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ホムンクルス作成時における異物混入の危険性について  作者: 煙四十五
第一章:捗らない出発準備
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純真無垢の外道女神

「さあて、一度街まで行くか」


 悪夢の異物混入から一日経ち、準備のために一旦街に行く必要があった。


「お前もついて来い。旅するからには少し人里に慣れておいた方がいいだろう」


「は、はい」


 リアは緊張した面持ちだ。どこかしら俗世離れしたような雰囲気があるこいつは、故郷の森から離れたことがないと自分でも言っていた。あまり突拍子もないことをされては困るから徐々に慣れていってもらわなければならない。


「何か買われるのですか?」


「それもあるが、何よりハリーさんをキャリーの元に預けに行かねばならん」


 長旅になることが予想されるため、いくらサボテンと言えども世話が必要だ。鉢植えを持ち歩く訳にはいかないしな。ハリーさんに何かあったら大変だ。


「と言うわけでハリーさん、しばらく店の方で留守を頼む」


「ああ、久々にお前と離れられて清々するな」


「相変わらず口が悪いな」


 憎まれ口だと言うことは長年も付き合いでよく分かってる。何だかんだ口うるさい彼だが、俺のことを考えてくれてるのは知っている。聞く気はあまりないけどな。


「さて、それじゃあアヌビスくんは留守番を頼む」


「大丈夫ですか? 警護は必要じゃありませんか?」


 不安そうに尻尾が垂れ下がっている。心配でもあるのだが何より散歩好きな彼は一緒に行きたいと思っているのだろう。だがキャリーが犬嫌いのためあまり連れて行きたくないのだ。


「大丈夫だ。すぐ帰って来るよ。帰ったら二人で散歩に行こう」


 アヌビスくんの尻尾がバタバタ暴れ出す。


「はい!お気をつけて!」


 見送られながら俺とリアとハリーさんの三人で家を出た。するとそこには来るのが分かっていたかのように一人の女がドアのすぐ側で待ち構えていた。


「こんにちわー、お久しぶりですねー!」


「出やがったな、この腐れ外道!」


 思わず声を張り上げる。リアが驚いて少し飛び跳ねた。そんなにビックリさせるつもりはなかったのだが、申し訳ないがそれだけ俺はこの女に対して嫌悪感を抱いていた。


「やや、相変わらず手厳しい反応ですねー」


 普通客に対してこんな態度をとればハリーさんが黙っちゃいないが、事情を知っているだけに何も言わないようだ。


「当たり前だ。まだあの痛みを忘れたわけじゃないからな」


 女はなだめようとする気配もなく不気味な笑顔でニコニコし続けている。相変わらず捉えどころのない奴だ。


「あの… この方は…?」


 俺の剣幕に気圧されつつも覗き込むようにしてリアが聞いてくる。


「聞いて驚くな? この方はこの世界の平穏と秩序を司る女神様だ」


「ええっ! そんな立派な方なんですか!?」


 普通ならそんなことを言われても簡単には信じないだろうに、こいつは純真すぎて危ういな。実際飄々としているこの女がそんな立派な存在だとは毛ほども思わないだろうが、嘘は言っていない。悲しいことに事実なのだ。


「いやー、そんなに大層なことはしてないですよ? ただなんとなーく管理してるだけですよー」


「そんな方が何故ここに?」


「鉄人、いえ、テツジン様に御用がありましてねー」


 俺の本名を呼ぶのもこの世界ではこの女だけだ。


「俺はない。さっさと帰ってくれ」


「そ、そんなに邪険にすることもないんじゃないですか…? ましてや女神様ですよ?」


「お前が考えているような女神じゃない。こいつこそが俺をこの世界に引きずり込んだ張本人なんだからな」


「え、この世界って…?」


 そう言えばこいつには説明したことなかったな。


「ああ、俺は元々別の世界で生きていた。だがある日な…」


 思い出すだけで寒気がする。


「そうなんですよー、この世界が危機に瀕してまして。それでテツジン様にこちらに来てもらったんですよー」


「ということはテツジンさんは女神様に選ばれた勇者様ということなんですか?」


 腑に落ちていない様子だ。そうだろうな、勇者様なら故郷の森でも二つ返事で救ってくれることだろうしな。


「そういうわけでも… その世界の人なら誰でもよかったんですよねー」


 完全に人選ミスであることは俺も認めよう。女神の適当さにリアも唖然とした様子だ。


「だ、誰でも?」


「はい。テツジン様の住んでいた世界とこの世界では大きく異なることがありまして。驚かれるかもしれませんが向こうの世界には魔法といった類の力が全く存在しないんです」


「そ、そうなんですか?」


「ああ」


 こっちの世界の住人は息をするようにお手軽に魔法を使いやがる。勿論個人の力量によって威力や規模、種類は異なってくるが、俺の世界からすればどれも常識外れな現象に違いない。


「それは向こうの世界全体を包むエネルギーの総量が極端に低いからで、逆にこっちの世界はそのエネルギーが潤沢なんですよ。ですが生物に関しては逆で、こちらの世界の住人は残念ながらそのエネルギーを受け取るための器が小さめでして、引き換え向こうの世界の住人は何故か極端なほどに器が大きいんです。だから向こうの人をこちらに連れてきてその器を満たすことでこの世界の住人を遥かに凌駕する魔力を持つことができるんです。だから正直誰でもよかったんですよー」


 ケラケラと笑った。あまりの無邪気さに腹が立つがこの外道はいつもこんな感じなのでキリがない。


「重要なのはそこじゃない。こいつはこの世界に俺を送り込むために何をしたと思う? トラックで轢きやがったんだよ!」


 今でもしっかり覚えている。運転席に乗ったこの外道が笑顔で俺を轢く様を。


「トラック?」


「ああ、その、でかくて動く鉄の塊だ。俺の体重の十倍以上あるな」


「あれはトラックじゃなくて二十七式異世界転送装置と言いまして…」


「名前なんぞどうでもいいわ! 何だろうと俺を瀕死にしたのは間違いないだろうが!」


 不運にも意識があった俺は全身の骨が折れて血だまりに漬かる自分をはっきりと認識することができた。


「な、なんでそんなことする必要があったんですか…?」


 リアは完全にドン引きしている。


「いやー、さっきも言いましたけど向こうの世界だと魔力が足らなくって、起動させるためには運動エネルギーも必要になっちゃうんですよ。転移に際しては転送装置と接触してる必要があるのでぶつけちゃうのが一番手っ取り早いんですよねー」


 底知れぬ悪意の無さが恐ろしい。これでリアにもわかっただろう、俺が何故この女神に対してここまで嫌悪感を抱いているかが。


「それでテツジン様にはこっちの世界で暴れてた魔王を倒して欲しかったんですけど、見事断られちゃいまして… それどころか力を与えた途端に理想の嫁を作るーなんて言い出して引きこもっちゃいますし…」


「ああ、お前が俺に望みの力を与えてくれたのは感謝してるよ」


「錬金術師になりたいーなんて人珍しいですよー。てっきり後方支援希望なのかと思っちゃいましたー」


「何にしろ俺は魔王討伐なんて行かねーからな!」


「あ、それなんですよ、それそれ」


 何か思い出したように手を叩く。


「それを伝えようと思ってたんですよー。あの魔王、他の転移者様の手によって見事に討伐されましたー! おめでとうございますー! わーパチパチー」


 一人で祝って一人で拍手する女神。相も変わらずイラッとさせやがる。何より別の転移者ってことは他にも何人もこいつに轢かれた犠牲者がいるってことだ。よく素直に魔王なんて倒してくれたな、そいつ。


「そうかい、それじゃあ俺にもう用はないってことだな」


「そうですねーしばらくは。また変な魔王が出てきたらぜひお願いしたいんですけどねー」


「お断りだ。っていうか魔王っていう割にはこの辺じゃ全然騒がれてなかったぞ。大した奴じゃなかったんじゃないのか?」


「いいえー、現地じゃちょっとした話題でしたよ? 何やら卑猥な名前の魔王で、何やら卑猥なことばっかりしてたらしいです」


「なんでお前がうろ覚えなんだよ」


「まー、そこまで危機でもなかったんで… いつか退治されればいいかなーぐらいに思ってましたから」


 こいつが本当にこの世界の秩序を守ろうとしているのか甚だ疑問だ。


「それでは私は失礼しますね。テツジン様、お元気でー」


 そういうと煙の様に消えてしまった。できることならもう二度と会いたくないものだ。


「何か、すごい人でしたね… あ、女神様でしたっけ…」


「出かける前にあいつのせいで異様に疲れた… 行こう、ハリーさん」

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