犬のお散歩をしていたの
掲載日:2026/08/07
日常の散歩道で、ふと世界の裏側へ足を踏み入れてしまったような恐怖を描いた短編です。当たり前だと思っていた自分の立場が揺らぐ瞬間をお楽しみください。
犬の散歩をしていた。愛犬のハナが急に足を止め、闇に向かって強く吠え始める。
首輪を引き寄せて闇の先を凝視したが、そこには誰もいない。気味が悪くなり家へ引き返そうとしたが、ハナはてこでも動かず、狂ったように空虚な闇へ吠え続けた。
「もう行くよ!」
痺れを切らして強くリードを引くと、手元からするりと手応えが消えた。首輪から先がない。ハナはいつの間にか影すら消えていた。
混乱しながらパニックで周りを見回すと、暗闇の中から聞き覚えのある声が聞こえた。
「ハナ、おいで。変な奴に捕まっちゃダメよ」
声の主は、私だった。
私と同じ顔をした女が、ハナのリードを握って闇の奥からこちらを見つめて微笑んでいる。足元を見下ろすと、自分の影がゆっくりと消えていくところだった。
首輪を嵌められていたのは、ハナではなく私の方だったのだ。
ご覧いただきありがとうございました。
日常のすぐ隣にある違和感と、自分の存在そのものが揺らぐ恐怖を描いてみました。いつも通りの帰り道でふと静寂に包まれたとき、「いまの自分」は本当に元の自分なのか……そんな不気味な余韻を楽しんでいただけたら幸いです




