異世界は突然に
気がつくと星空が広がっていた
「‥はぁ!‥はぁ!‥はぁ!」
全力で走る体が軽い
伸びる腱も、衝撃を吸収する骨も
若かった20代絶頂期だった頃よりも調子がいい
「はあっ!‥‥ふうぅ。」
立ち止まっても動悸も穏やか
それ以前に、体から溢れるような力が漲っている
「嬉しいんだけど‥‥‥‥‥‥状況が掴めればな。」
星空も月も見えない空を仰ぐ
現在
絶賛迷子中
どっかの砂漠にて
「此処は何処なんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺、八坂 義鬼(32歳 独身 彼女募集中)は、最後の記憶が正しければ、VRMMOFPSをやっていた
Squad online
戦闘兵
斥候兵
工兵
救護兵
狙撃兵
の存在する大型オンラインFPS
安い名前だが本物に近い戦闘を売りにしていて
弾の口径が同じであれば、ベレッタだろうが、グロックだろうが、9mmパラベラムならば同じダメージ
銃はジャム《装填不良》や傷付くのは、当たり前
ファースト・エイドキットを使わない限り、ライフゲージが減り続けるなど
何かとリアル思考のオンラインゲームで人気を集めている
そんなVRMMOFPSの運営停止、最後の戦いに参加してた俺は、小隊レベルの人を率いて戦っていたが‥‥‥‥‥
何時の間にが気絶していて、家でのくつろぐ服装(白のスウェット上下+健康スリッパ)のまま、この砂漠に転がってた
すぐに行動出来たのは、砂漠が夜だったのと、この荒ぶる体を馴らす為だ
昼の砂漠だったら自殺行為、夜のなら動いても日射病にもならない
「自分に何があったんだ?」
大きめの砂丘を登り終えた所で腰を下ろす
「何だかな‥‥‥‥くそっ。」
つい、いつもの癖で右のポケットに入れてある筈の煙草に手を伸ばすが、入っていない事に気がついた
「ん?」
左のポケットの方に、堅い感触
取り出してみると、iphonが入っていた
「なんで林檎印なんだ?
俺は茸印のケータイの筈なんだが?」
タッチしてみると、〈読み込み中〉と書かれていた
「まだ、使えない事なのか。」
こいつは時間が経てばどうにかなるか
「ん?」
気づけば、少し距離があるが、遠くの方に幾つかの光が見える
「人か?」
まあいい、入ってみれば分かる
ゆっくりと、辺りを見渡し警戒しながら光の元に歩いて向かう事にした
歩き出してどのくらい時間が掛かったのかは分からないが、ただ一つだけ分かるのは
空がだんだん白み始めた
複数の光は消えてしまったが、だいたいの場所を予測して、己の勘で突き進んだ結果
「つ、着いた‥‥‥。」
煉瓦の塀で囲まれた小規模の町に到着
のどが渇き、ふらふらとした足取りで、町の中央に進み井戸を探す
町は煉瓦造りの家が並び、地面も煉瓦が敷き詰められ砂漠のど真ん中とは思えない、きれいな作りになっている
だが今はどうでもいい
水が欲しい
町の中心部に行くとそこには、噴水が設置されていたが残念ながら水は出ていなかった
辺りを見渡すと、路地のおくに汲み上げ式の井戸を発見
ふらつく歩みで井戸に近づき、井戸の中を覗き見る
井戸にはしっかりと澄んだ水があった
縄の付いた桶て水を汲み取り、全身に浴びる様にして水を飲む
スエットに水が染み込むが、のどの渇きが潤う感覚に快感を感じ、不快感は全くなかった
「生き返る‥‥‥。」
細胞一つ一つが蘇るような気持ちよさを感じていると、一晩中歩き回ってた反動か、強烈な睡魔が襲ってきた
「‥‥ち‥‥‥くしょ‥‥う。」
井戸にもたれるように、座った途端に、テレビを消したように意識がなくなった