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2/12

起⑴

直しを入れました。

春。


桜が咲き始める頃の卒業式を通り越し、次の学校生活へと心を入れ替えて、準備を進める春休みも過ぎた今日。


4月19日。


魔法を専門とする「私立風間之宮魔術師魔法高等学校」の入学式当日であった。


「ねぇねぇ何組だと思う?」


「まだ見てないのにわからないだろ。それに新しい学校なんだ。クラスメイト1人の名前だってわかりはしないだろ」


「わからないよー? 私と一緒になるかもだしさー」


「それは嫌だ」


「あからさまに言い過ぎーっ」


会話を弾ませている二人は、桜の紋章が輝く入学生だ。


可愛らしく頬を膨らませて怒ってみせる彼女の頭を、隼人は困った顔をしながらもポンと優しく撫でてやった。

彼女、麻美は機嫌を良くして可愛らしくニコッと笑ってみせると軽くスキップして校門をくぐった。

麻美は身長が低く、赤みがかった髪を左右に束ねている。態度と目以外は小さく、幼い印象を与えていた。

隼人は顔は整っていて身長もそこそこであるが、何か人を寄せ付けないオーラがあった。


麻美は話を続ける。


「一年生のクラス発表はどこにあるかなー? あ、あれだね」


「あぁ、人だかりが凄いな」


「私、見てくるよー」


そう言うが早いか、麻美はそそくさと歩いて行った。小柄な体型を活かしてするすると生徒たちの合間を縫って行く。


隼人と麻美は一緒に暮らしていた。といっても兄弟という訳ではない。2人は春休みに孤児院を出た身であった。

お金はあまりないので結局今も一緒に安くて魔法の使用に制限のないアパートに住んでいる。情けないかもしれないが、時々孤児院の先生にお世話になることもあった。とても優しいから甘えてしまうのだ。


♢♢♢♢♢


2078年。


魔法は生活の一部分となっていた。

火や水、慣れれば石や鉄などをその場に存在させることができるというもののことだ。

このレベルの魔法なら、一般市民でも中学校を卒業していれば習うというレベルのものである。

この学校は、それらを専門的に習うことで、これからの世界の技術の向上、政治の安定、国の立役者となるべく人材を育てるということを目的としている。つまり、応用を習う魔法のエリート養成学校である。

表向きでは。

しかし、裏の顔を知るものはごく少数と限られている。


隼人は裏の顔を知りながらも危険に身を投げ入れていた。真の目的を果たすために。


♢♢♢♢♢


隼人は麻美が飛び込んで行った人混みを眺めていた。エリート学校なだけに、みんな服装はしっかりしている。

などと思っていたら、麻美は跳んできた。

何かを抱えている。そのまま隼人の目の前に肩から落ちた。

隼人は慌てて駆けつける。


「おい!」


「タッチダーウン!」


心配した自分が馬鹿だった。こいつは異常に頑丈だし、アホだ。


「お待たせー」


「あぁ、待ってた」


「でさでさー、どーだったと思う?」


後ろに手を組んで背伸びをしながら顔をギリギリまで近づけた麻美の目は輝いていた。だいたいわかる。わかりやすい。


「一緒のクラスか」


「えー! なんでわかったのー! つまんなーい」


隼人はできる限りの冷たい目線を返してやるとクラス発表をこの目でしっかり確認した。麻美のさみしそうな顔はスルーする。

知ってる名前がひとつだけあった。もちろん麻美のことだ。

さっき言ったことが覆ったことへの恥ずかしさもあり、頭を抱えてそこらじゅうのものを蹴飛ばしてしまい衝動に駆られるが思い留まる。

何より学校生活、第一印象が大切である。ここで変人のようなリアクションを取れば、後々、この話が友達になったきっかけだー、になりかねない。いや、大いにあり得る。

しかし、とても残念であることには変わりない。

だが、彼女は今後のことを考えることも、思ったことを言わずに思い留まることも考えられないおバカさんだった。

それはもう、致命的に。


「隼人ぅ、早くいこーよー。あ! ダジャレみたいかも? 隼人早くー。すごーい! 私、天才なのかもしれない!」


くそっ。かなりの目線が俺たちに集まった。エリートの学校なだけに、バカな生徒は滅多にいない。

せめて冷たくツッコミをいれよう。俺はバカじゃない。


「はいはい、その図太い神経にかんぱーい」


少し、バカっぽいツッコミだったかもしれない。隼人は麻美の手を引っ張って逃げるように教室へ向かった。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


案の定、隼人の予想は的中した。

見事に第一印象を失墜させてしまったようである。友達を作ることはできなそうな状況になっていた。

そこに悪魔はやってくる。


「友達いないの? 私がなってあげるよー」


「お前ならいない方がマシだ」


「あらやだ! 同棲じゃん私たちー」


「それは…」


クラスメイトの視線が痛い。麻美と話すことはつまり、印象をスカイダイブの如く急落下させることとなる。

今では可愛らしくはてなを浮かべる顔が憎くて仕方なかった。


今のところよかったことは、教室が四階なだけに、景色だけは本当に綺麗だったということだけだった。



少し前のことを思い出す。


麻美は、無視されることが嫌いだ。無視をして1番ひどい目に合わされたのは二年前。中学2年生のときだった。

まるで酔っ払いのように同じことを何度も何度も連呼するごとに構ってやるのが面倒になった隼人は無視を決め込んだ。

連呼の雨が止んだので顔を上げると、麻美はブツブツ何かを呟いていた。隼人は何かと心配になって耳を潜める。

何か分かった時にはもう遅かった。


孤児院は半分燃えカスと化した。


幸い隼人と麻美の2人しかいなく、大事には至らなかったが、とにかくあの時の先生は怖かったし、麻美の魔力が恐ろしかった。

あれ以来無視はしないようにと心がけていたが、隼人の我慢も限界である。

隼人は無視を決め込んだ。

数分すると、麻美の言葉がプツリと止まった。

ドキッとする。

しかし、学校内ということが功を奏したのか、麻美は自分の席に突っ伏して黙り込んだ。何かを呟いている声が聞こえる。


校庭に落ちているとても大きな鉄塊が気になるが、この際知らなかったことにしよう。


世の中知らない方がいいことがたくさんあるのだから。



この世は理不尽だ。


こんなことの間にすでに周りの生徒は友達を作っていた。意外にも麻美の周りにも人が集まっている。

机から顔を上げた麻美は隼人の方を向くと、憎たらしさの限界のような笑顔でにやっと笑った。

なんであいつに寄って行って俺には誰も来ないんだ!


そんななか、

「くそ、他に仲間はずれはいないか!」


ひとり、馬鹿そうに騒ぐ奴がいた。

無論絡むのはやめた。いくら友達がいないからって、俺はあれには手を出さない。


世の中知らないことにしておいた方がいいことがたーくさんあるのだから。


他にはいないか教室を見渡すと、前の席の1番右に座るひとりぼっちの少女が目に入った。

少女は、他とは違う空気を放っているように感じた。

何か、複数の魂を持っているような。

音がそれを隼人に伝えていた。


少女は、器用に石を彫っている。


変わった少女は自分と似た鼓動の音がしているようだった。



そう、まるで、心に大きな穴が空いているような。

どうでしたか?

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