*1* Person around me‐凛 side‐
伝えたくても 伝えられない
この感情は溢れ出したら
止まらない だからあたしは
いつもあなたを想うんだ
そしてあたしは口ずさむ
小さな小さな恋の唄を─
春
もう春なのにまだ肌寒い感じの空気が流れている。
まぁ朝だからという事もあるかもしれないな。
そんな事を考えながらあたしは白く、狭い病室にあるベットの上で寝返りをうった。
今日はそんなに身体はだるくないみたいだな。
いつもは朝、目が覚めると身体がだるくてしょうがないのに。
─ん〜、目が覚めてしまったようだ。
もっと寝てたかったのに。
まぁすっきり目が覚めたから良いって言えばいいけど。
ヒマだから自己紹介でもしよう。
あたしの名前は大館凛。
歳は13歳の中学2年生─のはず。
学校行って無いからよくわかんないけど。
趣味は作曲、歌を歌う事だ。
好きなアーティストは沢山いるけどその中でもYUIが一番好きかな。
それにピアノを弾くのも好きだ。
作曲するにはピアノが必要だ。
でも病院にはピアノがないからお母さんが買ってくれたキーボードで作曲をしている。
早く退院したいなぁ。
そして外で思いっきり歌いたい。
病院で歌ったりもしてるけどやっぱり外で歌いたい。
「〜♪あたしはこんなにちっぽけなの あたしはこんなに泣き虫なの〜♪」
今もこうやって口ずさんだりしている。
少し歌っていると急にあたしのベットを覆っていたカーテンが開いた。
「なぁに歌ってんの?」
びっくりしながら声のする方を向くと沙希が立っていた。
沙希はここの病院の院長の孫だ。
そしてあたしと同い年。
だから毎日こうして沙希が学校に行く前に来てくれたりする。
「前も歌ってたじゃん。もう忘れたの?」
こっちは沙瑛。
沙希の双子の妹だ。
「歌ってたっけ?」
「うん。歌ってた」
あたしは答えた。
ほんとに沙希は忘れん坊だ。
「なんて歌だったっけ?」
「If you are」
そう言うと沙希は首を傾げた。
多分この英語の意味が分からないんだろうな。
「あなたがいれば」
「あなたがいれば?」
「うん」
まだ沙希は首を傾げている。
たく、なんで理解できないんだこいつは。
ほんとに同い年か?
「凛ちゃん凛ちゃん。沙希ねぇ、前に返された英語の小テスト20問中3問しかできなかったんだよ」
「ちょッ─それは言うなっていったじゃん」
へへへっと沙瑛は笑った。
忘れん坊で気勝りな沙希とは違って沙瑛はとてもしっかりしていておだやか。
とても双子とは思えない。
普通姉妹なら喧嘩ぐらいするだろうがこの2人はあまり喧嘩をした事が無い。
というか喧嘩したところを見た事がない。
多分それは沙瑛のこのおだやかな性格のおかげだろう。
あたしには2つ歳が離れたお姉ちゃんと弟がいるけどいつも病院に来ると喧嘩ばっかりだ。
特に弟とは。
「ねぇねぇそれとね、今日新しく入院する子が来るんだよ。そいでその子は同い年で─」
「はいッ!この話はそこまで。その先は後でのお楽しみね。ほら、学校行かなきゃ」
そしてばいばーいと言いながら2人は病室を出て行った。
羨ましいなぁ。
あたしも学校行きたいな。
沙希は勉強以外なら学校は楽しいって言ってるし。
「あたしも2人と一緒に学校行きたいなぁ─」
ちょっと呟いてみる。
あたしは横目で空いている隣のベットを見た。
もしかしてその新しい子ってこの病室に来るのかな?
その子は女子かな?
もしかして男子?
女子だと少し困る。
使えないし。
使えて騙されやすい男子だといいな。
そんな事を考えていると病室の扉が開いた。
「おっ、凛もう起きてたのか」
担当医の浅木だった。
浅木は結構優しい。
でも騙されにくいからなかなか厄介な奴だ。
「今日は新しい子が来るんだよ。しかもこの病室に」
浅木はとても嬉しそうな顔で言った。
あたしもつられて笑った。
「はい。さっき沙瑛達が言ってました」
あいつら…言うなって言ったのに…と浅木は少し怪訝そうな顔になった。
なんとなくそれが可笑しくて笑ってしまう。
「そいつはおまえよりも病状は軽いが結構厄介な病気を持っている奴だ。仲良くしてやれよ」
「分かってます」
分かってませんよ、ほんとは。
だって使う気満々だし。
女子でもまぁ騙されやすい奴なら使う。
男子だったら絶対に使う。
自分で言うのもなんだが結構顔は可愛いほうだと思う。
ずっと病院育ちだから肌の色は真っ白。
だからちょっと日焼けしてる子が羨ましく思う時もあるけど。
髪はセミロング。
短くも無いし、長くも無いってとこかな。
「午前のうちにこっちに来るってさ。楽しみだな」
「はい」
ある意味でね。
浅木はまた後で検査の時にな、と言って病室を出て行った。
前の方のベットを見るとまだカーテンは閉まっていた。
まだ寝てるんだろうな。
前のベットの人は女性で結構若い。
名前は笹倉ナントカ。
名前は覚えてない。
そんな重い病気ではないらしい。
斜め前のベットの人は男性でお年寄りだ。
あまり喋らない無口な人。
名前は分からない。
家族や親戚が来たとこを見た事がない。
この人は少し重い病気で大変らしい。
全ては浅木の情報だ。
あたしはヒマになったから作曲はまだ寝ている人がいるからできないけど作詞でもして時間をつぶす事にした。
─歩きながら僕は 空を仰いだ
空は雲ひとつ無い 快晴
とても気分がいい とても気持ちがいい
歩きながら考えた 僕は大丈夫かな
まだ大丈夫かな まだ僕は行けるのかな
こんな僕でも この道の先を歩いていけるのかな
先が見えないほど 長い長い道
その先にあるモノは何?
きっとそれはとても 素敵な綺麗なモノ
きっとそれはとても 儚く切ないモノ
でもやっぱりそれは 暖かいモノだろう─
なんか意味が分からない歌詞になってしまった気がする。
でもなんとなくいいかもな。後でこれに曲をつけよう。
結構時間がつぶれたな。
でもやっぱり入院生活はヒマだ。
ヒマすぎる。
前のベットのカーテンが開いた。
「あっ凛ちゃん、おはよ」
「おはよう笹倉さん」
結構笹倉さんとは仲が良い。
たまに作曲したばかりの歌を聴いてもらう時もある。
「また新しい歌、作るの?」
「うん。まだタイトルは決めて無いんだけど」
「できたら聞かせてね。凛ちゃんの曲、大好きだから」
「ありがとう」
こういうこと言ってくれる人は沢山いるが、笹倉さんに言われると結構嬉しい。
ホントに心から言ってくれてるみたいで嬉しいのだ。
あたしはこの曲のタイトルを決める事にした。
まだ検査の時間まで結構あると思うし。
あたしはこの曲で何を中心に書いてんだろうなぁ─。
自分でも分かんないや。
やっぱりこの曲は自分でも理解できてないな。
長い長い道の先にあるモノってほんとはなんなんだろうな。
ん〜、これはもしかしたら夢の事でも自分は書いてんだろうか。
なんかそんな気がしてきた。
それに思い出も─かな。
絶対に夢という字と思い出という字は入れよう。
あとは─
「凛ちゃーん!検査の時間だよ」
「はーい」
あたしは急いでノートを閉じて、引き出しに閉まった。
もう検査の時間になったみたいだ。
あぁ早く新しい子来ないかなぁ─。
なんかとても楽しみだ。