがとね」


 

 なんとなくあたしは沙希に向かってそう口にしていた。

 沙希は、はい?と不思議そうな顔をしている。

 


「何?急に」


「なんでもない」


「何?何?」


「なんでもないってば」


「何ぃ〜!」


「なんでもないっ!」


 

 もう、しつこいなぁ。

 しょうがないか、それがこいつなんだから。

 一応いい奴なんだしね。


 そしてあたし達は沙瑛が帰ってくるまでずっと喋っていた。



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