02
どうしてこうなった。
今俺の目の前に美少女がいる。年の頃は十四、五だろうか。うん。そこまではいい。ゆるいウエーブのかかった金髪に宝石のような輝きの赤い瞳。そして肌荒れの一切ない白い肌は玉のように美しい。整ったその顔は十人中十人が美少女と言うくらいに綺麗だ。こんなに整った顔を見るのはハル以来かもしれない。雰囲気は高貴なオーラという物が感じられる。やっべ、今までに会った事のない人種だ。緊張を通り越して震えが来るわ。
問題は。その美少女が仁王立ちで俺を蔑むように見下ろしているのと俺が美少女に土下座をしている事くらいだ。お陰でね、顔上げられませんよ。さっきから地面ばっかり見ています、俺。蟻の数とか数えてます。
「貴方が未来の救世主ですって?ハッ。笑わせないでよ」
美少女が沈黙を破った。その暴言とも言える言葉と共に嘲笑を浮かべる。つか今鼻で笑ったよな?いいのか高貴な方よ。「はしたなくってよ」とかツッコんだ方がいいのだろうか。俺は少しだけ顔を上げてその光景を見た。まぁ、年下の少女にここまで言われて悔しいかと言われれば……。
「まじすいません。チート様」
まったく悔しくない。即答に近い時間で俺は答えた。上の思考だって約一秒間でやったものだ。凄いね、俺。危機感を感じると人間やれるものである。いやだってね?目の前にいる美少女さん、チートなんですよ。魔力量だけで実力者の百倍とか化物クラスなんですよ。そんな人物に土下座を躊躇っていたらすぐにでも俺終了のお知らせがくるに違いない。オワタとかを超えるレベルである。
「……ないで」
「は?」
なにやらプルプルと震える美少女。泣いて震えているというよりは怒りのあまり震えているようだ。だって憤怒のどす黒いオーラが俺には見えるよ。おお怖ッ。
「ふざけないでッ!! 人を馬鹿にするのもいい加減になさい!わたくしを誰だと思っているのですか!?」
「……え?誰?」
激昂した美少女は喚くように俺に怒鳴る。俺は目の前の美少女に心当たりが無かったものだから本気で首を傾げてしまった。だって俺美少女の知り合いなんていないし。ぐすん。
「わたくしを知らないですって……?」
「え。ああ、うん」
怒りで震える声で美少女は俺に問いかける。赤い瞳がカッと見開かれる。俺は怖さと困惑でしどろもどろな態度になってしまった。
スラリ。
美少女がおもむろに腰の剣を鞘から引き抜く。細身のその剣の刀身は白く、金の飾りがあるものの造りはシンプルに見える。アレか、飾りを削いで威力を重視させる的な。
そしてその剣先をピタリと俺の首に当て美少女は重く口を開いた。
「わたくしを知らないなんて無礼も良いところだわ。一度だけ言ってあげる」
どこまでも上から目線の言葉を吐く美少女。その強い意志を秘めた赤い瞳は冷酷な冷たさを感じる。そう、まるで人の上に立つのが当たり前のような雰囲気だ。
「わたくしの名前はティルカ・ニーシェ・アルカディア。この聖王国の第一王女にして精霊王の現契約者よ」
その言葉に驚きでフリーズしていた俺は更に混乱した。この聖王国のお姫様は有名である。国一番の美少女としても有名なのだが、何よりもその強さで有名になっていた。剣の腕前、魔力量、どれをとっても最強。かの英雄王と契約していた精霊王と契約してからは使えない魔法はないとまでされている。お姫様は英雄王の末裔で代々王家で精霊王の契約は受け継がれている。
まさにキングオブチート。チートの頂点のような少女なのだ、彼女は。あ、女だからクイーンオブチートか?ま。どっちでもいいか。
「未来の救世主だったらわたくしと決闘しなさい」
剣先を俺の首に当てながらの美少女、ティルカ姫は挑発する。命令口調の中に俺を蔑む響きが含まれているからだ。が、しかしである。挑発する相手を間違えたな、姫よ。
「Why?! ナゼですかー!! 俺一般ピープルですヨー」
俺をキングオブヘタレと知っての言葉とは思えない。だって俺恐怖のあまり言葉が誤変換起こしてるし、お陰で一部片言だから。
「だから?」
OK。俺に死ねとおっしゃる訳ですね。だから?の一言の中に威圧感含まれすぎです。俺ガタブルしちゃう。
「貴方に拒否権はないわ。でもそうね、ここでやるにはちょっと狭いわね。ちょっと移動するわよ」
「ああ……俺の最期の時間ですね。少しでも懺悔しろと」
「貴方ってひねくれてるのね。ま、そうとって貰っても構わないわ」
俺の嘆きの言葉を鼻で笑い、ティルカ姫は踵を返す。俺の腕を掴みながら。
Oh……逃げられないぜ。あれ?俺どっから間違えたのかな?あれか、城でハルとはぐれたからか。それでもって迷子になった俺が城の中を冒険したからか。
「ふふふ。楽しみね」
楽しそうに笑うティルカ姫。可愛いその笑みも俺にとっちゃ悪魔の笑みにしか見えない。
これはもう……俺の死亡確定じゃね?
ヒロイン(?)のご登場。
と言っても好感度がめっちゃ低い(笑)