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起⑻
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かれこれあったが、二人は桜並木を抜け、都会の街を歩いていた。
麻美も涙は落ち着いて、今は無言で歩いている。目を少し赤く腫らしていたけれど、それもあまり目立ちはしない。
隣を歩く秋宮は、少し気恥ずかしいそうな顔をして歩く。彼女の肌の温かさがまだ服に残っているようだ。
五月蝿く賑わう街の中を静かに歩く二人。
よく見るとどちらも顔を少し赤く染めていた。
「あの…家に来ない?」
「あ…おう、お邪魔させてもらうぜ」
「じゃあ、着いてきてー」
「え? おい、速い!」
麻美は詠唱なしに少しの風を存在させると、空へ飛び上がった。秋宮の足元からも風が現れ、身体を持ち上げる。
「すげぇ、ここまでコントロールできるのか? 詠唱なしで!」
「私、風魔法に関しては誰にも負けないもーん」
麻美はいつもの笑顔でそう返すと、そのまま家まで一気に加速した。秋宮は細かい技術は苦手だったので、大人しくされるがままにした。
景色が過ぎ去ってゆく。
まるで、自分の記憶のように。
秋宮は、十歳までの記憶がなかった。