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三分の一

 いまにでも芋として洗いながせそうと思えるほどの黒山の人だかりは、用紙に自らの氏名が綴られる掲示板から半径を色鮮やかな頭髪が押し寄せていて近づけないでいた。

 その側に、ひょこひょこと跳ねる稲穂の色を帯びた蓬髪の小柄の女の子が目前に聳えた頂上を目指す登山家の如く、間を割りきりながら奥へ体を忍び込ませていく。そのうち、無機物を吐き出す魔物のように弾かれてしまうも、目的を果たし終えた女の子は肩を上下に揺らしながら膝に手を付けて暫く動けないままでいた。


「……元気ですか?」


 弱々しい拳を掲げながら応答してくれた。


「あたしと……千秋ちあきは……っ! クラス……一緒……っ! 」


 荒息に語る女の子__小柄なにとってはこの新入生たちの目白押しも、獣王から逃げ惑うバッファローのなだれ打つ群衆に巻き込まれる状況とほぼ等しいだろう。わかっていたはずの自分はなぜ、見放して離れた安全地帯で彼女を危険な役目を黙り眺めていたのか、針を左に回してき明すと答えは簡約。


 言い出しっぺは木ノ果で、じゃん拳に負けたのは木ノ葉だから。


「なんでグーはパーに負けるっていつ誰が決めたんだよ! 紙なんて石を投げつけられたら穴があいてグーの勝ちじゃん!」

「持論内容が危なっかしくて認めたくない」


 黒山から離れて教室へ向かう隣で悔しがる木ノ葉。少し前はチョキに対し、パーは鉄板だから腕を狙えば勝る! とか言ってたけどな。

 段差の右足左足繰り返す作業が、自由気ままに暮らしてきた体には苦痛だとだらしなく思う中、ふと目にした長方形の窓に視線を向ける。

 校舎から見られる景観は春のはじめと言えど新緑が生い茂る町並みと、この町の名物にもなっているまるでみどりの海原のような、そこいらの高層ビルが灌木だと思えてしまうほど巨体な世界樹が天を支える柱のように壮大とそばだてていた。


 この地域だけは、異様に成長のはやい植物が多い。

 青葉の絶えない緑地。それゆえ昔ながらの言い伝えで、経っても永久に枯れることなく幾星霜を生き続けている世界樹の寿命からもなぞり、この町は【永緑町えいろくちょう】と言う名称で一般的にあまねいている。近く流れる河原と空気は常に清澄であり、夏冬でも過ごしやすい環境でも有名で観光業も盛ん。わざわざこの町へ住所を移す人々も多くいる。


「【キー所持者ホルダー】の能力と、あまり関わりないけどね」

「千秋、何か言った?」


 木ノ葉の存在をさっぱり忘れていた。


「いんや。ほら、さっさと教室行こう。また一年間一緒のクラスだけど、よろしくな。 木ノ果」


 予想外にいきなりの台詞に驚いていたが、すぐ嬉しそうに満悦な笑顔を見せてこたえてくれた。


「うん! よろしく。千秋!」


 目的の階までやっとたどり着くことができたのだか、最後の段差を踏み入れた刹那。自分はまた一つ、忘れていた情報に気がつく。


「……なぁノさんや」

「なんやい千秋?」


 自分は互いに真正面で向かい合い、迫られたことで不意に顔を赤らめて少し動揺する木ノ葉の瞳を直視しながら、これから始まる三分の一との運命を選ばなければならない。



「自分らのクラスって……ドコ?」



 __チョキで負けた木ノ果は「チョキは二刀流だから拳なんかに負けないんだぁああ!!」の捨て台詞と煌めく涙をともして、再びあの黒山へ向かって階段を駆け下っていったのであった。


 ……帰りにジュースでもおごってやろう。



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