*2* Start of small love‐凛 side‐
検査は結構早く終わった。
今日はとても好調だ。
体温も平熱だったし、血圧も好調。
いつもひっかかる心拍数も大丈夫だった。
他の検査も全て好調だった。
検査が終わり、病室に戻るとなんだか騒がしい。
なんか人が沢山居る。
病室に入ると急にこっちに視線が集まる。
─なんだろ?
「あなたが仁と同い年っていう大館凛ちゃん?」
なんかおばさんっぽい人が話しかけてきた。
てか仁って誰?
あっもしかして、その仁っていう子が新しく来るって言ってた子かな。
そいでこのおばさんが仁っていう人のお母さんか。
仁っていう名前なんだから男子かな。
やったね。
「はい。そうですけど、なんでしょうか?」
あたしはわざと分からないふりをした。
だっていろんな事隅から隅まで聞きたいし。
「あのね、この子─仁が今日からこの病室で入院する事になったの。だからよろしくね」
そう言って隣に座っていた男子─おそらく仁だろう─に頭を下げさせた。
仁はやめろよっと言ってそのお母さんの手を振り払った。
お母さんは全く…と呆れ顔で言った。
まぁ仁はそんなに格好良くもないし、格好良くないわけでもないな。
でもあたしのタイプではない。
これだけは断言できる。
「よろしくお願いします」
あたしはそう言って頭を下げてから自分のベットに戻った。
作曲しようと思ったけどこの人達がいるからできないな。
周りにいる男子達は仁の友達だろうか?
格好良い人いないかなぁ…。
まぁいっか。タイトル決めでもしよう。
なんかあの歌詞からは夢と思い出しか出てこないからなぁ。
やっぱり英語のタイトルにしよう。
沙希にいちいち英語の意味を教えるのは面倒くさいけど。
『Dream & memories』
これがいいな。
決まりッ!このタイトルにしよう。
あとは曲をつけて…。
でもここではできないから嫌だけど病棟と病棟の間にある休憩所で曲をつけよう。
あそこにも人はいるけど知っている人ばかりだからまだマシかな。
そう思いながらあたしはキーボードと歌詞を書いたノートを持って病室を出た。
後ろではまだ男子達が騒がしく、喋っていた。
*
「あら、凛ちゃんじゃない。今日も作曲するの?」
休憩所につくと、七草さんというおばあさんに話しかけられた。
「はい。ちょっと病室に人が来てるので」
「そう。凛ちゃんの歌って今っぽいけど綺麗だから好きなのよ。できたらすぐにここで歌ってね」
「ありがとうございます」
七草さんも良い人だ。
ほわほわとした雰囲気の人であたしが生まれる前からこの病院に入院している。
他にもいろんな人に話しかけられる。
そして同じような台詞を言う。
5歳の女の子、綾香ちゃんにも話しかけられた。
「凛お姉ちゃんだぁー!ねぇ、今日は歌わないのぉ?」
「今日は歌を作るから、できたら歌ってあげるね」
「ほんと?やったぁっ!」
可愛いな。
こんな子まで病気で入院しなきゃいけないのか。
世界で病気なんてもの無くなってしまえばいいのに。
そうすればあたしだって学校に行けるのに。
まぁ入院しなかったら沙希や沙瑛、そしていろんな人と仲良くなれなかったわけだけど。
でも、せめてもう少し軽い病気だったら…。
あぁもうやめやめっ!
こんなずっとマイナス思考だと曲なんて作れないじゃん。
いろんな人と言葉を交わしながら、空いている席に座った。
えっと…これは少し大人しめの曲って感じかなぁ?
あぁ、でもなんか違うかも。
もう少し明るめの方が…。
そんな事を考えながら作曲していたらいつのまにかあたしの周りには沢山の人が集まっていた。
そしてかなり時間が経った後、曲が出来上がった。
曲が出来上がると、すぐにあたしはキーボードを弾き始め、そして歌い始めた。
「〜♪〜♪〜♪〜歩きながら〜♪僕は空を仰いだ〜♪〜」
全部歌い終えると拍手が沸き起こった。
この感じがとても気持ちが良い。
だからもっと沢山の人に聞いてもらいたい。
外で自由に歌いたい。
なんていうのは贅沢かな。
「凛ちゃん、この歌すごくいいわね」
「うん。なんか勇気をもらえるよ」
と、いろんな人が次々と声をかけてくれる。
やっぱり楽しいな。
それからもう1回歌うと、あたしは昼食の時間になったので一旦病室に戻った。
出て行くまでとても騒がしかった病室がいまではしーんとしている。
自分のベットの隣を見ると、仁がいた。
「こんにちはぁ〜」
呑気に話しかけてみる。
あっちはチラッとこっちを見た。
「こんちは」
そう言うとすぐに彼は運ばれてきた昼食を食べ始めた。
なんかつれない奴だな。
初対面だからしょうがないか。
あたしもベットに入り、昼食を食べ始める。
隣では仁が黙々と昼食を食べている。
「ねぇ、あんたってさぁなんの病気なの?」
「ちょっとしたぜんそく。あんたは?」
仁はこっちをチラッとも見ずに話す。
あたしの病気は…。
言いたくないな。
「あたしもぜんそく」
あたしがそう言うと仁はそそくさに言った。
「嘘だろ。あんた、俺よりも重い病気だって聞いたし」
誰だよ、こいつに言ったの。
多分こいつの担当医だと思うけど。
てかだったらこいつも多分嘘吐いてるよな。
だってあたしよりも軽い病気だけど厄介な病気だって言ってたし。
ぜんそくなんて厄介でもなんでもないじゃん。
しかもちょっとした、って言ってるし。
「あんたも嘘でしょ?だってあたしだってあんたは厄介な病気だって聞いた」
仁はびっくりしたような顔をして、やっとまともにこっちに顔を向けた。
あ、結構仁ってかっこいいかも。
いや、違う。
今はそんな事を考えている時ではない。
「一応ぜんそくだよ。でも、結構重いぜんそく。ほら、俺は言ったよ。おまえも言えよ」
おまえだと?
ムカつく。
「何おまえって呼んでんの?」
「あんただって、俺の事あんたっつってただろ」
「それとこれとは違う」
「違わねぇ」
「違う」
仁の第一印象、ムカつくうざい奴。
「心臓と肺の動きが鈍い。生まれつきだったけど小さい頃に急に病状が出るようになった」
言い合いの末、あたしが言うと仁は黙った。
そして重い沈黙が続く。
先に口を開いたのは仁だった。
「ごめん」
「何謝ってんの?」
「だって─」
「あたし、同情とかそういうの嫌いだから」
あたしは言い切った。
てか仁はさっきのムカつくうざいキャラの方がまだいいかも。
「おまえとかあんたが嫌なら君の事なんて呼べばいいわけ?」
「凛でも大館でも好きにどうぞ」
「じゃあ、凛」
うわ、男子に名前で呼ばれるなんて初めてだ。
なんかくすぐったい感じかする。
「そ。じゃあ仁、あんたちょっと下に言ってジュース買ってきて」
そうあたしが言うと、仁はあらかさまに嫌な顔をした。
「なんでだよ。お茶があるだろ」
「お茶って嫌いなの。ジュースがいい」
「我慢しろよ」
「さっさと買って来い」
あたしはベットから出て仁の所まで行き、120円を渡した。
そしてあたしは思いっきり上から目線で言った。
「下の自販機に、百パーセントのりんごジュースがあるから。缶のやつね。それ買ってきてよ」
それからベットに戻り、昼食を食べる。
隣を見ると仁は120円とあたしを交互に見ている。
あたしはさっさと言って来い、と言って病室から追い出した。
出て行く時、仁は何か言ったようだったが聞こえなかった。
そしてあたしは黙々と昼食を食べる事にした。