十師の集い
武装召喚の説明だけ。
生まれた時に定められた力『才』。それの一つである武装召喚は、異空間から武器を召喚&リターン(収納)することが出来るスキルです。
真っ白く清潔……悪く言えば無機質極まりない部屋。
軽いホールとも呼べるくらいに大きな部屋の中心には幾つもの宝玉が散りばめられた大仰な机と椅子が置いてある。どれも一目見ればどのくらいの価値を持つかが理解できるほどの業物だ。
低く響く音が部屋を満たす。巨大な扉が開かれたのだ。
現れたのは同じく巨大な大剣を背に負う赤髪の青年。その身から発せられる威圧感は深く、重い。
彼が椅子に腰かけた頃、また数人の人物が部屋に入ってきた。
「おや……流石エリートは出席も早いねぇ……レグ」
「はっ、ついさっき来たばかりだよ」
そう声をかけたのは血相の悪い痩せこけた体格をした青年……水師コーレントだ。レグナイトとは古い付き合いで、親友同士だがはたから見れば仲が悪いようにしか見えない。
「アンタ等も相変わらずだな。まぁ馬鹿なんだから仕方ないんだろうケドさ」
「ふふ?見てるこっちは飽きないわ…」
続いて入ってきた雷師エリキィと光師リリィはそうコメントする。数年前、同じ学年として征服者学園で過ごした彼らは簡単には切れない絆で繋がっていた。
二人の顔を見てレグナイトは驚いた顔をする。
「お!エリキィとリリィじゃねーか!懐かしいなー……何カ月ぶりだ?」
「ハハッ!あの頃から1年は過ぎてんだろ」
「そうか……もうそんな経ったのか」
「ええ……征服者学園が襲撃されたのはそのくらいの時だもの」
そんな話題に場が盛り上がってきた時、更にまた数人が部屋に入ってきた。
「なんだ…みんな早いんだね」
「おうおう……久しぶりの重要会議だというから来てみれば…浮かれてる奴らばかりじゃぁ無いか」
「……ちょりっす!みんな久しぶりだねー!」
「…………。」
順に闇師ノクターと土師ソイル、音師ペイン、そして毒師テスアだ。彼らも少し遅れてやってきたようだった。
「まだ来ていないのは……ブロウとフロスト…か。まぁブロウの方は来ないだろーけどな」
レグナイトとコーレント、ブロウとフロストは学園でも有名な面子だったが、かの征服者学園崩壊後はほぼ交流が無かった。それはレグナイト自身がよく知っているが、お互いのするべき事はもちろん、住む場所も異なっていた彼らが道を違えるのは道理だろう。
その時、場の雰囲気が変わった。
突然静まり返った部屋、その原因は一人の男が現れた、ただそれだけ。
彼が纏っていた威圧感はレグナイトが纏っていたそれとは全く異質のもの。それもそのはず……彼はその権力から全ての国の法律、重税を思うがままにし世界を恐怖に陥れている張本人なのだから。
「おお……みなさん既にお集まりでしたか…おや?フロスト君が来てないようですが……」
「……お久しぶりです。アルフォンスさん」
軽く撫でつけたようなオールバックの男。綺麗に小洒落たスーツに身を包む彼は軽い足取りで席に座る。
「ブロウ君は来ないみたいですね?まぁ来てもらっても困るんですが」
「……??」
アルフォンスが笑う。レグナイトは彼が笑うのを何度も見てきたが、慣れはしない。形容しがたい程、不気味に笑うからだ。
背筋が冷えるような声が更に響く。
「いえ、彼が遠くの地に行くのを見計らって皆さんをお呼びしたんですから。フロストさんが来ていないのはちょっと意外ですけどね」
「なぜそんなことを……?」
アルフォンスはそれに答えず、立ち上がる。着席した全員の視線を浴びながら、彼は語り始めた。
「君達が学園を去ってから早一年……君達には十師としてあらゆる任務を受けて貰いました。その中には危険極まりないものもあったかと思います。狂獣病にかかった魔物の退治、大量発生した竜種の駆除……」
暫く間を置き、続ける。
「私は不安になったのですよ。君達がこれからも無事に生きて勤めを果たせるかどうか、が」
彼は武装召喚により二つの刃……月と太陽をモチーフにした双剣を異空間から取り出した。
それを軽く薙ぎ、大きな衝撃が放たれ。
部屋の一辺が大きく崩れ落ち、
現れたのは禍々しい肉体と風貌を持った、ドラゴン……深淵龍。
「!?」
人を憎むといわれるこの龍は何故かアルフォンスを無視し、十師達を襲った。
背より無数に生える触手がその鋭い先端をレグナイトとエリキィに向ける……!
刹那、目にも止らぬ速さで接近した触手は二人を襲う。反応しきれなかったエリキィをレグナイトが横から突き飛ばすが、受けきれなかった触手が肩や腕をかすり血が吹き出た。
「……っく!」
武装召喚『ラグナロク』。レグナイトは背中に背負った巨大な大剣を構えると同時に、もう一つの大剣を異空間から召喚する。
更に魔法詠唱。触手を薙ぎ払いながら先程受けた傷を治癒により完治させる。
「ほう!流石はレグ君だ!やはり君は私が知ってるヒトの中でも断トツで優秀だよ!」
そう叫ぶとアルフォンスはコーレントに斬りかかった。
咄嗟に召喚した槍で受け止めるも、驚異的な腕力で空中に打ち上げられるコーレント。アルフォンスは打ち上がった彼に、容赦ない魔法弾の連射を打ち込んだ。
「っくは……!」
魔法弾が直撃した腹部から多量の血が流れ出る。それを見ていたリリィが即座に回復魔法を唱え始めた……が。
「ぬん!」
恐ろしい速度で肉薄しようとするアルフォンスをソイルの槌が止めた……と思われた次の瞬間、軌道を読み、動きに合わせたアルフォンスの双剣がその体を切り裂いた。
動きが全て読まれているのだ。
レグナイトはその刹那の出来事を見ていたが加勢が出来ない。深淵龍はそれほどまでに凶悪な能力を誇っていた。
上下左右から高速で迫る触手を、薙ぎ払い、時には魔法で焼き尽くすがその数は一向に減らない。ここで痺れを切らし攻め込めば、未だ無数に残っている触手に貫かれるだろう。
しかし、そう考えている間にも圧倒的な戦闘力を持っているアルフォンスに味方が切り刻まれるのだ。
次に刃の餌食となったのは、ペインだった。
「うちのダチに、手ぇだすなぁっ!!」
魔法詠唱。広く突き進む音の衝撃波がアルフォンスに迫る。
「……君の魔法は雑ですねぇ」
二つの双剣が地を叩き、轟音と共に岩のかけらが舞い散る。その岩が音の衝撃波と衝突し、更に粉々になった。いくつか残った岩をアルフォンスは弾き飛ばす。
辛うじて岩を避けきったペインの眼前には双剣を振り上げたアルフォンスの姿。
「い、嫌っ……!」
……ザシュッ。
「おやおや……君達はこの程度の実力だったのですか?」
返り血を浴びたアルフォンスはケタケタと笑う。
回復を終えたコーレントとノクター、そしてエリキィが同時に襲いかかるが、結果は空しく。地に伏せる三人。
攻めあぐねていたテスアも瞬時に弾き飛ばされ、堅い石柱に打ち付けられてしまった。学園でも戦闘能力はかなり低かった彼女はアルフォンスも知っていたはず、だが全くの容赦がなかったのだ。
「……………」
半分意識が飛んでいたコーレントだが、槍を支えにして立ち上がる。その目はアルフォンスを強く睨んでいた。
「なぜ……なぜここまでするんだ…」
「言ったでしょう?君達の実力を図る為なんです」
「ふざけるな……!みな死にかけてるだろうが……!」
「それは弱い君達の責任ですからね」
アルフォンスはゆっくりと近づくと、更に横薙ぎに一撃。コーレントは血だまりに沈んだ。
「コーレント……みんな……!」
残りは深淵龍と今もなお一人で戦い続けているレグナイト、そして回復魔法を唱えているリリィだった。
「さて……そろそろこちらも終わりに……ん?」
アルフォンスがリリィの方を向き、襲いかからんとした時。戸惑った声がその喉から吐き出された。
この部屋の扉が再び開き。
氷師と風師の姿が現れたのだ。
目の前の惨状を見て、風師がまず口を開いた。
「……これは……」
「危機一髪と言ったところかね?リリィ」
「ブロウ…!フロスト…!」
彼らを見たアルフォンスは未だ訝しげな表情をしていた。
「なぜです…?フロスト君はともかくブロウ君は……」
「いや……俺も来る気は無かったけどな……」
「まぁまぁ。私が無理を言って来てもらったんだよ。アルフォンスが何か企んでる気がしてね。まぁその予想は大きく当たっていた様だが」
「……ふん」
アルフォンスは少し憎々しげな表情になると、二人を無視してリリィの前へ躍り出る。
しかしその刃がリリィに触れる事は無かった。
刹那に接近したブロウの召喚した四剣が、彼の双剣を受け止めたのだ。
「……君達が来るとこれだから嫌なんですよ。あなたは反抗期ですか」
「ふん……笑わせるな……」
先程の圧倒的な戦闘力を見せたアルフォンスが、次は空中へ打ち上げられる。
空中で体制を整えた彼をブロウは右、左へと四剣を仕向ける。ブロウの放った斬撃を全て受け流し、目にも止らぬ速さで反撃の刃を撃ち出した。
それがブロウの胸に突き刺さる。
「………余所見すんなよ」
いや、突き刺さったと錯覚するほどの距離まで引き寄せて、避わされたのだ。
アルフォンスの背に衝撃が走る。
真下に叩き付けられたアルフォンスは壮絶な音を立てて地面に激突した。
驚いたことに、落ちた場所には氷の結晶が積もっており、激突した衝撃をやわらげたようだ。
「どうだ……反省したか」
「ラスネ?君はバカかね?征服者がこの程度で反省するなら世界はもっと平和だろうに?」
「……君達が揃うと…本当にこちらのペースが崩されますね……」
彼はのそりと起き上がると指を鳴らす。その一つで深淵龍の動きが完全に止まる。刹那、動きが止まったその巨体を炎を纏う大剣が叩き斬った。
深淵竜の巨体から吹き出す、濁流の様な血を浴びたレグナイトは、その鋭い目をアルフォンスに向ける。
「テメェ……覚悟は出来てるんだろうな……?」
「いえ。君達の実力は十分にわかったのでここで切り上げたいと思います。それでは」
その言葉と共にアルフォンスの姿がかき消えた。レグナイトは暫く唖然としていたが、地面に一度に大剣を打ち付け……血まみれになった仲間達の治療を始めたのだった。
倒れていた仲間のキズには氷が貼りついている……どうやらフロストがここに来たと同時に止血したのだろう……。
「すまん……俺が早く奴を片付けられれば…」
レグナイトはずっと一人でそんなことを呟いていたのだった。
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