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ホムンクルス作成時における異物混入の危険性について  作者: 煙四十五
第二章:前途多難のアレア滞在記
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意欲皆無の討伐依頼

 朝になって俺たちはさっさとアレアに向かうことにした。リアの足も悪化することなく、未だに傷は治ってはいないが確実に歩くペースは上がっていた。相変わらずこけそうになってキャリーに支えられるのは変わらない。


 そうして昼過ぎには村に到着することができた。村自体の規模は大きくないが、多くの人の通り道となるため宿屋は多く点在している。宿を探すのに難儀はしないだろう。だが流石に亀と狼とドラゴンを引き連れた一行は珍しいらしく、周りからは奇異の目で見られる。


「ケスタと違ってそんなに人はいないですけど、いいところですね。あ、見てください、馬ですよ! あっちには牛もいます!」


 こういったものに一々感動している様はまるで子供みたいだ。


「お前の森にも動物はいただろう。今更驚くことか?」


「やっぱり家畜ってや野生とはちょっと違うんですよ。心に余裕があるっていうんでしょうか。目が穏やかです」


 なるほど、そう言えば動物の気持ち程度ならわかるそうだったな。


「あいつらは何か訴えかけてこないのか?」


「ん~… アヌビスくんとベヒモスちゃんに怯えちゃってますね…」


 確かに野生の本能が薄れてしまっているとは言え、強力な肉食獣に対しては警戒心が働くか。


「気にするなよ?」


 俺は二人に言い聞かせる。だが二人ともそんなことは慣れっこのようで気にはしていないみたいだ。


「あちらで何か騒ぎがあるみたいですよ?」


 ゲンブくんが前方を顔で指した。言われてみると少しではあるが人だかりができている。喧嘩か捕り物でもあったのだろうか。


「何でしょう? 行ってみましょうよ!」


「何でもかんでも首を突っ込むものじゃない。面倒なことになったらどうすんだ。俺らは宿を見つけるのが先…」


 そう言い終わる前に既にアヌビスくんとベヒモスちゃんは人だかりに向かって走っていった。それを見たリアもひょこひょこした足取りで二人に続く。何故こういうときだけ転ばないのだろう。


「申し訳ありません、テツジン様。私があのようなことを言わなければ…」


「いや、君のせいじゃないさ」


 ベヒモスちゃんもアヌビスくんも精神年齢的にまだ幼いところがあるので少々はしゃぎすぎるのは目をつぶろう。しかしあの精霊女は少々躾が必要だ。


「とりあえず目を離してはおけないだろう。追いかけよう」


 愕然と肩を落とす俺にハリーさんが言った。確かに狼とドラゴンだけでも大騒ぎだろう。


 俺たちが追いかけるとアヌビスくんとベヒモスちゃんの姿に驚いた人々が逃げ出しているところだった。何人かは腰を抜かしてしまっているらしい。阿鼻叫喚とも言える状況だ。


「お騒がせしてすまない! これは俺の連れだ! 襲ったりはしないから安心してくれ!」


 できるだけ大きな声で叫んでみた。あまり目立つような行為はしなくなかったのだが、ここまで騒ぎになってしまったら仕方ない、何とか収めないと。俺は安全をアピールするために二人の頭を撫でてみせた。


 その様子に何とか落ち着きを見せてきた数人の村人たちが、興味津々にこちらに近づいてきた。


「連れ… あんたがこの二匹を使役してるってのかい?」


「まあ、使役というか、俺の友人なんだ。ケスタの方だと顔なじみだったんで大丈夫だったから、いつもの癖で人に接してしまったんだ。ほら、二人も謝って」


「ごめんなさい…」


「ごめんなさーい」


 素直に謝罪する二人。成りは怖いが根はいい子なのだ。


「しゃ、喋った!?」


 ああ、そこからだったな。それも含めてそこらの村人には説明しておくことにした。滞在は今夜だけの予定だがこのままだと安心して眠れない。


「へえ、そんなことができるんだな… まあ、あんたが見ててくれるなら安心のようだ」


 何とかこの場は収まりそうだったが、そこへ飛び込んで来たのは農具を武器に携えた数人の農夫たちだった。


「化け物が出たって!?」


 そう言って勇み足でやって来たが、すぐに二人の姿を見て驚いて腰を抜かした。そうして俺はまたそいつらに諸々を説明することになった。できるなら一度で済ませておきたいところだがな。


「な、なるほど。てっきり俺たちは昨日の奴らの仲間かと思っちまったよ」


「昨日?」


 思わず聞き返してしまった。このまま一件落着で済ませて平穏無事にこの村での滞在を終えるつもりが、面倒毎に巻き込まれる予感がした。


「ああ、昨日は村に流れの獣人の集団が来てな。村の蓄えをごっそり持っていきやがったのさ」


「へえ」


 確実にあの獣人たちだろう。だが俺としてはもう関わりたくない。適当に話を終わらせようとしたその時だった。


「あ、それって昨日撃退した獣人たちじゃないんですか?」


 精霊女が余計なことを口走りやがった。やっぱりこいつは面倒事を持ってくるのが得意らしい。


「どういうことだ!? あんたらあの獣人たちをやっつけたのか?」


「ああ… 野営してるところに襲い掛かって来やがったんでな。しかしそんな大荷物を持ってる様子はなかったが」


「何匹くらい倒したんだ?」


「はっきり覚えていないが10匹くらいだったか」


「この村を襲った連中はもっといたはずだ!」


 ということは荷物を持った連中は拠点に戻って、もう片方の集団はもう一仕事するつもりだったのかな。考え込む俺に農夫がにじり寄って来た。


「あんたら10匹近い獣人をぶっ倒したんだろ? ということは中々の腕前を持ってるな! お願いだ、残りの獣人を探し出して奪われた食糧を取り戻してくれないか!? 実はさっきまでここで獣人討伐の勇士を募ってたんだが誰も名乗り出てくれねえ。ちゃんと報酬は出す!」


 やはりそう来たか。そういうのを避けたかったのだが。


「テツジンさん! 引き受けましょうよ! またやって来るかも知れませんよ!」


 目をキラキラさせながら何を言ってやがる。


「お前昨日は獣人殺すことに躊躇してたくせに。それに時間がないんじゃないのか?」


 そう言うと少し困ったような様子は見せつつも、こちらを真っ直ぐに見据える。強い意志が込められた瞳はこいつの強情さを示すかのようだ。


「それでも困っている人がいるのは見てられません! それに人の物を奪って生活するのはダメだと思います! 森の生き物でも助け合って生きてるんです!」


 頭の中でお花畑が咲き誇っている。


「あのなあ… どこにあるかもわからない獣人の拠点を探すことから始まるんだぞ? 一体どれくらいかかるか…」


「アヌビスくんの鼻なら探せる筈ですよ! それにベヒモスちゃんが空から探せます!」


 変に知恵を付けやがって。


「そうですよー、やりましょうよー!」


「僕も頑張りますよ!」


 何というか随分乗り気のようだ。この二人は冒険とか好きだしな。


「いいじゃないか、テツジン。誰かの助けになるってのはいいことだぞ」


 ハリーさんまで。


「テツジン様、こうなっては引き受けた方がよろしいかと。それに何があるかわかりません、出来る時に路銀は調達しておいた方がよろしいかと」


 ゲンブくんは説得がうまいな。確かにその通りだ。俺は彼の言葉に従うことにした。


「分かったよ、引き受けるよ」


そう言うと村人たちは沸き立った。


「とりあえず宿が欲しいんだが」


「ああ、村で一番のところを用意しよう」


そりゃあ、結構なことで。たかが知れてるだろうがな。

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