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ホムンクルス作成時における異物混入の危険性について  作者: 煙四十五
第一章:捗らない出発準備
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ヒステリックのサイキック

 燃え盛る家を前に俺は情けなく声を上げた。


「アイリィィイイイイイ!!!」


 だが間抜けなことにリアとキャリーはゲンブくんの数メートル横で突っ立っていた。だがそんな体裁を気にすることもなく俺は急いでリアに駆け寄った。


「だ、大丈夫か!? 怪我はないか!?」


 思わず心配で力を込めて肩を揺さぶってしまう。


「平気です! い、痛いです!」


 我に返って俺はリアから手を離した。見ると怪我した様子はなく、俺の大事なアイリの体に傷はなさそうで一安心してほっと一息つく。


「そ、そうだ! ハリーさん! ハリーさんは!?」


「ここだ、安心しろ」


 見るとリアの横に植木鉢がちょこんと置かれている。全身から力が抜けていくような感覚に襲われる。とにかく全員無事のようでよかった。


「一体何があったんだ?」


 そう言うと気まずそうな顔をするリアはふと横に立つキャリーを見た。俺もつられて彼女の方を見ると驚きで声が出た。なんせ顔を含む上半身が真っ赤に染まっているのだから。


「キャリー! どうした!? どこを怪我した!?」


「いえ… これは血じゃないんです…」


「は?」


 近づいてみると確かに薬品臭い。この特徴ある匂いは廃棄予定だった消毒液だ。確か店の裏手に置いておいたはずだが。


「どういうことだ?」


「それは… その…」


 大体察する。恐らくはこの精霊女が何かやったのだろう。だがやらかすにしても限度があるだろう。


「申し訳ありません!」


 リアがはっきり大きな声で告白する。やっぱりか。


「あの… 彼女だけじゃないんです… 私からもごめんなさい…」


 横からキャリーも謝罪の言葉を述べる。


「…訳が分からん。説明してもらおうか。徹頭徹尾嘘偽り無く正直に誠実に公明正大に!」


 そうしてリアはポツリポツリと語り出した。店が燃え上がるまでの間抜けな顛末の一部始終を。


――


 『あのですね、その~、テツジンさんが出かけられた後、キャリーさんとおしゃべりしてたんです。ほ、ホントですよ! とっても親切でしたよ!


 で、ですね、キャリーさんの超能力っていうのがとっても興味深かったので色々お聞きしていたんです! すごいんですよ~、だって手も触れずにひょいって何でも持ち上げちゃうんですから!


 …あ、知ってらっしゃいますか、そうですよね。あ、そ、それで、どれくらいの物まで持てるのかな~って思って私が色々持って来てそれを持ち上げてみるっていう実験をしてたんです。それで始めは店の中の物を色々持ち上げてもらってたんですが、中にはあんまり重そうなものはなくて… で、外出てみたら色々見つけちゃいまして… 始めは岩とかだったんですが、店の裏手に何かが入ったツボがあったんで頑張って持ってきたんです! すっごい重かったけどなんとか引きずって来たんですよ! 私、結構力ありますよ!


 …あ、どうでもいいですか、はい。それで… そのツボも持ち上げてもらったんですが… 相当重かったですからね、流石のキャリーさんでもちょっとしか持ち上がらなかったんです… それでですね… と、突然ですよ? 突然足に何か引っかかったんですよ! 私もうびっくりしちゃって! それで… ツボに向かって倒れちゃったんです… そしたらツボを倒しちゃって… キャリーさんに中身が… 


 …え、いや、本当なんです! 本当に引っかかったんですよ! ドア開けてたから動物でも入っちゃったのかな~… ふ、不幸な事故でした… 本、当…です…


 …え、ああ、そ、それでですね… キャリーさんの顔が真っ赤になっちゃって… そうしたらキャリーさんが突然すごい叫び声を上げて… こ、混乱しちゃったんですね、そ、そのせいです、きっと! あの… 家が揺れ出して… 周りの瓶とかガラスとかが、すごい音を立てて割れ始めて… 棚とかもすごい勢いで動き出して… 私もびっくりしちゃって… 気づいたらハリーさんを抱えてここにいました… はい… それだけです…』



――


 何とも信じがたいほどにアホ臭い話だ。だがこいつの話によると直接手を下したのはキャリーということになるな。


「どういうことだ? キャリー?」


「すいません… 私、血が大嫌いで… 昔ちょっとしたトラウマがあって… ちょっとなら大丈夫なんですけど大量に見ると我を忘れてしまうんです…」


 彼女の超能力が暴走して周りの物を破壊しまくって、明かりのロウソクの火が薬品に引火したということか。引火性の高いものも結構あったからな、よく燃えただろう。


 その結果がこれか。家は未だにごうごうと音を立てて燃え続けている。もはや消火することはできないだろうし、中には無事な物も存在していないだろう。結構気に入ってたんだがな、この店…


 店に向かって呆然と立ち尽くす俺に、キャリーとリアが近寄って来て、再び謝罪してきた。俺はあまりに突然の出来事と、間抜けな事故の顛末と、それにもかかわらず全員が無事だったことの安心感から、既に怒る気にもなれなかった。かと言って彼女たちを無罪放免にするという気もない。


「キャリー… 君とは長い付き合いだが今回の件はとてもそれで許せるようなものじゃない…」


「はい、わかっています。店の再建の費用は何としても払います… 加えて今後はどんな仕事でも請負います」


 根は真面目な彼女はしっかりと反省しているようだ。


「店はまあ、いい。とりあえず罰として君も旅に加わること。そして何としてもハリーさんを守り抜くこと。それで今回の件は不問としよう」


 軽いように見えて彼女にとっては相当な罰になるだろう。引きこもりの彼女にとって旅なんて苦痛でしかないだろうしな。アヌビスくんもいるし。


「わかりました…」


 項垂れるように了承する。まあ、再建費稼ぐとしても外には出なきゃならんしな。


「それとリア」


「は、はい」


 どんな罰が与えられるか恐怖でしかないようだ。だがこいつに何かできるようなことはないし、傷がつくような危険なこともさせられない。


「お前のドジは深刻だ。歩くだけの事ができんようじゃ森までたどり着くことはできんし、そのうちどっかの街が滅ぶ。だから」


「はい…」


「今度からドジする毎にちょっとしたお仕置きを与える」


「ど、どんなですか?」


「尻を触る」


「ええっ!」


 予想外の返答に戸惑いを隠せないようだ。


「いいか、拒否も抵抗も許さんぞ? これを拒否したらもう俺は絶対にお前の森になど行かん! その体がどうなろうと知ったことか!」


「でも… それはちょっと… 何か違うというか…」


 家を燃やした以上あまり強く出れないようだ。


「あーあ、森の精霊さんとやらは冷たいもんだなー! 人の家燃やしておいて何も悪いと思ってないんだもんなー!」


 ここぞとばかりに煽りに煽る。


「せっかく森を救ってやろうってんのにたかが尻を惜しむとはねえ… しかもタダで触ろうってんじゃなくてドジさえしなきゃ何もしないってのになー」


「わ、わかりましたよ! 好きにしてください! でも、ドジしなきゃいいんですよね! 見ててくださいよ! もう!」


 妙に負けん気の強いこいつは、随分ちょろいとわかった。これで尻触り放題という訳だ。それでも決して店の代償としては釣り合うかわけはないが、こいつに対してあまり強く出過ぎれないというのが俺の本音でもある。

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