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プロデューサーを命じられました

「は?へ?あれ?…あ、なんかすいません!」


とりあえず謝ってしまうのは、目の前の男があまりにも覇気に満ちていたからかもしれない。


「あの、俺は高橋大和です…株式会社アリアソリューションの執行役員を務めて…おりました」


いつものクセで、会社名と役職を名乗ってしまったのに、我ながらおかしくなってしまう。

もう死んだはずなのにな、俺。

うっかり微笑が漏れたのを、皇帝…らしき人物は見逃さない。


「何がおかしいか?」


氷のように鋭い眼光にさらされ、思わず縮み上がる。


「いえ、あの…俺はもう死んだと思ってたので。死んだのに、会社の呪縛からまだ逃れられないんだなって思いまして」


こちらの事情など知らない皇帝に、俺の説明など意味不明だったかもしれない。

が、皇帝は鷹揚に頷いた。


「シッコウヤクイン…というのは、将軍かなにかのようなものか?」


「ま、まぁ…そんなところでしょうか。一応、部下を取りまとめて動かしたりしてましたし」


「ふむ…」


皇帝が目を細めて何かを考え込む。


「やはり、この書物に記された召喚方法は真実だったのだな…」


「え…」


「ヤマトとやら、そなたの魂は我が召喚に応じ、恐らくは異なる世界から呼び出されたのであろう」


「あ、そうなんですか…」


頭がぼんやりしてうまく追いつかないが、どうやら俺は死にはしたものの、魂だけ別の世界に来てしまったようだ。

それがいいことなのか悪いことなのか、今はまだ判断がつかない。


「ふむ…ヤマトよ、ゆえにそなたの魂とその身体は余のもの。心してこの余、アークダインに仕えるがよい」


「は、ははぁ…」


アークダインの言葉には人を酔わせる麻薬のような作用があるのではないか、と今となっては思う。

甚大な魔力を保持する魔皇帝なのだから、人を幻惑させることなど造作もないはずだ。

だがその時の俺は、何か失った大切なものを見つけたような、そんな感動に胸が一杯になっていた。

前世で成し得なかったことを、この男の元でなら追い求められるかもしれない。

なぜかそんな想いに突き上げられ、俺は跪いて魔皇帝アークダインに臣従を誓っていたのだった。


「ではヤマトよ…そなたに備わったスキルを確認してみよう」


アークダインが手をかざすと、ふわり、と中空に文字が浮かび上がった。

日本語…ではもちろんないし、英語でもない。

これまで見たことがないような言語だが、自然と理解できていた。


名前:タカハシ・ヤマト

性別:男

種族:不死者

Lv:1

HP:120

MP:25

筋力:12

敏捷:7

知力:98

運:10


種族スキル

不死 Lv10/10


ユニークスキル

プロデュース Lv10/10

マネージメント Lv10/10

スカウト Lv10/10

多言語理解 Lv10/10

演出 Lv5/10

作詞 Lv3/10

作曲 Lv5/10


「ほう…これは面白い」


アークダインが微笑んだ。


「あの…これ、俺ですよね?」


「いかにも。ヤマトよ、お前は大抵のことではもはや死なぬぞ」


「…不死者ってそういうことですか」


「死なぬ…というよりは、生きてもおらぬがな。生命の精緻な模倣とでも言うべきだろう」


ちょっと難しいことはわかんないけど、とりあえず死なないって能力は安心だな。

それにしてもこの「マネージメント」と「プロデュース」ってスキル…それにスカウトだの演出だの作詞だの…


「まるでプロデューサーじゃないか…」


思わず唸る俺に向かって、再びアークダインが口を開いた。


「これぞ天佑よ。余は『あいどる』を作ろうと考えておるのだ」


「あいどる…?って、あの、歌って踊る、アイドルですか?」


「そうだ…帝国には古より伝わる『真出霊蘭雅流図』という書物があってな」


「な、なんか聞いたことあるような…?」


「七百六十五枚にもわたるその書物には、『あいどる』という女たちが人々の絶大な支持を受け、一時代を築いたと記されている」


「た、たしかにアイドルってすごい人気ですけど…」


「そうか、お主の世界にも『あいどる』がいたのだな」


「はぁ…まぁ俺も好きでした」


「翻って我が帝国も磐石といえど、長きにわたる他の国々との戦争で疲弊していることは否めぬ…ゆえに、帝国専属の『あいどる』を結成し、我が愛しき臣民たちを慰撫してもらおうと考えたのだ」


「な、なるほど…で、俺が召喚されたわけですか」


「そうだ…余は『あいどる』を『ぷろでゅーす』できる存在を願ったのだ」


…たしかに、俺、死ぬときに「アイドルをプロデュースしたい」って思ったっけな。

アークダインの願いと俺の希望が時空を超えて召喚術によって結び付けられ、俺の魂が呼ばれた。

つまりはそういうことだろう。


「そして見よ、そなたのスキルを。まさしく『ぷろでゅーす』ではないか!」


美しい顔を上気させ、興奮したようにアークダインが俺を指差した。


「魔皇帝の名に於いて命ず。…我が帝国のため、『あいどる』を結成し『ぷろでゅーす』せよ」


「はい、我が君よ」


せっかくまた新たな命を得て、しかもやりたかったアイドルのプロデューサーになれるのだ。

こうなったらとことんやってやろうじゃないか。

そんな決意が心の底から溢れてきていた。


こうして俺の魔界プロデューサー活動記がはじまる。

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