魔皇帝に召喚されました
きらびやかな衣装に身を包んだ美しい少女たちが、全員の手を重ねて円陣を組んでいる。
「デビル・コンチェルトはここからはじまる…!みんな、がんばろう!」
「「「おーっ!!!」」」
掛け声と同時に少女たちがさっと散り、それぞれステージへと駆け出していく。
アイドルユニット「デビル・コンチェルト」、本日が記念すべきデビュー公演。
4人の少女たちは、全員モンスター。
崩れかけた笑顔が素敵なゾンビの「ミユ」。
妖艶な容姿だが、実は奥手なサキュバスの「アイラ」。
寡黙で皮肉屋なヴァンパイアの「マリィ」。
他の3人より年上なウンディーネの「レジーナ」。
種族も容姿も性格もバラバラな4人の少女たち。
魔族を統べる皇帝陛下直々の命令により、帝国全土に展開する兵士たちを慰問するために結成されたスーパー☆アイドルユニット。
それがこの「デビル・コンチェルト」、通称「でびこん」である。
駆け出していく彼女たちを、幕の裏から不安げにそっと見守っている俺こそが「デビル・コンチェルト」専属プロデューサー、高橋大和 (たかはしやまと)だ。
諸事情により、なぜかモンスターアイドルユニットをプロデュースすることになってしまったのである。
そう、思い起こせば数ヶ月前のこと…
すべては、俺の自殺からはじまった。
数ヶ月前…
大学時代の親友と起業したITベンチャーで、33歳の俺はそれなりに充実した毎日を送っていた。
給与こそ多くはなかったものの、自分たちの好きなことで稼ぎ、上司にへいこら頭を下げなくてもいい。
俺自身はプログラミングなどほとんどできなかったが、どうやら組織運営の才能に恵まれていたらしい。
ただの学生の集まりだった会社を組織化し、人事制度を整え、個性的なメンバーをなだめすかして舵をとる。
天才プログラマーだったが奇人で扱い辛い親友に代わって、組織を束ねる中核的存在だったと思う。
創業数年で新興市場に上場を果たし、順風満帆のはずだった。
さぁこれから会社を一気に拡大しよう、というところでとんでもないスキャンダルに見舞われた。
天才ゆえに女慣れしていなかった親友が、暴力団に繋がりのある女に騙されていた。
社長の立場を利用して膨大な経費を使い込み、気がつけば運転資金にすら事欠く火の車。
泣いて許しを請う社長をぶん殴り、それでも従業員のために死ぬ気で銀行に土下座して周る。
これまでの実績を担保代わりに、なんとかつなぎ資金を集めたと思ったまさのその日の晩。
会社の命運を賭けていた新規プロジェクトのコアとなるプログラムを、かつて親友だった男が持ち出してそのまま女と消えた。
信じていた友に二度も裏切られ、俺は笑うしかなかった。
当然のごとく会社は倒産し、連帯保証人だった俺に残ったのは莫大な借金だけ。
職を失った従業員には恨まれ、金融機関の担当者には罵られ、俺の心は空っぽだった。
何もかもを失った俺は大量の酒と睡眠薬を用意し、大好きだった音楽を爆音で流していた。
仕事に明け暮れた俺の、唯一の心の慰めがアイドルグループのRiPPS。
お気に入りのヒットソング「funky tulip」に身を委ね、俺は死の眠りへと墜ちていった。
「来世があるなら…アイドルのプロデューサーになりたい…」
それが俺の前世の、最後の思考だったと思う。
…気がつけば、異常に天井の高い神殿の一角のような場所に佇んでいた。
あたりは薄暗く、足元には奇妙な文様の魔法陣が鈍い光を放っている。
細かい装飾の施された太い柱が何本も立ち、中心には巨大な祭壇が設えられている。
「こ、ここは…」
気がつけば、目の前に超イケメンが立っていた。
美しい銀髪に、血のように紅い瞳、うりざね型の輪郭。
誇りと気品に満ちたその顔立ちは、明らかに男が貴人であることを示している。
一点だけ、普通の人間と異なるのは、頭から黒々とした立派な角が2本生えていることだ。
「あ、あくま…?」
思わず声を漏らすと、男は傲然と微笑んだ。
「いかにも。余はディアボロス魔帝国第三代皇帝にして、すべての魔族の頂点に君臨するもの…異邦人よ、無礼は許そう。だが、名前ぐらいは聞かせて欲しいものだな」
それが俺の運命を変えることになる男-魔皇帝アークダインとの出会いだった。