起⑹
♢♢♢♢♢
嫌な胸騒ぎがする。
隼人はスピードを上げる。
麻美の風は足を渦を巻きながら纏い、それはさながらバネのようだった。
ドクッドクッドクッ
とくんとくとくん
ふたつの鼓動が鳴っている。
ひとつは急に存在した。
『禁忌』という言葉が頭をよぎる。
「くそっ」
時間が惜しい。
この道には障害が多い。
隼人は地を蹴り空を舞うと、電柱や木を辿って駆け抜けた。
問題が起きているのは間違いなく風高内部である。それだけは確信できていた。
最後のカーブを曲がると飛ぶように校内に入る。
学校に着くと、目を閉じて、耳を澄ました。
たくさんの音が飛び交う。
『クラス替えどうだった?』
『ネクタイうぜー』
『眠い』
『…できた』
瞬間、隼人は自分のクラスへと向かった。
悪い予感が当たる気がする。
教室の前で呼吸を整えると、ドアに手をかけた。
ガラッ
教室には、長い黒髪を紫の紐で結わえた変わり者の少女が1人座っていた。
怯えているらしい。
予想は的中した。
「なにをしてるんだ?」
少女は首を横に振った。
なにも言う気はないらしい。
両の手のひらは何かを隠すように握られている。
「なにを隠してる、見せて欲しい」
少女はまたも首を横に振る。
何かを隠している手が変に動く。妙な違和感を感じる。
隼人はさっき聞こえた言葉を使う。
「できたってなにがだ?」
今度はあからさまにビクッと体が震えていた。少女は今にも泣き出しそうな顔をしている。その時だった。
「苦しいぞ」
低く太い声の主は少女でも、もちろん隼人でもなかった。
「いやっ!」
少女の手を振り払って飛び出したそれは、朝、器用に掘っていた石人形のそれだった。
♢♢♢♢♢
2人はなおも桜並木の道を歩いていた。麻美は時々桜を見ては、かわいーとか、きれーいとか、桜になりたーいなど呟いて笑っていた。
後ろをついて歩く秋宮は淡々と呟いた。
「本当は心配なんだろ?」
「…そんなことないよー」
麻美はこっちも見ずに答える。
「ならさ…」
秋宮は麻美の顎を持つと無理矢理自分の方へ顔を向けさせた。
そして、言う。
「なら泣くんじゃねーよ!」
「え?…あ、うわっ」
秋宮は麻美を胸に抱き寄せた。
彼女の頬には涙が伝っていた。
麻美は秋宮の顔を見ると、我慢の糸が途切れたように泣いた。
嗚咽を交えながら、泣いていた。
彼女はとても温かかった。
秋宮は頭をそっと撫でてやると言った。
「なにがあったか知らねーけど、ただごとじゃないんだろ?」
「…」
「隼人と約束したし、お前は俺がしっかり守ってやるからさ」
「うん」
「頭は悪くても戦闘はそこそこ強いんだぜ!」
「うん」
「だから、後で色々教えてくれよな」
「…うんっ」
最後の「うん」は、彼女が生きていること改めて感じさせてくれた。
桜は2人を包むように、そっと咲いていた。