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救世主さまはヘタレ  作者: 夕籠
旅に出る前
6/27

03

※今回は後書きの部分もお読みくださいませ



 さぁやって来ました。訓練場に。俺の処刑場に。




 凄いなお姫様。アンタのたった一言でこの広い場所を貸し切り状態にするなんてさ。


「さ、これで思う存分やれるわね」


「いやいや、俺ら戦う必要ないですよね?ね?冷静になりやしょうや姫様」


 再び白い剣を鞘から引き抜くティルカ姫。アレだね、気合が充分に満ち溢れていて迫力がありますね。俺はこれ以上にないくらい頭を横に振る。必死過ぎて口調が変わるくらいだ。


「男ならサクッと覚悟を決めておしまいなさい。みっともなくってよ」


「無理無理無理。アレだからサクッと覚悟を決めたら俺もサクッと殺られるからッ!!」


 ティルカ姫は面倒臭そうに剣を構えながら言い捨てる。対する俺は早口で喚きながらジリジリと後退して行く。俺、間合いに居たら殺されるわ。


「そう。じゃあ、ぐだぐだぬかす暇も与えなければいいのね?」


「へぁ?!」


 ティルカ姫は恐ろしい程のスピードで剣を俺目掛けて振り下ろす。ビュオンと風を切る音と俺が奇声を上げてしゃがんだのは同時。早いですお姫様。剣を振り上げる動作が速すぎて見えないって相当だ。その一撃で俺の結わえてある緋色の髪の一部が犠牲となった。


 はらりと散る緋色にティルカ姫は少し口の端を上げた。にこりというよりにやりと効果音が付きそうなその笑みに俺は背筋が寒くなった。ヤバイ、あれは本気だ。


「へぇ、避けられるのね。一応は。少しだけ安心したわ」


「一応は余計だ」


 心底馬鹿にしたような嘲笑に俺は反射的に反論した。


「ハッ。まだまだ余裕なわけね。流石救世主様だわ。なら手加減しなくて良いわよね?」


「え?……そこはして欲しいかなぁ」


 嘲るようなティルカ姫の言葉に俺は思わず言葉を濁す。語尾は尻すぼみに小さくなった。


「しなくて良いわよね?」


「ハイィッ」


 ティルカ姫は俺の懇願に近い呟きをまるっと無かった事にして笑顔で脅す。俺は脊髄反射のように肯定してしまった。日頃の習慣は恐ろしいものである。


「良かったわ。わたくし、手加減は苦手なのよ」


 俺の言葉を受けて満面の笑みを浮かべるティルカ姫。


「精霊王よ、契約者が告げる。契約の名の下に力を開放せよ」


「うぉ!? 眩しッ」



 剣を空に掲げ、魔法陣を展開するティルカ姫。魔法陣は眩い虹色の光を放った。そしてその光は俺の目を直撃した。思わず某大佐のように「目がぁ目がぁ!!!!」と叫びたくなった。


 光が晴れた時、そこには空に浮かび悠然と構える美人さんがいた。中性的な顔立ちと神秘的な雰囲気で性別が分からない。白銀の長い髪は何故か虹色の光を帯びていた。


「我は精霊王なり。古の契約に基づき力を行使しよう」



 威厳に満ち溢れた声で精霊王は俺にとっての絶望を告げた。



 ちょッ。ちょいとお待ちになって下さいなティルカ姫よ。アンタ単体でも俺死亡確定なのにさらに戦力を増やすとか……鬼畜か。やべぇよ、これ確実に俺終了のお知らせだわ。まだ連載始まったばっかなのに完結のお知らせだわぁ。主人公死亡で終わりとかダメだろ。


 俺は混乱する頭をフル回転させて活路を見出そうとする。もちろんその間にもティルカ姫の剣による猛攻は止まない。俺の逃げ足スキルを最大限にしてギリギリに避けられる剣撃は徐々に早く、重く、正確になって行く。現に俺の服は所々破け、血が滲んでいる。


 精霊王はその様子を目を細め傍観する。よし、そのまま傍観しててくれ。俺の生存のために。


 俺は軽く舌打ちし、腰に装備している鞄から秘密兵器を取り出し、



「さて、反撃開始しますか」



 ティルカ姫に向かって不敵な笑みを浮かべてやった。



 チートだからなんだ。ヘタレだって追い詰められればやるんだぞ。それを証明してやる。俺はちょっとだけ覚悟を決めた。



 人間、吹っ切れるものである。どっちに転んでも死亡確定なら無様にでも足掻いてやろうじゃないか。











 ハルが国王と話していると慌ただしく城の兵士が謁見の間の扉を開けた。


「陛下!大変ですッ!!」


「なんだ。騒々しい」


 相当慌てた様子の兵士に国王は冷静に返す。


「いえ、それが……ティルカ姫様が」


「ティカがどうかしたのかの」


 兵士の口から愛娘の名が出ると国王は一転して顔色を青くした。“ティカ”とはどうやらお姫様の愛称のようだ。そんなに変わらないな、とハルは内心思いながらも黙って見守る事にした。


「ティルカ姫様が救世主様と決闘をなさっているそうです」


「なぬッ!?」


「それも訓練場を貸し切り、中に人を入れないようにして。だそうです」


 兵士の言葉を受け国王は愕然とした。青くしていた顔を更に青白くさせ、玉座から立ち上がる。威厳崩壊もいい所だろう。


「それはイカン。行くぞ、ハル殿」


「え?ああ、はい」


 慌てて先を行く王にハルは唖然としながらもついて行く。


 王が慌てた理由についてハルは首を傾げるしかなかった。



 ついでにはぐれたレオは大丈夫かなぁと呑気に思いながら。






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