起⑺
♢♢♢♢♢
それは、間違いなく少女が石を彫って作った人形だった。
人形のはずなのに。
それは意志を持っているようであるのだ。
「そいつは…」
「………」
少女は何も答えない。
操作魔法の可能性もある。しかし、ここまで高度な動きをさせることは相当に厳しい。それに、石人形は声を発し、終いには少女の手を無理矢理飛び出していた。
まさか、命があるなんて言わないよな。
隼人は冷静に問う。
見た目には、だが。
「そいつは心があるのか?」
「………」
「なにも…言わないんだな」
少女は怯えているだけで、反応を示すことはない。それはつまり、言ってはならない、言えない事なのだろう。
ならひとつ、単刀直入に聞くしかない。
「禁忌か?」
「え…?」
反応した。つまり、これは肯定したことになるか?いや、まだ足りない。
でも、やっぱりこれは禁忌だ。
そう、音が教えてくれる。
石人形はまたも声を発する。
「マザー。ばれたなら仕方がありません」
「ええ…あなたが飛び出したのがそもそもの元凶ですがね」
「………すいません。苦しかったもので、つい」
「ばれたなら…仕方ない」
突然の迎撃態勢。なにも準備していなかった訳では無い。しかし、禁忌への動揺が、少し脳の回転を遅らせた。その一瞬、少女が魔法を発動させるのには充分な時間だった。
「質量変化…倍、倍、倍、倍、倍!」
「うおぉぉぉぉぉっ!」
石人形は質量を増してゆく。そして、3メートルを超える巨漢へと姿を変えた。
隼人も遅れながら魔法を発動する。
「ソードタイプ、カグツチ」
手を叩き、左手を軽く開くと刀の柄が存在した。それを握ると、右手の人差し指と中指を立てて並べ、刃の形を想像し、なぞりながら創造する。
その刃は火を燈した。
そのまま、隼人は守りの態勢に入っていた。
決して攻撃をする気のない、守りの為の構え。少女は刀に少し怯えと驚きの顔を見せたが、すぐに攻撃に移った。
それは一瞬だった。
次の瞬間隼人は少女の後ろをとっていた。
「…なぜ⁉︎」
少女は疑問を隠せないように呟いた。
「お前の『音』が俺に次の行動を教えてくれる」
少女は混乱する。
そして、ある場所に行き着いた。
「………まさか?」
隼人は不敵の笑みを浮かべ、言った。
『禁忌』